21 二日目②静かな厨房
ダグラスは館に戻ると、厨房の方に向かった。
「ガードルードさん、牛乳は何処に置けばいいんだ?」
「牛乳?」
ちらと見るとかまどの火を見ながら、ガードルードは湯を沸かしていた。
「ああ、牛乳。貯蔵室に入れておくれ」
言いながらも彼女は黙って湯が沸く様子をじっと眺めている。
やけに真剣そうで、彼の方を向く様子も無い。
「貯蔵室だな。判った……」
言いながら、奥までのぞき込んで彼はぎょっとした。
ヘッティとマーシャがどちらも既にその場に居たのだ。
しかもやはり無言のまま、ただひたすらに、いつ摘んできたのだろう、りんごの皮をひたすら二人して剝いていた。
「おい、どっか悪いのか?」
ヘッティとマーシャに向かって、ダグラスは声を張りあげる。
「どっか悪い?」
「悪い?」
つ、と二人して揃ってダグラスの方を向く。
「何も悪くはない」
「そう、何も悪くはない」
そしてまた、二人してうなづき、ひたすら手を動かす。
何となく気持ち悪く感じた彼は、ともかく貯蔵室に牛乳の缶を持ち込むと、馬と荷車を元の場所に戻しに行った。
「おはようダグラス」
「おはよう」
厩舎に行くと、イーデンが声を掛けてきた。
「なあ、何か厨房がやけに静かでな」
「厨房が?」
「いつもだったら、朝から湯を沸かすにもきゃあきゃあ言ってるマーシャとか、それを怒鳴ってるガードルードさんとか居るだろ、何か今日は…… なあ」
ダグラスは首を傾げる。
ぽん、とイーデンは肩を叩き。
「気のせいだろ」
そう言い放つ。
外回りの掃除をしつつ、馬丁の手伝いもしていると、あっという間に時間が経つ。
沸かしていた湯はまずは家族のためのものだ。
やがてメイド達が洗面器や水差しを手に行き来し出す。
「それにしても今日の坊ちゃまはもの凄くおとなにしてたわ」
フランシアは目を丸くして同僚に話す。
「何か、いつもだったら起こすのだけでもずいぶん時間がかかるのに、あたしが行ったらもうちゃんとベッドに座ってらして」
「あーそれでそっち、いつもより静かだったんだ」
チェリアは昨日の疲れからよく眠っていた愚図るマリアを何とか起こすのに苦労していたのだ。
「あんまり静かなんでお熱でもあるのかなと思っても、そんなことないし。いつもより低いんじゃないかって思ったわ」
「今日はきっと外駆け回って焼けて帰って来るんでしょうねえ」
くすくす、とメイド達は笑う。
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