Net Trash Rating

そこらへんの社会人

第1話

 桜木真桜さんは、白銀の長髪を腰までスラリと伸ばす超絶美少女。お淑やかな性格でありながら誰とでも分け隔てなく接するクラスの人気者。


 そして、僕の好きな人だ。


「桜木さん、あの、もしよかったら今日一緒に帰りませんか?」


「へ?」


 桜木さんの顔が、動揺するのが分かった。


「ぼ、僕、桜木さんのことが――」


 僕の告白は、野太い声で遮られる。


「――オイ真桜、早く帰るぞ。今日は俺の家で・・・って、何してんの? ナンパ?」


「だ、大くん」


 現れたのは僕よりも大きくて力強そうな男子生徒。

 金髪にピアス、いつも先生に反抗している不良生徒だった。


 桜木さんの隣にずいっと現れ、彼女の腰に手を回し、がっしりとその果実を掴んで見せる。

 キュッと心が締め付けられる。


「だ、大くん・・・か、彼は――た、ただの友達だよ」


「あそ、どうでもいいけど早くしてくれね? 俺もう我慢できねえんだわ。――遅すぎたらその分罰ゲームな」


「あ――」


 僕は見てしまった。

 桜木さんがはっきりと、彼の言葉に従うのを。

 お淑やかで、明るくて、快活ないつもの笑顔が、脳裏から消えていく。

 一匹のメス。

 逞しいオスに見惚れて、恍惚とする表情。


 ああ、ああ。


 僕では、足元にも及ばない。足がすくむ。生物としての本能が、敗北を認めている。


「ご、ごめんね、私今日は予定があって・・・それと、さっき何か言いかけてなかった?」


 メスになった顔を半分だけ淑女に戻して、それでも漂う彼女の雰囲気に僕は言葉を失う。


 彼女はもう、僕の手に届くところにはいない。そう分かってしまった。


「――ううん、なんでもないよ。大したことじゃないから・・・」


 クラスも、委員会も、部活も僕は桜木さんと一緒だった。

 桜木さんとたくさん話してきた。彼女のやさしさに助けられて、気付けば好きになっていた。

 思いを伝えるチャンスなんて、いくらでもあったはずなのに。


「じゃ、またね――湯川くん」


 もう、時間は戻らない。


 彼女が、僕以外の誰かを好きになってしまった時間だけが、永遠に流れ続ける。

 ほつれたまま残った僕の心の糸が、心に暗い影を落とす。


 この先も、永遠に。


 

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