2章 接触

 ̄scene 1_


都内某駅。 午前10時前。 中央線に乗り入れる都外からの快速電車を待つ人の列の中で。


「………」


新聞を折って片手に持つ、何処にでも居そうなサラリーマン風の男性が居る。 背丈は、180cm近く高め。 スラッとした無駄の無い体型ながら、顔はかなりの今一。 捲れた唇の右側は、性格の捻くれた処が滲み出た様で。 面長の顔に、高い鼻は上目に向いて穴が丸見え。 垂れた目は嫌味を感じる様に、如何にも訝しげである。 一見すると、どうも付き合うのには少し多めのコミュニケーションが必要な・・と、感じざる得ない人物だ。


だが、その彼の脳裏では…。


(フン。 全く、警察ってのはチョロイな。 死体が発見されたのは、昨日の昼? あれから、もう四日だぞ。 俺の体液など腐乱して、全く使い物に成らないな。 いや、水に浮んでるから、体内から流れ出たかも。 とにかく、あの死んだ女からは、俺に辿り着く材料は何一つ出ないな。 目撃者も、嵐の直後だったから殆ど居ない様だし)


と、何かを確信している。


実は、この男性が、あの夜の強姦魔だ。 新聞には、“連続強姦殺人事件”の文字が躍っている。 ド派手な見出しでは、あの嵐の直後に殺害された女性が今月で3人目の犠牲者であり。 同一犯に因ると思われる最初の事件の発覚から12人目と書いてある。


然し、実際の被害者は、その倍以上にも上っていた。 そう、まだ発見されていない遺体が、何処かに多数存在するのだ。


極悪人の彼だが、その自信に満ちた確信は現実の事として当たっている。 実際の処で、事件を捜査する警察には、彼の存在が全く見えていない。 使われた道具の全ては、一般的に流通している市販品。 そして、彼は襲う場所から逃走経路に至るまで、相当な気を使っている。 この男は、この犯罪行為を楽しむ為に、あらゆる全てに気を使っていた。 狙う相手は、事前に物色して決め。 帰宅ルートを確実に見定める。 そして、何よりの“切り札”を用意している。 だから絶対に警察にも解らない、と云う自負すら在った。


さて、朝のラッシュが終わった今。 電車が来るアナウンスが、ホームに流れた。


― 間もなく、3番線に電車が… ―


アナウンスを聞いた男性は、新聞を左手に下げていたカバンに入れて線路の一方を軽く見れば。 黄色い線に沿って整列した人の前に電車が入って来た。


“ご利用ありがとうございます。 降りるお客様が先となりますので……”


まだ朝なので駅員の注意アナウンスが流れる中で、男性が何時も朝の通勤の際に選んで乗る番号の車両が、普段通りに目の前へ入って来た。


その時、混雑を嫌ったのか、この男性から後ろの男性3人の客が慌てる様に、並ぶ人の少ない一つ後のドアに向かう。


(せっかちな奴等だ。 乗ってから車両を移動しても大して変わらないのにな)


列でドアの空くのを待つ男性は、呆れと蔑みを込めて思う。 平日ならば、この時間でも座れる事はほぼない。 乗り込む事を慌てるなどバカらしいと思うのだ。


電車が完全に停止して、ドアが開いた。 通勤時間のラッシュは過ぎて来ていた時刻だし、この時間にこの駅で降りる人など、恐らくは駅前に在る予備校に向かう予備校生か、バイトの若者とか朝帰りの人など位。 男の待っていたドアからは誰も降りないので、前の人に続いて男性は車内に一歩踏み込んだ。


その時である。


「あっ」


男性は、思わず声を上げて立ち止まる。 其処には、人が・・・。 絶対に居てはならない人が、其処に立っている。


(何でっ?! こ、コイツが、此処に居るっ?!!!!)


男性の目の前の車内には、ずぶ濡れの女が立っている。 今さっき、新聞に顔が載っていた女性。 そう・・・自分が橋の下の河川敷で殺した筈の女性である。


― に・・く・・・い・・オマ・・・えが・にく・・・いぃぃぃぃぃぃぃ……… ―


ラジオのノイズに混ざる様な、途切れ途切れの声を出すその女性。 然もその姿は、あの夜に自分が川へと放り込んだままの姿だ。 千切れたYシャツから蒼褪めた肌の胸が露出し。 下半身も、スカートを剥ぎ取られた上に、下着を引き千切られていて。 Yシャツの裾の折り重なる辺りの隙間から見える陰毛が、ビショビショに濡れたままに雫を垂らしている。 そして、濡れた髪が前を隠して、顔が全く見えないのだが…。 髪の毛の隙間からギロギロとした目が、人とは思えない炯炯とした光を放っていた。


開かれたドアの傍で端に座るヘッドホンをした若い男性は、この彼女の存在に気付いていないのか。 この死んだはずの女性の直ぐ脇から男性を見てきて。


「オッサン、早く乗れよ。 暑ぃンだからよ」


と、声を出す。


「えっ、あっ」


ハッとした男性に、向こうからホームを走って来た駅員が。


「お客さん、どうかされましたか?」


男性は駅員を一度見てから、女性の姿を確認すべく前を向くと。


(いっ・居ない…)


殺した筈の女性は、もう立っていなかった。 衣服や身体から滴って落ち、車内の床に溜まっていた水も消えている。


「あああぁ・・・いや・なんでもないです」


そう言った男性は、車内の客から訝しげに見られながら、ギクシャクした様子で車内に入った。


「スイマセン・・・スイマセン……」


謝りながら車両の中に入る男性。


然し、その胸の内では、


(げっ、幻覚か? なんだ・・今のは。 俺は・・・疲れてるのか?)


と、独り言を吐く。 吊革に掴まってから気付けば、全身に冷や汗を掻いていた。 風呂に入って来たばかりなのだが。 脇や下着が、汗で濡れているのが解ったくらいだ。


客が乗り込むとドアは閉まり。 ゆっくりと電車は走り始める。 男性は電車に揺られて見慣れた外の景色を眺め、次第に落ち着きを取り戻しながら、その電車の終点となる新宿駅まで向かった。


彼の勤める会社は、新宿御苑にある。 これから地下鉄に乗り換えなければならない。


そして、新宿駅に着いた。


“新宿~、新宿~”


アナウンスを聞きながら電車から降りた男性は、地下鉄のホームに向かうべく、階段に向かった。


(全く、気の所為かよ…。 今月は、目を付けた女を

3人も殺ったからな~。 少し動きすぎて、疲れたのかな・・。 然し、下らないモノを見た気分だな。 馬鹿げてる、幽霊なんて…)


男性は、疲れの所為で幻覚を見たと思った。


処が。


彼の歩く後。 1メートルほど離れた後ろから、忙しく動く乗客の誰にも気付かれないのだが。 濡れた人の足跡がヒタ・・ヒタ・・・と男性を追ってか、付いては消えるを繰り返していた。


どうやら、目に見えない何者かが、彼の後を着けて行くのである。 濡れては消え、消えては濡れる足跡。 それは、確実に憑(つ)いて行った。





      ̄scene 2_



新宿御苑の駅から右手に歩いて5分。 地上60階は有りそうな高層ビルの32階。 “開発室長室”と、書かれたプレートの付いた黒いドアの中で。


「広縞(ひろじま)さん。 今日からは、開発商品Cプランの責任者に就いて下さい。 期間は、六ヵ月です。 配属された研究員や助手は若手中心なので、経験豊富な広縞さん、皆さんにご指導よろしく」


あの男性を前にしてこう喋っているのは、30半ば・・と見受けられようか。 小柄ながら、肉体的にグラマラスな女性で。  赤いトップレス、タイトな短いスカート。 顔も悪くなく、男性受けしそうな女性である。


仕事の為に、今は白衣を纏いながらも。 裏に回っては強姦殺人を繰り返している彼、‘広縞’と云う男性は、彼女から新しい仕事の指図を受けていた。


「はい、解りました」


白衣を着たYシャツ・ネクタイの姿で、この目の前にいる女性に頭を下げる広縞。 訝しげな印象の顔ながら、その表情は澄ましたもので。 受けた指図に対する拒否感は、その何処にも見えない。


だが、内心では。


(色気ばかり振りまくエロババアが・・、随分と偉そうにしやがって。 顔でしか人間を判断することが出来ないアホが、俺を顎でコキ遣いやがる。 だから、女は嫌いだ。 こんな生き物は、ヤル道具でありゃいいんだ)


この性根の捻じ曲がった男性の名前は、広縞(ひろじま) 修(おさむ)。 年齢は、41歳。


彼は、この都内好条件の立地に聳えるビルを持つ化粧品・化学製品開発会社に勤める、言わばエリート社員だ。 悪い意味での印象的な容姿とやや淡白な物言いが災いしてか、この年齢にして“開発部副室長”止まりながら。 これまでに所属する会社が飛ばした数々のヒット商品の開発に関わってきた男だ。


さて、この広縞は、この上司で室長の女性を毛嫌いしていた。 感情的に表立って悪口を云うなど、決してしない主義だが。


(そう云えば今は、新人の若いのに欲求不満のカラダを与えて。 その上に、女王様を気取ってるとか…。 そんなに気持ちイイなら、ムチでも持って別の仕事に行けよ)


と、思いながらも。 人畜無害そうな表情を面に出しては、女性に一礼してからドアに向かう広縞。


この彼が異性と云うべき女性に対して持ち続けている憎悪は、その根源を辿ると幼い頃に受けた母親からの影響が始まりだ。 男に溺れて、修を親戚に預けっ放し。 修は容姿が悪い所為も在ってか、親戚の元に居ても虐められた。 それは学校に居ても同じで、友達など居らず。 大人しい性格からイジメられた生活を送り。 その受けた虐めは長期的で有った為か、密やかに彼の心を捻じ曲げてゆく。


然し、彼は頭は良かった。 中学校や高校に行けたのは、広縞に金など使いたくない親戚に頼らない様に、特待生として授業料免除の形を希望し。 その願いを叶えた。 後の大学生時代に、奨学金で行く代わりに貧困生活を送っていたが。 当然の訃報にて母親が死亡した事を知る。 其処で、妙な事から転がり込んだ保険金で大学を卒業。 その後は、金銭的な苦労も無くて大学院まで行き、卒業と同時にこの会社へ就職した。


「では、早速掛からせて頂きます」


出て行くときに、広縞はそう言って退室した。


一方、ドアが閉まってから。


派手な衣服の女性室長は、広縞の出て行ったドアを見ながら軽蔑の目を顕著に現した。


「あ゛ぁ~、ちょ~キモイキモイ。 仕事で使えないなら、見世物小屋にでも売りたい位だわ。 一体どうすると、あんな不細工が生まれて来る訳? 親の顔が見たいわよ」


と、締め括る。


だが、広縞の母親は、広縞とは似ても似つかない美人だ。 父親が悪いのか、隔世遺伝なのか、広縞は親戚の内でも悪い槍玉に挙げられる。


こんな広縞だから、社内の異性として広縞に対する風評は、頗る悪い。 要因の一端は、容姿の所為も在るが。 広縞は、自分を差別視したり、敬遠する異性の心情を鋭く察知し。 時々、酷く卑屈で、冷たい目をする事が在るからだ。 ま、普通に考えて虐げられてきた過去を持つ広縞の行為も当然なのだが。 見てくれが普通だと、容姿の悪い者の何を言っても構わないと無意識に、善悪など考えもなく云うのも如何なものか。


さて。 室長の部屋を出た広縞は、下の階の開発室に向かう。


然し、彼の背後の壁には、何故か水面が揺れ動く様な人影が浮ぶ。 広縞が階段を降りると、陽が差し込む訳でも無いし、水が有る訳でも無いのに。 ユラユラと水面が揺れる様な人影が、壁に出来て着いて行く。


そして、彼に対して起こる異変は、その日の午後にも続いて起こった。


午後2時過ぎ。


遅い昼食を終えた広縞は、1人で32階のトイレに向かった。 研究に成ると時間を忘れる広縞は、何時も昼食は不規則だ。 だが、今回の研究は、若い新人を交えた研究開発で。 都度都度に渡っての実験に於ける作業説明と、細かい指示に追われて遅れた訳だ。


この12階に在る食堂には、別の部署の社員なども多く来て居て。 特に長椅子を挟んで置かれたテーブルの在る窓側では、中途採用の面接を受けに来た人達が良く待たされていたり。 営業などで外出から帰って来た社員などが、遅めの昼食を取っていたりしている姿が目立つ。 だから食堂の在る階のトイレは、広い分だけ人気も多い。 ‘気味悪い人’として顔を見られてしまう事を避けてる広縞は、態々に移動して32階までトイレに向かう。


(ふぅ・・。 今日は、気が重いな…)


エレベーターで上へ上がる彼だが、仕事を始めて気だるさを強く感じた。 こんなにもやる気が出ないのは、今まで生きて来て初めてである。


開発部専用に近い、キレイな男性用のトイレに入り。 洗面台を行き過ぎる時に、弱い灯りの下で自分の顔を見て。


(まぁ・・・普段と変わらないな)


と、思う。


そして、奥に入って小便器の前に立ち。 ジッパーを下ろして、小用を足し始めた。


その時だ。


いきなり、下水管の排水溝に水が流れる音が、背後から響く。


「んっ?」


今、清掃員は居ない。 入って来た時に見たが、床に水を流した跡も無かった。


(誰か、居るのか?)


30階から35階までの職員の顔は、広縞にしても知れた顔だ。


“大便器の方に、誰か入っているのでは?”


と、思うから。 真後ろを振り返ろうとすると………。


― に"・くい゛っ! ・ああ"っ・・おま"え・・・がぁぁぁ・・・にくい゛っ!!!!!!!! ―


その冷たく憎しみの篭った女性の声に、


「はぁっ!!」


と、心臓を鷲掴みにされた気がして。 背筋に恐怖を走らせた。


広縞の後ろに並ぶ大便用のドアは、当然ながら全て開いている。 然し、その中でも彼の真後ろの便器の床元からは、チョロチョロと水が流れを作っていて。 男性トイレの中央に在る排水溝に向かって、一筋に流れていた。 その水の出所は・・・、便器に座る人物だ。 あの電車の車内に現れた女性の姿が、開かれたドアから半身でトイレ内に見えていた。


(まっ、ま・まさか・・・またか?)


朝の事があるから、広縞も流石に脅えた。 小用が出終わったのかどうかも解らないままに、ジッパーを閉めながら思い切って振り返る広縞だった。


が。


「ふうっ!! ん"っ・・・・はぁ・はぁ・・・なんだよ………」


既に、其処には誰も居ない。 便座の床元から何故か水が流れているだけだ。


「お・脅かすな・・・。 壊れただけかよ」


急激に高まった緊張感は、心臓の鼓動を早めて冷や汗を誘う。 広縞の額には、空調の効いた中でも垂れ流れる程の汗が浮んでいた。


(はぁ、今日はツいてない)


緊張感が取れないままに、洗面台へ向かう広縞。 ハンカチをポケットから取り出して、手早く手洗いを済まそうと水を出す。 だが、仕事柄か。 手洗いには、念を入れる必要がある。 然し、自然と洗う速さが、何時もより早い。 周りを見たくない心境から、早くトイレを去りたいのだが。 目の前に在るのだから、怖いもの見たさからか。 屈んだ体勢から上目遣いに、目の前の大鏡を見た。


「・・・・」


手を洗う自分と背後のベージュ色の仕切りの壁が、鏡の中に見えるだけ。


と・・・思った瞬間だ。


「あっ・・ああああっ・・・うわっ」


急激に、自分の顔の目や鼻や口からダラダラと流れ出す水。


「あっ! あぁっ!!」


慌てて顔を手で拭うのだが。 何か、言葉に出来ない程の気持ちの悪い圧迫感が、目の中に痛みを伴って疼き。 その圧迫感は、火に炙られる様な激痛へと変わり、急速に湧き上がって来た。


「あ゛あ゛・・・うごおおおおお・・・・」


痛みの強さに比例して、溢れる水の量が瞬時に増し。 鼻から、口から、溢れ飛び出すように、水がジャブジャブ流れ出る。 広縞の顔が、見る見る血管を浮き上がらせた異常な顔に変わり・・・。


“ボンっ!!!!”


ワインのコルクを引き抜いたような音が、トイレに高らかと響いた。


「う゛ああああああああっ!!!!!」


何と、噴き出す水と共に、広縞の眼球が飛び出たのだ。 熾烈な痛みと眼球が飛び出した事で、もんどりうって床に倒れ込む広縞だった。 右手で抑えた顔からは、大量の鮮血が噴き出すように溢れて、広縞は正気を失った。


「アヒぃぃ!!! ハヒぃぃっ!!!!」 


熾烈な痛み、咽返る血の匂いと味。 狂ったような声を上げて、何かに縋りたくて。 洗面台に左手を掛けて、必死に立ち上がろうと大鏡の前に顔を上げた時だ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・・」


自分の血みどろに成った顔の脇に、朝の電車内で見たあの女性の顔が・・在った。


然も、だ。 髪の毛が濡れて、部分部分で纏り。 朝には見れなかった顔が、はっきりと見えているのだ。


(ばっ、ばば・・化けも・のぉっ!!)


広縞が見たままに思った事は、恐らくその見た目を素直に表現していただろう。


その女性の顔は、あの強姦した時の女性の顔では、決して無い。 目が縦に裂けて眼球が剥き出すように捩れ。 口も、両端が裂けて、耳元まで開いている。 血走った眼球は、死人の如きに瞳孔が開いて。 死体の顔面の全体からは、狂気的な憎悪に染る感情を迸らせていた。


― にぃ・・く・いぃぃ・・・し・・ね・・・しねぇぇぇ・・・・・ ―


耳元に、獣の様に変わり果てた不気味な女性の声が、辿々しいが、不思議なまでにハッキリと聞こえる。


「うぎゃああああああああーーーーっ!!!!!」


広縞は、そのあらゆる驚異や恐怖に耐え切れず。 張り裂けんばかりの悲鳴をトイレに上げた。 心に這い寄る恐怖に、もう為す術が無かった。


その直後。


「広縞っ!! おいっ、広縞っ!!!!」


肩を掴まれて名前を呼ばれた広縞は、ハッと我に返った。 目の前には、整った顔立ちの白衣を纏う長身男性が居た。


「あああ・・・・しっ・ししし・・清水っ」


オールバックの髪型に、きりっと見開かれた目。 広縞と同期で、開発部別部門の主任をやっている“清水”と云う男だ。


「しっ・清水っ、しみっ」


いきなりの事で怯えきった広縞は、同僚の清水に縋りついた。


「おいっ、一体どうしたっ?!! あんな大声なんか出して、お前らしくないぞ」


1人でなくなった事で、正気が戻り始めた広縞。 慌てて顔を触っても、水も、血も流れていないのを確認する。 ハッとして辺りを見回し、確かめる為に大鏡へ自分の姿を乗り出し写すが。


(い・いいっ、居ない!! 居ない、いな

………)


化け物染みたあの女性の姿は、何処にも無かった。 清水が来るまでの事が何も無かったかの様な、自分の記憶にだけあの出来事が鮮明に残る。


「広縞、どうした? なんか有ったのか?」


「あっ?! あ、あ〜……」


咄嗟に聞かれてまた驚き、返答を模索した広縞だったが・・・。 返す言葉が見つからなかった。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る