そうさベイビー 今宵のリアリティー
「ちょっと、男子遅い~」
店の奥のドアを開けると、そこは畳部屋で掘り炬燵式になっていて、女性が四人横並びに座っていた。
わりぃわりぃ、と謝る山野を先頭に男性陣も中に入り座る。
山野は座ると後ろからついてきていた店員に、とりあえずビール、と注文した。
「じゃあ待たせて悪いし、ビール来る前に先、自己紹介しとこうか」
男性陣の自己紹介が一通り終わる。
川原は事前に言われた通り、山野の同僚だと名乗った。
次いで女性陣の自己紹介。
男性陣が入ってくるなり抗議の声あげた女性は、女性陣の仕切りを担当してるというアイだった。
年齢については、最年長とだけ答えていた。
額をばっちり見せるように分けられた長いストレートヘア。
白いブラウスの襟を立て、袖を肘の辺りまで捲っていた。
川原の印象としては、人妻というよりはアネゴだった。
そのアネゴの横には、ピンクのワンピースのサヤと、ベルベットのキャミソールを着たノゾミ。
サヤはゆるくかけたふわりとしたパーマで、ノゾミはマッシュボブ。
共に薄い茶髪で、二十代後半。
そして、一番端に座る濃緑のチュニックを着た女性を見て川原は驚いた。
「あっ!?」
「えっ!?」
思わずその女性に向けて指を差してしまうと、その女性も立ち上がらんとばかりに驚いて川原を指差した。
原田……マキか、ミキ。
「ミキです、先輩」
本人を前にしても思い出せない名前を言おうと川原が口をわなわなさせていると、それを察してミキが言った。
「何、二人、知り合い?」
山野が川原とミキの顔を交互に指差す。
ミキは濁しながらも、うん、と答えたが川原は答えずミキの顔を見つめていた。
ちょっ、とミキが小声で言うものの川原は何も聞こえていない様子だ。
ミキは掘り炬燵の下で川原の足を踏んづけた。
突然の痛みに川原は声を上げそうになったが、目の前のミキの目配せに気づき堪えた。
他の六人が川原とミキを注視している。
「ああ、えっと、昔のバイ……し、職場で一緒だったんだよ」
「へぇー、先輩後輩ってこと? うわ、すげぇ偶然じゃん」
山野の言葉に他の五人も同意する。
ねー、とミキは言って川原は苦笑いを浮かべて頷いた。
ミキの自己紹介が続いた。
「――二十四歳です」
ミキの自己紹介に川原以外の三人の男性は、おおー、と声をあげる。
川原は眉をひそめた。
「ちょっと男子、若さに露骨に反応しない!」
アイの抗議に笑いが起こる。
ミキは合わせる様に笑いながら、再び川原の足を踏みつけていた。
川原は痛さに声が漏れそうになるのを必死に堪えた。
それから、合コンはそつなく行われ時間が経った。
互いに横並びに座っていたのも、いつの間にかそれぞれ男女一組になって座っている。
昔の知り合いとの偶然の再会に遠慮されたのか、川原はミキの横に座っていた。
他の三組は既にイチャつき始めていたが、二人はぎこちないままだった。
「二十四歳?」
他の三組に聞こえない様に川原は小声で言う。
少し笑いそうになるのを我慢する。
川原が当時聞いた原田の年齢からすると、今は三十二歳のはずだ。
八つもサバを読んでることになる。
「うるさいなぁ。いいでしょ、合コンなんだし」
ミキの少し茶色がかったセミロングの髪が肩で揺れる。
口を尖らせそう言うと、何杯目かのカクテルを口につける。
「まぁ原田さん、可愛いままだから二十四っても通らなくもないけど……」
川原は視線を下に向けた。
股下何cmかのショートパンツを履いたミキの太股が剥き出しだった。
堂々と年齢を詐称するだけあって、その白い肌は二十代の様に若々しい。
「川原くんは、エロい目しながらそういう事言えるキャラに変わっちゃったんだね」
川原の視線をミキは手を振り遮った。
そのまま川原はミキと小声で昔の話をした。
久しぶりに女性と話すので何の話題をしようかと店に入る前まで悩んでいたが、とりあえずその問題は解決した。
ミキとなら共通の話題があるので助かった。
そのミキも川原と話すことはまんざらでも無い様子だ。
むしろ、自分からは積極的に他の男性陣に話そうとしていない。
聞かれた質問をにこやかに答えるだけだ。
山野が飲み物の入ったグラスを置き立ち上がった。
立ち上がった山野は隣に座っているアイに目配せし、アイは何やら頷いていた。
山野はドアの方へ歩いていくと途中で振り返り、川原に対して手招きする。
川原はミキが呼ばれているのかと思いミキの肩を叩いたが、違う、と山野にもミキにも言われてしまった。
川原は自身に指を差し山野に確認すると、山野は頷いた。
「何だよ、ややこしいことしないで名前呼べばいいだろ」
文句を垂れながら川原は立ち上がり、部屋を出ていく山野についていった。
山野は店を通り抜け、先程の部屋とは対角の位置にあるトイレに入っていった。
大人になって連れションかよ、と愚痴りながら川原もトイレに入る。
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