それだけはどうしても我慢できなかったのよ。

江戸川ばた散歩

前編

 まあ本当によく来てくれたわ。

 学校の頃からどれだけぶりかしら……

 お痩せになった? あの頃はとてもはちきれそうな程で、私、とても羨ましかったくらいなのに……

 ああ、そう。これが私の子供よ。

 今はよく眠ってるわ。

 可愛い? 可愛いでしょ。

 でもね、最近よ。ようやくゆったりこの子を見られる様になったの。

 ……ええ、とうとう離婚よ。

 どうしても私、これ以上耐えられなくて。

 せっかく子供も生まれたっていうのに、やっぱりどうしようもなかったのよ。

 可愛いでしょう? 

 本当に元夫にはこの子を授けてもらえたことは感謝しているのよ。

 でもどうしても許せなくて。

 浮気? 

 ……じゃないわ。

 少しは関係あるかもしれないけどね。

 まあ聞いて下さる?


 私達ね、彼の実家とは少し離れたところで暮らしていたのよ。

 お仕事の関係。

 だいたいそうね、馬車で三十分ってところかしら。

 彼のご実家で暮らそうって話もあったのよ。向こうは広いし。

 それに彼、次男だし。

 それにやっぱり交通の便が良くないのはちょっとね。

 だからやはり夫婦だけでやっていこう、っていうことになったのよ。

 今はそういう時代にもなってきたしね。

 出産はそれでも私の実家、ここでしたのよ。

 その方がいいだろうって。

 それでしばらくして、メイドを一人つけて、また二人の家に戻ってきたの。

 私達の暮らしではちょっと出費が、と思ったらしいけど、そこは彼が押し通したのね。

 通いよ。さすがに住み込みは今の時代無理。

 だから夜中とかは大変。

 さすがに私もくたくたになってしまうわ。

 それに、メイドが居るって言っても、彼女は育児以外の家事をしてくれるってだけで、この子の世話は全部私なんですもの。


 ところがある時から、お義母様が毎日の様に手紙や訪問をしてくる様になったのよ!

 手紙だったらすぐに返事を書かなくてはならないし、いらっしゃったなら、お相手をなさらないといけないし。

 で、その訪問が私、とっても辛かったのよ。

 だってお義母様って、ともかく話題と言えば、悪口ばかりなのよ。

 そうね、お義兄様の奥様の悪口に始まって、そのご実家、それにご自分のご実家、孫の出来、執事への愚痴、メイド達への愚痴、食事の愚痴、それにご近所さん。

 どうしてここまで皆嫌いなのかしら、と思う程よ。

 で、またそれが凄いことにまるで同じことではないのよね。

 愚痴って、多少ならいいけど、沢山聞くと何か気持ちが暗くならない?

 もう一日おきくらいに三時間くらいそれを聞くのよ?

 ちょっとどころではないわ。

 だから私、さすがにある時、爆発したの。

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