カントリーハウスの四日間

江戸川ばた散歩

 爆発の音が息を切らして走る彼女達の耳に届いた。

 カントリーハウスから火の手が上がっている。


「貴方! エイブ!」


 サリー・アンは立ち止まり、振り向き、そして夫の名を叫んだ。 


「お父様!」

「パパ!」


 連れていた三人の子も、何が起こっているのか判らないだろう一番下以外は、目に涙を溢れさせながら、父親を呼ぶ。


「……奥様! 止まっている場合ではありません!」

「そうです、旦那様のご意志を無にしては!」


 ハウス・キーパーのミセス・エイムスとフットマンのダグラスはそれぞれ彼女をうながす。

 特に手に一番下の子を抱いているダグラスの表情は厳しい。


「あと少しです。この丘を越えれば、街道に出ます。そこで何とか馬車を整えましょう」


 そう、馬車はある。何とか一緒に走っている。

 ただ、四日前、あの館にやってきた時の道は使えなかった。

 裏の荒れた道を行くしかあそこから逃げる方法は無かった。

 来た時にはあれだけ美しい道だと思ったものを――

 サリーは思わず思い出してしまう。わさわさと繁る葉の中に、つやつやと色づいた林檎の木々。

 館の周りにところ狭しと伸びていた様々なベリーの木々。

 鮮やかな宝石の様な実達。

 それも今となっては全てあの炎の中。


「よし、押し上げろ」 


少し急な丘、後から残った者達で懸命に街道へと押し上げる。


「ああ…… やっぱりぐちゃぐちゃだ」


 二台の馬車に放り込んできた荷物も、揺られ揺られてぐしゃぐしゃだった。

 一旦中身を出して整理して、それから皆乗れる様にしよう。

 いやその前に一休みしたい。

 だがこの地からは一刻も早く離れたい。

 サリー・アンの気持ちはぐらぐら動く。


「お母様」


 一番上の息子のウィリアムは母の両肩をがっしりと押さえる。


「今はしっかりしてください。お願いします。何とかして、ここから、ちゃんとした町…… せめて村に出るまでは」

「そう…… そうよね」


 そうでないと、夫が、執事が、あそこまでした意味が無いのだ。


「奥様、あれ、見てください!」


 メイドのチェリアが館近くの荒野を指さした。

 そこには、草で異様な模様が描かれていた。

 いや、模様自体は来た時にもあった。

 そうではなく。


「あの時と違う……」


 それが何を意味するのか、今の私達には判らない。

 いや、一生判らないかもしれない。

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