盲目なスケモンファン

裏木

スケットモンスター

 「スケットモンスター」、通称「スケモン」とは、子供から大人まで幅広い世代に愛されている人気コンテンツである。ゲームやアニメ、映画まで、多くのメディアで熱狂的なファンを獲得している。


 俺、田中健太も、そんなスケモンファンの1人である。とはいえ、一ヶ月前にハマった新参者だが。

 クラスの多くの人間がスケモンにハマっていたが、逆張りして俺は「絶対に見るものか」と、一切手を出さないでいた。しかし、5歳年下の妹が、「お兄ちゃんも一緒にスケモン見ようよ」と誘ってきたため、アニメ視聴に至った。


 その結果、俺は見事にスケモンにどハマりした。主人公と相棒のピカピカッチが繰り広げる大冒険。仲間と共に多くのスケモンに出会い、触れ合う感動ストーリー。涙なしでは見られない劇場版。俺の心は完全にスケモンに掴まれた。


 しかし家族は、そんな俺に対して苛立ちを感じているようだった。うちは、共働きの親と、妹と、飼い犬の都影とかげと、俺の5人家族だ。家族の中でも特に母親は、俺がアニメを見るから他のテレビを見られないとか、夜遅くまで見ていて体に悪いとか、何度も俺に注意してきた。母親が専業主婦だったらテレビが見られないなんて苦情は言われないのに、と俺は思った。


 だが、さすがにこのまま観続けていては、いずれスケモン禁止になってしまうと俺は危機感を覚え、手を打つことにした。

 そして、俺はスケモンのDSゲームを購入することにした。DSゲームならテレビなどの家族共有の物を独占して怒られることも無いし、夜まで隠れてプレイ出来る。

 中学生の俺の小遣いは少ないものの、俺は使う機会が少なかったため、DS1万4000円、カセット5000円、合わせて約2万円を出してゲームを買うことができた。もちろん、家族には内緒で。


 家に帰った俺は、早くゲームをしようと手も洗わずに自分の部屋に向かった。しかし、

「お兄ちゃん、それなに?」

 妹が声をかけてきた。


 いつもは可愛い妹だが、今は鬱陶しいと思ってしまった。早くゲームをしたいのに、ここでゲームを買ったことがバレたら計画が丸潰れだ。俺は急いでDSの入った袋を後ろに隠した。


「ごめん、お兄ちゃん今急いでるから…」

「なんで?スケモン見るの?かすみも見たい」

「……」


  ああ、めんどくさい。

 俺は早くスケモンをやりたいのに。いつも俺を馬鹿にするクラスのウェイ系の奴らに、俺のプレイを見せつけてやりたいのに。


「俺はいいから、都影とでも遊んでこいよ」

「とかげはお母さんと散歩してるよ」

「……」


 言い逃れる材料が尽きた俺に、妹が口を開いた。


「お兄ちゃん、スケモン楽しんでくれるのはかすみも嬉しいけど、最近そればっかりじゃない?」

「えっ」


 俺は思わず顔を上げた。かすみは、少し拗ねているようだった。


「勧めたのはかすみだけどさ。最近のお兄ちゃんはとかげの散歩にも行かないし、なんかつまんない。」


 あまりにもその通り過ぎて、言葉も出ない。俺は、後ろに袋を隠していることが急に恥ずかしくなった。


「とかげって名前、一緒に付けたのに、お兄ちゃん全然遊んであげてなくて、とかげかわいそうだよ」

「ごめん…」


 俺はとかげの名前をかすみと決めた時のことを思い出した。尻尾が他より少し長いからとかげって名前を付けたんだっけ。俺が漢字はカッコよく都影にしようって言って、かすみは「むずかしいからやだ」って却下して。


「お兄ちゃん、お母さんのことめんどくさいって思ってるんだろうけど、お兄ちゃんの事心配してるのはお母さんだけじゃないよ」

「は、え?俺そんな事思ってないよ」

 驚いて食い気味に反論する俺。

「お見通しだもん」

 ちょっと得意な顔をして、かすみは言った。

「スケモンもいいけど、たまには普通のクイズ番組とかもみたいな」


 俺は純粋で優しいかすみを見て、これまでの行いを猛烈に恥じた。

 お母さんの心配に耳を貸さずに、それどころか、めんどくさい、どうやって怒られずにスケモンを見ようかなどと作戦まで立てて。


「ごめん、かすみ。そうだな、今日はQサマ!でも見ようか」

「Qサマ!は月曜日だよー」


 そう言って笑うかすみを見て、俺はどうせなら2人で遊べるゲームにすればよかったと思った。


 翌日、俺はスケモンのDSとカセットをもう1つずつ買ってきた。DSの色はかすみが好きなピンク色だ。小遣いは昨日と今日で合計4万円も無くなったが、今までの行いに対する罪滅ぼしだ。


 DSを見せると、かすみはとても喜んだ。早速2人でプレイしてみたが、バトルは思った以上に難しかったし、クラスの奴らに目にもの見せてやろうだなんて考えは甘かったなと思った。


 かすみは、テレビに出てきたスケモンが登場する度に「これ知ってる!」と言って嬉しそうにしていた。

 俺はかすみがそのスケモンを知っているということは分かっていたが、「そうなんだ」「すごいね」と言った。そういうと、かすみが更に「このスケモンはみずタイプでね、攻撃がすっごい強くてね、」と解説してくれるのが可愛かった。


 もう、かすみのことも、とかげのことも放ったらかしにしたりしない。俺はそう決めた。

「最近はね、物怪もののけウォッチって言うのが面白いんだって」

「じゃあ、今度はそれも見てみようか」

 スケモンより、ゲームより大事なものはもっと近くにあるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

盲目なスケモンファン 裏木 @kumasandayu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ