11、事態が動き始める
僕は、母や兄を残しサロンを出て地下にあるワインセラーへ向かう。
すでにヨウには指示を出し、地下室の場所を空けるようにしてもらっている。
それにしても、サラ様がこの地までやってくるとは――。
久しぶりに見た彼女のことを思うと、心が落ち着かない。
それに、彼女と共に部屋にいた騎士、ロブレット=カントム。
現女王に功績を認められ、1代であるが公爵という爵位を持っている。
サラ様の隣に座り、彼女をフォローしている感じからも、旧知の仲なのだろうなと思う。
それにお互いを信頼していると思った。
2人に並ぶとまるで美しい1枚の絵画のようだと思った。
『では、私とロブお兄様は町へ何か情報がないか行ってきます。その間にご準備を』
そう言うとヨウさんを残して、颯爽と2人で町へ行ってしまった。
彼女はいつも真っ直ぐだ。
眼差しも、人柄も。
なんでこの地に来たのかは分からないけど、僕たちだけではなく、この領地に住まう人も助けようとしている。
道を真っ直ぐ見つめている彼女は、美しくもあり尊敬できる。
こういう人が次期王で良かったと思う。
瘴気自体はどこにでも発生する可能性はあるが、人工的に作り出しているというは、国を揺るがす問題になるとは思う。
そんな危険な魔道具が開発され、人に被害をもたらしているのだから。
過去、研究していた人たちもいたようだが、禁忌とされ、作り出した者や関わった人が処罰されたようだ。
瘴気につられて、普段いないような強い魔獣たちが姿を現し始めているなら尚更だ。
だから僕たちを手伝ってくれているとは思う。
だけど――。
僕に会いに来てくれたなら、嬉しいなと思う。
あの塔での出来事以来で、元気そうな彼女を見て嬉しかったし、日記に走り書きをして、領地に行く前にヨウさんに手渡しただけで会っていなかったのだから、どんな様子なのも気になっていた。
あとでここでの出来事を書きたいなと思う。
「セリ様、準備はできております」
「うん、ありがとう、ダイフ」
僕はそう言うと手渡させた、インクと筆に魔力を込める。
そして床に直接、魔法陣を書いていく。
指先から魔力が流れ出ていくのが分かる。
ネックレスから魔石を取り外す作業は、母上がやってくれているはずだ。
転移の魔法陣は複雑で、描くのに2時間ばかしの時間を費やした。
「ふう」
僕も魔力を流し続けているので、結構な疲労感だ。
「セリ、外し終えたわ」
いいタイミングで、母上が地下へ降りてきて、魔法陣の4隅に魔石を置いた。
と、同時に魔法陣が輝きだす。
「とりあえず、こっちのはちゃんと描けたみたいだね」
僕はその輝きに安堵する。
「疲れたでしょう。風呂の用意は出来ているから、ゆっくり湯船に浸かって来なさい」
母上はそういうと、ダイフに目配せをして部屋を後にする。
後に続き僕も、地下室を出て行き、私室に入る。
そのまま隣にある小さいお風呂へ入った。
小さな湯船に浸かると、疲労していたのがよく分かった。
少し寝ていたと思う。
ダイフに声をかけられ、風呂から上がると、サラ様たちが戻ってきたことを告げられた。
何か動きがあったようで、夕食の場で話があるという。
僕は嫌な予感がしていた。
この事件何事もなく解決できたら良いのだけど。
僕が考えていることが杞憂に終わればいいと、そう思っていた。
僕と王女の交換日記 桃元ナナ @motoriayu
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