17 一日目⑬静かな食事

「おや、ずいぶんと甘い匂いが」


 ガードとミセス・エイムスが食堂に来た時には、既に他の使用人達は食事を終えていた。

 主人側でも食事は終わり、食器や鍋やカトラリーが湯と洗剤でひたすらに洗い上げられている。


「奥様は明日はお戻りになったらお湯を使われるとのことですよ。昼間お出かけになるからと言ってだらだらしないこと」


 はい、と皆キッチンで作業をしていた。


「あ、ミセス・セイムス、すみません、あんまりラズベリーのジャムの出来が良かったので、つい……」

「あら!」


 ミセス・セイムスは眼鏡の下の目をぱちくりとさせた。


「成る程この甘い匂いはラズベリージャムでしたか。良い出来なら良いでしょう。瓶に詰めて倉庫に保管しておきなさい。奥様達には、先に持ってきた方を津かっっていただきまますから」


 すみません~と若いメイド達の声が響いた。


「セイムスさん、牛乳は来ないのかね。朝はその点が心配だよ」


 ガードルードは鍋を磨きながら問いかける。


「肉はまあ、まだコールドの残りがあるにしても、牛乳はねえ。こっちで手に入ると思ったから」

「そうですねえ…… 持ってきたのは」

「一缶だけですよ。紅茶とクリームにするくらいで。腐っちまったら仕方ないし。チーズは塊をいくつか持ってきてるからいいんですがね」

「そうですか。管理人はもう、一体何処行ったんですかねえ……」


 ミセス・セイムスはガードの方を向き、ため息を付く。


「……ともかく近くの農家を見つけて頼むしかないですか。これからダグラスを馬で回らせましょう」


 ガードはテーブルの上にこの近辺の地図を取り出す。


「幾つかこの領地で働く小作が居る様です。管理人のことも一緒に聞かせましょう」

「そうして欲しいよ。何があるかわかりゃしない」


 ガードルードもそう言った。


「誰か、ダグラスを呼んできてくれないか」

「あ、はーい、私、行きます!」


 フランシアは泡だらけの手を挙げた。

 ぷっ、とそれが掛かってしまったマーシャは「何すんのよ!」とフランシアの鼻の頭に、泡を乗せる。


「遊んでないで、ともかくどっちでもいいから、行ってらっしゃい」


 そう言いながら、上級使用人の二人は食事を始める。

 通常の屋敷だったら、皆揃って食事を摂るところだが、状況如何である。

 黙々と食事を取り終え、お茶を淹れた時、ようやくこの二人は口を開く。


「明日の旦那様方の狩りで、何かしら収穫があるといいですね」

「全くですわ。まあ、あのお二人でしたら、ウサギか鴨か……」

「ウサギっ」


 ヘッティがその言葉に反応する。


「……そんな顔しないでも、剥いだ皮は取っておけば良いから、ちゃんと捌くんですよ」


 ふふっ、とヘッティはそう言われて笑った。

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