彼女は、2.5次元に恋をする。

おか

プロローグ

 俺は十六年間、そこそこに生きてきた。


 勉強がすごくできるわけではない。だが、努力せずとも成績に困ったことはない。

 親友と呼べる者はいない。だが、クラスで浮かない程度、表面上の友達はいる。


 勉強、人間関係もそこそこ。きっと三年後にはそこそこな大学に行き、そこから四年後にはそこそこな企業に就職し、そこそこな人生を歩んでいくのだろう。


 自分を何かにたとえるなら? そうだな……

 炎も煙も出さない『良質な炭』だと思う、たぶん。


 だって――


 炎炎 えんえんと情熱を燃やし、何かに夢中になったことも、真剣に汗を流したこともない。

 濛濛もうもうと頭から煙を出し、怒ったことも、おもわずらったこともない。


 ちなみに『たぶん』と言うのは、炭が『未使用』である所以ゆえん

 つまり、火が付いたことすらない。

 

 ずっとそんなヤツだったんだ。あの日までは。








「なあ、小石?」

「ん……?」

「あのさ、やっぱり――」

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