3 執事ガード氏とハウス・キーパーのミセス・セイムス
話は当然使用人達にも広がっていった。
このマードレー家の屋敷は、その家格、資産、交友の広さからなかなか大きなもので、使用人もある程度の人数を使っていた。
「……という訳で、このカントリーハウス行きだが、まず私の代わりは次期執事のトムスに任せる。あとミセス・セイムスと、料理長のガードルードは決定だ。あとのフットマン、ハウスメイド。キッチンメイドの君達は相談して決めたまえ」
執事のサミュエル・ガードは使用人達を集めてそう指示をする。
彼は当主のエイブラハムより十歳上の五十二歳。
まだまだ力はあるが、それでもそろそろ後継を育てなくてはな、と思っていたところだった。
「ここを引退したら、郊外の小さな家で、庭の手入れをしてのんびり暮らそうと思うのですよ」
よく庭師とそう話をしつつ、花や木のことを聞いていた。
長くこの家に勤めていたことから、蓄えもあれば年金も出る。
子供は既に独立している。
妻と供にのんびりと過ごしたいねというところだろう、と言われていた。
一方次期執事と見なされているトムスについては、皆がこそこそと話している。
「トムスさんかあ。悪くないけど、確かにまだちょっと頼りないものね」
「でも旦那様の仕事に関しては、色々よく知っているひとなんでしょ?」
「旦那様のお仕事はよく判らないけど、もう最近どんどん時代が変わってるじゃない。あたしの小さい頃に比べて、今なんか街に出ても何だし、いつの間にか馬車の代わりに車使う人も増えてきたし」
ひそひそとメイド達は囁く。
こほん、とそれを見たハウス・キーパーのミセス・セイムスはこほん、と咳払いをする。
彼女は三十八歳。
その職ゆえ、ミセスとついていても未婚である。
元々はこの屋敷で三十歳頃までメイド長をしていたのだが、その後前の家政婦が引退する時に読み書き計算の腕を買われて採用されたのだった。
「だからまあ、あたし達の仕事の出来には厳しいわよねえ」
と現在のメイド達は苦笑と供に答える。
だがその厳しさは敬意を払われるものではあれ、嫌われることは無い。
若い彼女達が解決できない屋敷内の汚れについて聞けば、一発でその答えが出るという様な人物である。
読み書き計算だけではなく、ピアノ、そして多少のフランス語までできるという辺りはメイド達の噂の種になることがしばしばだった。
最近は老眼が厳しくなってきたらしく、眼鏡と頭痛の関係について考えることが多いらしい。
そんな噂を常に日々振りまいているのが、メイド達だった。
彼女達には二種類ある。
台所関係を一手に引き受けるキッチンメイドと、それ以外のハウスメイドだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます