第25話 切り札、再び
「んっふっふっふ!来た来た、来ましたよぉ!」
仲間の攻撃魔法を食らったディアーレンは、ハイテンションな叫び声をあげる!
そして、それに呼応するように、奴の肉体は服を引き裂いて膨張していった!
だが、ごきげんにパワーアップを果たすディアーレンの背後で、攻撃魔法を放った魔族達が、こっそり舌打ちをする。
……たぶん、ワンチャンあれば変態上司を殺りたかったんだろうな。
当たり前だが、人望無いなディアーレン。
それにしても……。
「あれが、『魔力を吸収する能力』というやつですか……」
「は、はい。ああしてパワーアップしたディアーレンは、すごい力と速さを身に付けていました……」
魔族の葛藤はさておき、ディアーレンの変化を眺めていた私に、一度戦った事があるルアンタは、緊張した面持ちでそう伝えてきた。
ハイ・オーガにも負けないほど強くなっているルアンタが、これほど警戒するとは、なるほど、
ならば師として、またルアンタの保護者として、キッチリと借りは返さないとね!
「さあ、それでは残酷なショーの始まりを……」
『
芝居がかったディアーレンが仰々しく宣告するよりも早く、私の放った爆発魔法の一撃が敵の一団を飲みこんだ!
「せ、先生!?」
驚きながら、ルアンタが私の顔を覗き込む。
うんうん、奴に魔法は効かないと言いたいんでしょう?
「大丈夫、分かっていますよ」
「え……?」
「奴がパワーアップするのも、折り込み済みです。
「確かめたい……事?」
そんな怪訝そうに呟いたルアンタの言葉を、爆煙の向こう側から響いた笑い声が掻き消した。
「ふっはっはっ!無駄と言ったのに、馬鹿なダークエルフてすねぇ」
当然と言うか、予想通りと言うか、ディアーレンは全くの無傷であり、さらに肉体が肥大化している。
「極大級魔法とはいえ、一発で私をここまでパワーアップさせたのは、見事と言っていいでしょう」
「ええ、それが貴方の
私の返した言葉に、ディアーレンの顔から笑みが消えた。
「……私の限界?なぜ、そんな事がわかるのです?」
「貴方の回りにいる、部下達をご覧なさい」
指摘され、周囲の目が奴の側近である魔族達に集まる。
一見、極大級の爆発魔法に巻き込まれた割には、大したダメージも無さそうだ。
精々、表面が軽く焦げた程度だろう。
「……誰も、深傷を追ってはいませんがねぇ」
「ええ。しかし、貴方の周りにいた彼等に、魔法の影響はあった。それはつまり、貴方が吸収しきれなかった魔法の余波を、彼等が受けたという事ですよ」
「……ふむ」
余裕な態度は崩さぬものの、ディアーレンの顔がわずかに強張る。
「不意打ち気味だったから貴女の魔法を、すべて吸収できなかっただけの事でしょう」
「フッ……。何故、私が爆発魔法を使ったと思いますか?」
「あ……」
私の言葉で何かに気づいたルアンタが、ポロッと声を漏す。
ちょうどいいから、彼に答えさせてみようかな?
正解だったら、後でいっぱい誉めてあげよう。
「ルアンタ、気がついたようですね」
「は、はい!」
「なんです!何がわかったと言うんです!?」
焦りからか、ヒステリックに叫ぶディアーレンを指差して、ルアンタは答えを口にした。
「爆発魔法は、起点となるポイントを定めてから、爆発を起こさせる。そして、先生が放った爆発魔法の起点は、ディアーレン、お前自身だ!」
「そ、それがどうしたと!?」
「つまり、爆発が起こってから魔法を吸収したんじゃない!発動した魔法を吸収しきれずに漏れ出たのが、いまの爆発だったんだ!そう、さっき先生が言った通り、お前が魔力を吸収できる容量がすでに限界だという証明さ!」
まさに、その通り!
人目が無ければ、思いきり抱き締めて誉めてあげたいくらいの衝動を抑え、私はルアンタに向かって親指を立てた。
そんな私に、満面の笑みを浮かべるルアンタ。
うん、やっぱり私の弟子は可愛いな!
「ついでに言うなら、『魔法吸収は任意ではなく、自動で発動する』という事も解りました」
奴が言い訳に使おうとしたように、不意打ち気味だった爆発を認識してから魔法吸収を発動したのなら、間に合わなかった吸収前と、吸収しきれなかった限界後で、もっと側近の魔族に被害が出たはずだしね。
「そして自動で発動する以上、吸収する魔法の種類は任意ではないのでしょう。もしかしたら、回復魔法なども吸収して無効化してしまうんじゃありませんか?」
カマをかけるような私の推測に、ディアーレンは言葉を失って俯いてしまった。
フフフ、どうやら図星だったようね。
「たった一発の魔法で、ディアーレンの特性を丸裸にしてしまうなんて……さすがエリクシア先生です!」
キラキラと尊敬の眼差しで、私を見上げるルアンタ。
うむ、もっと尊敬してくれてもいいのよ。
「……………………くっくっくっ」
うん?
突然、項垂れていたディアーレンが、フルフルと肩を揺らす。
一瞬、泣き出したのかと思ったけれど、どうやら奴は笑っているようだった。
「くっくっくっ!いやぁ、本当に大したものですねぇ。貴女ほどの切れ者は、私の部下にほしいくらいですよ」
「……誘っているつもりなら、無駄ですよ。魔王と変態の下に、着くつもりは無いんですよ」
「おやおや、それは残念……って、誰が変態ですか、失礼な!」
どう見たって、お前しかいないじゃん!という、奴の部下も含めた全員の視線に気づかず、ディアーレンは憤慨していた。
だが、やがて落ち着きを取り戻すと、スッと目を細めて私を睨み付ける。
「しかし、私の限界値が知れた所で貴女方が有利になる訳ではありませんがね」
「なにっ!」
あくまでも余裕の態度を崩さないディアーレンに、ルアンタがわずかに動揺した。
ううん、素直なのはいいけど、もう少し駆け引きとか教えた方がいいかもしれないな。
そんな事を考えていた私にかまわず、ディアーレンは話を続ける。
「どんなに強大な魔法であっても、一度吸収してから余剰分を吐き出してしまえば、私が受けるダメージは皆無。つまり、そちらのダークエルフはいまだに魔法を封じられているも同然!」
そう、ならば後は肉弾戦あるのみ!
私の魔法を吸収して超パワーを得たディアーレンは、ムキムキと筋肉を誇示するようにポーズを決めた!
「貴女は危険です。部下にならないなら、ここで死んでもらうしかありません」
「ほぅ……私を殺れるつもりですか?」
「んっふっふっ、当たり前じゃありませんか。むしろ、限界までパワーアップしている私にどう対抗しようというのです?」
確かに、今のディアーレンは、さっきまでの貧弱な様相を微塵も感じさせない、まるで
パワーだけで言ったら、もしかするとデューナに匹敵するかもしれない。
しかし、それだけで私を倒せるつもりなら、舐められた物だと言わざるを得ないな。
「借り物の力で得た肉体など、真に鍛えた私には通用しません」
言いながら、私は『ポケット』から二つの魔道具を取り出す。
そう、私の
「おおっ!」
「あ、あれは何ですの?何ですの?」
そんな彼等の期待に答えるように、私は『ギア』を腹に充てて、『バレット』のスイッチを押した!
『バレット』から『
そうして、私は待機状態のそれを、『ギア』の
「変身」
その一言と共に、『ギア』を発動させる!
ゴオッ!と魔力の光と風が、渦を巻いて私を包み込み……やがてそれが徐々に納まると、対峙する魔族達が驚愕する中、『
フッ……決まった!
そう思った。思ったのだが…………あれ?
見せつけるようにポーズを決めていたものの、周囲はシン……と静まりかえっている。
あと、なんかルアンタ以外は唖然としてない?
ていうか、ちょっと引いてない?
これは……ひょっとして、盛大に滑ったのではないだろうかっ!?
ハイ・オーガ達の時に妙にウケたから格好つけてみたのに、ここではあまりの反応の無さから内心ドキドキしてしまう。
しかし、驚きの声は唐突に横から投げつけられて来た!
「何ですの、あれはっ!何なんですの、あれはっ!!!!」
凄まじく興奮し、息を荒げたヴェルチェが私を凝視している!
「ちょ、ちょっと、ヴェルチェさん!」
「あんな魔道具、見た事も聞いた事もありませんわっ!あんな一瞬で武装するなんて、まさに『変身』ですわねっ!」
ルアンタの制止の声も聞かず、私に駆け寄ってきたヴェルチェは、フンフンと鼻息も荒く、『戦乙女装束』をジロジロと舐め回すように眺めていく!
やだ、なにこの娘!ちょっと怖い!
「素材は……殆どがミスリル!なるほど、糸状にして編み込んでありますのね!しかも、装甲部以外を全身スーツ化する事で、鎧の繋ぎ目のような弱点部位を無くすという、この発想……」
さすがはドワーフの姫だけあって、的確に『戦乙女装束』を解析していく。
だが、異世界の知識とアイデアを盛り込んでいるこのスーツを、あまり分析されるのは面白くないな。
私は纏わり着くヴェルチェをひっぺがすと、猫でも持つようにしてルアンタに引き渡した。
「これから私は、ディアーレンを倒します。ルアンタは、奴の側近達から、その娘を守ってあげてください」
不本意……ルアンタを狙う泥棒猫の護衛を彼に頼むのは、心の底から不本意ではある!
しかし、戦闘能力があまり無さそうに見えるヴェルチェが、乱戦に巻き込まれたら万が一という事もあるかもしれない。
だから、仕方がないのだ。
後々、面倒になりそうで、本当なら嫌だけどね!
ため息を隠し、私は武器の無いルアンタのために、『ポケット』から一振りの剣を取り出して彼に手渡した。
その剣は、片刃で肉厚の直刀という刀身もさる事ながら、柄の所にある、私の『ギア』を連想するような、挿し込み口が特徴的だった。
「先生、これは……」
「本来なら、この『戦乙女装束』と併用するための武器ですが……私の弟子である、貴方にならきっと使えるでしょう」
そう言って、私はいくつかの『バレット』も、ルアンタに渡す。
しばらく目を見開いていたルアンタだったけれど、私の期待に答えるように、大きく頷いてみせた。
「『
「はいっ!」
「それでは任せましたよ、ルアンタ」
「はいっ、先生!」
信頼の籠った掛け声を互いに送って、私達はそれぞれの敵へと意識を集中した!
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