19 一日目⑮夜中の声

 サリーは思わずベッドから身を起こした。


「それは本当なの? エイブ」

「ああ。ダグラスはそう言った」


 基本寡黙で実行力は高い彼のことを、二人とも良く知っていた。

 信用もしている。


「とりあえず牛乳や肉に関しては、大きい家に頼んで来たらしい。明日朝搾った分はすぐに持たせるとのことだ」

「よかった」


 サリーはほっとする。


「明日の狩りで何も獲れなかったらどうしようと思っていたの」

「何だ、そんなに僕達の腕に信用が無いかい?」

「そうとは言わないわ」


 ふふ、とサリーは笑う。


「ただ、いつも行く様なところではないからどうかしら、と思って」

「昼にその場で捌いて焼いてやるさ」

「まあ」


 実際に捌くのはダグラスなどの男性使用人だったが、エイブラハム自身もできない訳ではない。


「さ、明日に備えてゆっくり寝ようか」

「そうですわね」


 部屋の灯りが落とされる。



 ……何だろう?

 チェリアはふと、微かに聞こえる音が気になった。

 一度眠ったのに、ふっと目が覚めた時に妙な音がすると、ついそれに気を取られ、なかなか寝付けなくなる。


「……んん…… んん……」


 いびきとは違う。

 そもそも彼女とこの日同室であるフランシアもマーシャもいびきはかかないはずだ。

 だがその音が聞こえるのは、確かにどちらかの身体からだ。


「……フランシア……? マーシャ?」


 問いかけるが、返事は無い。

 寝言の一種だろうか、とチェリアは目をつぶる。何とか眠ろうとする。


「んんんんん…… んんんんんん……」


 だがその声? は、小さいが、途切れなく続く。

 明日は一日残って掃除なんだから! 眠らなくちゃ! 

 そう思った時だった。

 ばさ、と毛布の音がする。

 すぐ横のマーシャが、半身を起こしていた。

 そしてそのぽかんと開いた口から、


「んんんんんん」


という音が漏れ続けている。

 寝ぼけているの? そんなくせがマーシャにはあった?

 そう思いながら、チェリアは毛布を頭までかぶって、耳を塞いだ。

 夢だこれは夢なんだ。

 そう思いながら、羊を数え始めた。シープスリープシープスリープ……

 やがてチェリアの意識は本当の夢の中に飲み込まれていった。


 だからチェリアは、その少し後、フランシアまでも音を立て始めたことを知らない。

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