第20話 暇つぶし

さて、俺たちの軟禁生活がスタートしたわけだが。

・・・暇だ。

今、入れられてる部屋は国家魔術師達が徹夜で家に帰ることができない時の仮眠部屋らしい。

本当にお疲れ様です。

だから、そこそこ快適だ。

ご飯も、この協会の建物内の食堂みたいなところから持ってきてくれるから十分美味しい。

何不自由ないからこそ、暇が際立つ。

簡単に暇が潰せるほど娯楽で溢れた前の世界から離れて1ヶ月半くらい経っているが、メリットも多い。

やることが少なくなった以上、自然と早寝早起きになった。

俺の今の体、トスカノ・ハスレムさんが健康体だったのかもしれないが、この規則正しい生活によって、すこぶる体調が良い生活ができている。

俺はとんでもない量の無駄のある生活をしていたのかもしれないと気づいた。


なんて、そんな前の世界の生活の問題点を再度見直すくらいには暇だ。

こんなことになるのなら最初からルカを連れてくれば良かった。

そうすれば、尋問もされなかっただろうし、もっとスムーズに話が進んだと思う。


いや、それは結果論だ。

少し考えれば今回の騒動のきっかけとなったことは事前に考えつく内容だ。

国家を冠した組織であること、そこにいる魔術師は国中から選ばれたエリートであること、戦争時に情報戦を得意としたカンナビア王国が作った組織であること。

それら全ては協会に来る前から知っていた内容だ。

そこから考えれば魔術学校を自主退学したルカを国家魔術協会が特に対策せず、そのまま放置している異常に気づけたはずだ。


下手したら俺はまた仲間を失っていたかしれない。

ハンナさんがあの場を圧倒できるほど強くなかったら?

シルバさんがルカを知らなかったら?

元の世界で言えば旧時代的な考え方がこの国では普通だ。

グレイさんは当たり前のように銃を携帯していて、それを躊躇いなく俺に向けた。

疑わしきは殺せ……と言われていてもおかしくない。


王様に召喚され、国のためという明確な理由があるが、俺はハンナさんとルカを巻き込んでしまっている。

思慮の浅い、雑な行動を今後は避けなくてはいけない。


このような今回の出来事の反省はすでに何回もした。

もうやることがない・・・本当に暇だ。

ハンナさんと2人で部屋にいるが、何か話すわけでもない。

まあ、いつも通りだ。

というかハンナさん、額に板が貼られたまま、ずっと同じ体勢で椅子に座り続けている。

とんでもない精神力だ。

さすがウェンライト家なだけあって鍛え方が違うな。


うーん・・・そういえば軟禁1日目は空気を読んで部屋から一歩も出なかったけど、別に部屋に鍵がかかっているわけでもないし、ふらついても怒られないんじゃないかな。

それに、今のハンナさんは魔術による武力は封印されてるし、最終的に言語翻訳トランスレーションで情報は秘匿されるし、俺がうろついても大丈夫な気がするけど。

あれ、これは今さっき反省した"雑な行動"というやつか?

外に出ようか悩んでいると部屋の外からせわしなく走ってくる音が聞こえた。


「召喚者様はいますか!いやーグレイ様から聞きましたよ。災難でしたね。」

「先輩さんではないですか。何か用ですか?」

「ちょっと来てくれませんか?」


"馬のいらない荷馬車"こと自動車もどきを作っていた先輩さんが部屋に突撃してきて、俺の腕を引っ張って実験室に連れてきた。

先輩さんナイスです。

よくぞ俺を暇から救ってくださいました。

部屋にはぽつんと自動車もどきが置かれている。

魔術陣は一つも見えない。


「召喚者様!見てください!」

「ひもが2本ついてますね。」

「この間の意見を参考にして試しに作ってみました。一緒に乗ってもらえませんか?」

「えっ・・・ちょっと!」


先輩に腕を引っ張られ、無理やり自動車もどきに引きずりこまれた。

いや、怖いんですけど。

このだだっ広い部屋にぽつんと置かれた自動車のようなもの。

俺は見たことがあるぞ。

壁に向かって突撃する自動車事故の実験をする動画を。


「さあ・・・いきますよ!」

「いや、何をするか説明してから・・・うわああああ!」


先輩さんが2本のひもを同時に引っ張ると車は急発進した。

加速とかは無い。

いきなりフルスロットルの最高速が出ている感じだ。

右側のひもを引っ張るとほぼ直角に右に曲がり、2本のひもを再度同時に引っ張ると急停止した。

俺の体は宙に浮いた。

すると先輩が俺の服を引っ張り、尻からシートに叩きつけた。

尻も痛いし、死ぬかと思った。

今まで乗った、どのアトラクションよりも怖い。

なんで俺は自動車の存在しない異世界でシートベルトの重要性に気づかされているんだ。


「ふぅ・・・いかがですか!ジドウシャとやらに近づきましたか?」

「ふざけんな!殺す気か!」


俺はこの"アトラクション"の問題点を指摘した。

そこからは俺と先輩さんで魔術大典を見ながら、問題点の解決のためにお互い知恵を出し合った。

もちろん、俺は魔術のことは詳しくは分からないし、先輩さんも俺が住んでいた世界のことは知らない。

お互いの知らないところを教え合い、すり合わせながら正解を探していく。

今やっていることは、キーボーツを作っていく時のルカと俺の関係に近いだろう。

これはいい練習になる。

何度も練習台になってくれる、この先輩さんには感謝しきれないな。

それに、目を輝かせ、楽しそうに俺と議論をしている。

シルバさんが言っていた・・・ルカは楽しそうに魔術を学んでいたと。

ルカにはこの先輩のような、魔術を純粋に楽しむ感情を取り戻して欲しいな。


「さて、ありがとうございました。そろそろほかの仕事に行かないといけないので。」

「はぁ。頑張ってください。」


先輩さんは元気にお辞儀をすると、小走りで部屋から出ていった。

さて、再度暇になったな。

今は何時なんだろうか。

先輩さんに連れ出される前にお昼ご飯を食べたし、そこからそれなりに二人で話してたからな……やっぱり時計がないのは不便だな。

時間の考え方は元の世界と同じだが、時計の値段が全く異なり、とんでもなく高い。

いつか、この世界で大金稼げるようになったら買いたいもんだな。


「おい。何を我が物顔で廊下をほっつき歩いているんだ?」


時計が欲しいと考えていたら、後ろから聞き覚えのある高圧的な声が聞こえてきた。









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