第2話 同盟

「それで…」

周りに人がいないことを確認して、七瀬が口を開いた。

「夕凪君…だよね?」

それを聞いて確信した。

俺の目の前にいるこいつは、七瀬ことはだ。

「そうだけど、そっちも七瀬だよな?」

「うん」

それから、俺たちはルールを決めた。

たった一つの、とても単純明快なルール。

『お互いの人物に、なりきること』

それから、俺たちは他愛のない話をしながら、弁当を食べた。

その時、自分の中に浮かんだ一つの疑念を思い出す。

そして、それを彼女にぶつけた。

「七瀬って、一宮のこと好きなの?」

俺がその言葉を発した瞬間、会話が止まった。

さっきまである程度賑やかだったのに、急に静かになった。

俺は少し後悔したが、それよりも知りたいという気持ちが勝った。

しばらくの沈黙のあと、彼女が口を開いた。

「好き…だよ…。」

「まあ、お付き合いはできてないんだけどね

「そっか…」

俺は、受けたショックができるだけ伝わらないように言った(つもりだ)。

そのあとは、気まずくなって、自然と会話も少なくなった。

しかし、休み時間終了5分前のチャイムがなったとき、俺は覚悟を決めて彼女と向かい合った。

「俺が、七瀬の恋愛を、手伝ってもいいか?」

言い出すのは辛かったが、好きだからこそ、彼女に幸せになって欲しかった。

「どうして?」

図々しいと言われるかもしれない。

でも、俺が七瀬のことが好きだということ、そして、だからこそ彼女に幸せになって欲しいし、最後まで見届けたいということ。

でも、俺の口から出たのは「面白そうじゃん」の一言だった。

人の恋愛に興味本位で首を突っ込むのは最低だ。

照れ隠しとはいえ、そんなことを言ってしまったら彼女に嫌われるだろう。

しかし、彼女は微笑みながら言った。

「頼んだよ、ワトソンくん」

俺は呆気にとられていた。

でも、これこそが俺の好きな七瀬ことはだ。

いつワトソンになったかはわからないが…

「ああ、任せろよ、ホームズ」


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