第2話 夢か現実か。

眩しい……。

目覚めた時、蛍光灯ではなく巨大なシャンデリアが煌々と輝いていた。

それに、ベットが馬鹿みたいにでかい。


なにこれ?

ここどこ?

昨日、家で編集して、動画投稿して、酒飲み始めて……飲み始めた以降の記憶が全く無い。

俺……泥酔して知らないうちに深夜にもかかわらず放浪しちゃった?

でも、放浪したからと言ってこんなところにたどり着くのはあり得ないだろ。


酒は飲むけど危ない薬はやっていない。

実はアルコールは大麻より危険とか言うけど、今の状態がアルコールによる幻覚なら一生飲まないと誓おう。

それに目覚めが良すぎる。

目覚めが良いというか寝てたという感覚が無いし、酒を飲んでいた感もない。

確実に次の日に残る飲み方をしていたと思うんだけど。


それにしてもかなり広い部屋だ。

金色の豪華絢爛な装飾品に、赤い絨毯、この部屋に入るための扉もめちゃくちゃでかい。

一応、寝室か?


いや、そこはどうでもいい。

俺がなぜいつもの場所で寝ていないかという点だ。

拉致監禁?

いや拉致されたとしたら、どうして寝てるところのレベルが上がるんだ。

それに運ばれていることに気づかないのもおかしい。

いや考えるだけ無駄だ。

妙にくっきり世界を感じ取れるが、きっと夢だろう。

後々目が覚めて、二日酔いをしっかり感じれるはずだ。


ギィィ……

扉が開き誰かが入ってくる。


「目が覚めたかね?」


立派な髭をたくわえ、えらく膨らみ垂れ下がった袖の服にマント羽織ったおじさんが歩み寄ってくる。

王だ……。

世界史は全然知らないけれども、昔のヨーロッパ諸国はこんな奴が統べていたんだろう。

王が俺を見下ろしながら口を開いた。


「私はダービス・ウォール。現カンナビア王国国王だ。お主の名は?」

「あぁ……その町田蓮斗と申します……。」


目の前の王様の威厳に気圧され、気づいたらベットの上で正座になっていた。

ん?……自分の声が普段と違う気がした。


「それではレント君に問う。君の職業はなんだね?」


なんで出鼻から職業聞いてくるんですか。

理想の高い婚活女かよ。

俺をここに連れ込んでおきながら、職業はまだしも、名前すら分からないのか。


「いや、その…… ここはいったいどこで、私はなんのために連れてこられたのでしょうか?」

「今まで君と同じ立場の人間を沢山見てきたが、毎回同じような反応をするよ。まぁ訳が分からないだろう。」


俺に優しく笑いかけながら話す。

これが国を統べる王。

気高く広い心を持っている。


「まぁとりあえず説明をしよう。ちょっと待っててくれ。今、使用人がビデオを持ってくる。」


ビデオがあるのか。

目の前の雰囲気から感じとれる時代と合わないな。

日本人は世界史としての王様の方が馴染みがあるから、昔のものと感じただけか。

普通にイギリスとか王がいるしな。


扉が開きメイド服を身にまとった女性が台車に木箱を乗せて運んできた。

すっと通った鼻筋に白く透き通るような肌に青い目、綺麗な銀髪のとんでもない美人だ。

そのメイドさんは王様にハンナと呼ばれていた。


ハンナさんはベット脇に木箱が乗った台車を止め、俺の方に軽く会釈した。

台車の上に置かれたこの木箱がビデオを再生する機械か?

モニターとかないのかな。


「これはカンナビア王国にあなたが呼ばれた理由を説明するためのビデオとなっております。」


呼ばれた理由?

呼んだ理由がありながら俺の名前すら知らないときたもんだ。

それにこの王国には人が寝てる間に気づかれず好き勝手呼び出す技術があるということだ。

……とんでもない。

とんでもないというより、俺の脳内が厨二病臭い。


「本来、国王様が呼び出しているのですから御自身で説明するのが筋であり、責任なのですが、毎回同じ反応で面倒くさいとのことで、最近はビデオでの説明となっております。」

「面倒くさいなど思っとらんわ!ただビデオで事足りるのなら、それで良いと思ってるだけじゃ。」


それを面倒くさがっているというのでは?

ハンナさん厳しいな。

パワーバランスひっくり返ってるけど。


「王様……もういいですか再生して。」

「わしも久しぶりだから一緒に見ようかの。」


ハンナさんと王様はベットに腰かけた。

こんな広い豪華な部屋で何をワンルームに住む大学生みたいなことをしているんだ。

ハンナさんはスイッチを押し電源を入れ、くぼみに細い板?を差し込んだ。


「うぉい!なにこれ!?」


突如、箱の上に赤い円形状の模様が現れ、空中に映像が投影された。

起動の仕方までは俺が知るビデオと似ていたが電気で動いているとは思えない。

これ……魔法か?

てか綺麗さに目を取られ気にしてなかったけど、ハンナさんの耳、かなり長いし尖ってるな……。

ビデオとか言うから現実味あったのに急に話がファンタジーになってきたな。


ビデオの映像もしっかり編集されていた。

オープンニングから始まり、若かりし王様がでかい魔法陣を発動させ人を召喚している映像が流れた。

ナレーションまでついてやがる。

それを見たハンナさんが


「王様若いですね。かっこいいです。」

「そうかのー。」


何を大人になった娘と父がホームビデオを見る時あるあるをかましているんだ。

……随分と仲がいいな。


「まぁつまり、私は4年に1度、この国に必要な人材を遠い異国の地の日本から1人呼ぶことができる。呼んだ人物が何をできる人かは分からんがの。」

「話しながらビデオを見るのであれば最初から御自身の口で説明すればよろしいでしょうに。」


ハンナさんからのツッコミが入った。

どうやら俺はこの国に必要な人材として呼ばれたらしい。

ただ王国は呼べる人材を選べる訳では無く完全ランダム。

さらに王様の召喚は4年に1回だけ。

なんでも、毎日コツコツ魔法をかけ続け、約4年で術式として完成するとのこと。

そんな大魔法だから、申し訳程度にどんな人が来るか予測はしているらしいが当たった試しがないもんだから、考えても無駄だし、4年に1回、同じ日に召喚させることにしたらしい。

……ソシャゲのガチャかよ。

4年に1度の大魔法で呼ばれたのが俺だ。

残念ながら今回のガチャは外れらしい。

俺みたいな活動をしていた人間が国の問題なんてどうやって解決するんだ。

ちゃんと国で話し合って、レア確定の時に回さないからこうなるんだ。


それともう一つ気になることがある。

王様が召喚の儀を行う前にすでに誰かがベッドに寝かされている。

召喚されると寝ていた人間が目を覚ましていた。

俺が知る召喚のイメージと違うんだけど。


「あのー召喚される前から誰かがすでに寝かされていますが……。」

「ああ。今、姿見を持ってくる。」


王様が持ってきた姿見を見ると、俺の見た目が完全に別人になっている。

黒髪だが目の色が赤いし、俺が着ているネグリジェみたいなものから見えてる左肩には入れた覚えのない波模様のタトゥーが入っている。


「君の体はトスカノ・ハスレム、20歳。死刑囚のものだ。その体に君の人格と記憶を上書きすることで、元の体の持ち主を人格的に死刑を執行している。」


厨二臭い設定が追加された。

夢でこんなのを見るということは精神的に俺は14歳から成長していないのか。

さて、絶賛厨二病発症中の俺が考える、トスカノさんとやらの死刑宣告されるほどの大罪は何だったんだろう。


「それではレント君。君の置かれている状態が分かったうえで再度聞こう。君の職業はなんだね?」

「……えっと。」


なんて説明すればいいんだ?

自分たちは自信を持って動画で飯を食うことを立派な職業だ!と言い張ってきたけど、いざ説明しろと言われると厳しいものがあるな。


「そうですね。今程流れた動画のようなものを作成して投稿することで生計を立てておりました。」

「テレビの人か?」


この世界テレビもあるのか。


「いや……テレビではなくてですね……。皆が面白いと思う動画を作って投稿して広告料を頂いてました。」

「ふむ……わからん。だが君が楽しそうなことをしていたことはわかった。」


テレビはあってもさすがに動画投稿サイトみたいなのはないのか。

俺が見ているこの夢の設定は少し昔の時代なのか。


「それに、その趣味のようなものがいったい、この国のなんの役に立つのだろうか。相変わらず日本は面白いな。」

「……別に日本だけではないですよ。」


王様は髭を擦りながら考え込んだ。

趣味か。

でも、それを真剣に毎日続ければ立派な仕事になるんですよ……王様。


「まぁ私が考えても答えなど出ないのであろう。」


王様は窓の方を見た。

窓からでも外には満天の星空が広がってるのが分かった。


「明日レント君にはぜひこの国を散策していただきたい。何か役割が見つかるかもしれんからな。」

「私の方がマチダ様を案内していただきます。今日はこちらのお部屋でお眠り下さい。」


おっ美人メイドさんの案内か。

楽しみだけど、残念ながら夢だ。


「分かりました!!どーんとお任せください!!」


分からないことだらけだけど、とりあえず胸を張って肯定する。

王様とハンナさんが部屋から出ていき、広い部屋に1人になった。

いやー久しぶりに楽しい夢を見た。

【衝撃】昨晩見た夢再現してみた!的な動画撮ろうかな。

衝撃でもないし、すでに誰かやってそうだけど。

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