19 一日目⑮夜中の声
サリーは思わずベッドから身を起こした。
「それは本当なの? エイブ」
「ああ。ダグラスはそう言った」
基本寡黙で実行力は高い彼のことを、二人とも良く知っていた。
信用もしている。
「とりあえず牛乳や肉に関しては、大きい家に頼んで来たらしい。明日朝搾った分はすぐに持たせるとのことだ」
「よかった」
サリーはほっとする。
「明日の狩りで何も獲れなかったらどうしようと思っていたの」
「何だ、そんなに僕達の腕に信用が無いかい?」
「そうとは言わないわ」
ふふ、とサリーは笑う。
「ただ、いつも行く様なところではないからどうかしら、と思って」
「昼にその場で捌いて焼いてやるさ」
「まあ」
実際に捌くのはダグラスなどの男性使用人だったが、エイブラハム自身もできない訳ではない。
「さ、明日に備えてゆっくり寝ようか」
「そうですわね」
部屋の灯りが落とされる。
*
……何だろう?
チェリアはふと、微かに聞こえる音が気になった。
一度眠ったのに、ふっと目が覚めた時に妙な音がすると、ついそれに気を取られ、なかなか寝付けなくなる。
「……んん…… んん……」
いびきとは違う。
そもそも彼女とこの日同室であるフランシアもマーシャもいびきはかかないはずだ。
だがその音が聞こえるのは、確かにどちらかの身体からだ。
「……フランシア……? マーシャ?」
問いかけるが、返事は無い。
寝言の一種だろうか、とチェリアは目をつぶる。何とか眠ろうとする。
「んんんんん…… んんんんんん……」
だがその声? は、小さいが、途切れなく続く。
明日は一日残って掃除なんだから! 眠らなくちゃ!
そう思った時だった。
ばさ、と毛布の音がする。
すぐ横のマーシャが、半身を起こしていた。
そしてそのぽかんと開いた口から、
「んんんんんん」
という音が漏れ続けている。
寝ぼけているの? そんなくせがマーシャにはあった?
そう思いながら、チェリアは毛布を頭までかぶって、耳を塞いだ。
夢だこれは夢なんだ。
そう思いながら、羊を数え始めた。シープスリープシープスリープ……
やがてチェリアの意識は本当の夢の中に飲み込まれていった。
だからチェリアは、その少し後、フランシアまでも音を立て始めたことを知らない。
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