深い愛、長い愛

シヨゥ

第1話

 滅多打ちからの滅多刺し。顔はひしゃげ、内臓はぐちゃぐちゃ。ご丁寧に歯を一本一本抜きとってくれた。そのおかげで遺留物がない限りは本人確認に少しどころの時間がかかるだろう。いや、もしかしたら今の科学技術だったら血液一滴で数時間のうちに明らかになるかもしれないだけど。

「よいしょっと」

 そこは門外漢だ。予想でしかない。

「なんで起き上がるのよ」

 彼女が腰を抜かして震えている。

「おっと」

 ぶつ切りになった内臓が零れ落ちかけて慌てて左手で押さえた。利き手は反撃を恐れたのか頭の次に潰されている。頭が潰れたら反撃も何もないと思うのだが不思議な子だ。

「満足したかい?」

 すでに口の中は元通り。脳から外へと復元していくだけにまだ顔は骨がむき出しだと思うけれど。

「大丈夫?」

 彼女は口をパクパクさせていた。

「大丈夫じゃないか」

 近づいても後ずさることもしない。

「人に見られたら厄介だね。まあこんな山奥、僕らみたいな天体観測目的か、キャンプ目的でしか来ないと思うけど」

 笑いかけてみたけれども笑えているのかどうか。復元途中というのは自分のことながらよく分からない。

「よいしょっと」

 彼女を抱え上げてみる。どうやら右腕もほぼほぼ復元できたようだ。

「こんなに汚しちゃって。シャワー浴びないとね」

 そう語り掛けるも彼女から返事はない。月明かりに照らされた彼女は完全に気絶していた。

「然もありなん」

 こうなること、そしてこうされることもなんとなく分かっていた。

 愛の深い子だった。嫉妬が深い子だった。独占欲が強い子だった。こういった性質を持った子の愛情が憎悪に変わる瞬間を長く生きる間に何度も見てきた。

 死ねなくなって何百年。長い間寄り添ってくれる人は誰かを考えた。それはなぜか。それは人は独りじゃ生きていけないからだ。しかし死なない人間はいない。だから長い間寄り添ってくれる人間が必要なのだ。

 そんなことを考えつつ人生を歩む中で最も長く寄り添えた人の傾向が見えてきた。それが愛情が憎悪に変わるくらい深い愛を持った子だったのだ。特にこうして殺しに来る子は長く続く。それだけ愛が深い証拠なのだから。

「よいしょっと」

 転がっていた望遠鏡も担ぎ上げ車へと向かう。彼女が目覚めたときのことを考えると少し憂鬱だ。これまでの傾向から考えると真実を打ち明けた時が一番別れやすいのだ。

「どうか末永いお付き合いを」

 そう願わざるを得ないのだった。

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深い愛、長い愛 シヨゥ @Shiyoxu

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