ある兄弟の関係

じゅんとく

第1話

 彼の名は石井徹(いしい とおる)地元の市立中学校に通う普通の男子生徒だった。


 その年の4月初旬……彼は中学2年生になり新学期が始まって数日が経過した日の事だった。彼は何時もの様に学校へと登校した。下駄箱で彼は上履きに履き替えて教室に向おうとした直後。


 「おい」


 「うわッ!」


 下駄箱がある棚を曲がった廊下に側面した場所で何者かが待機していて……突然声を掛けられて彼は転倒してしまった。


 「イテテ……」


 ふと……彼は目の前を見ると彼の前には見慣れない美しい少女の姿があった。彼女はしゃがみ込んで徹を見ていた。


 美しく艶のあるロングヘアー、色白でキメの細かい肌…凛とした顔立ちに円らで黒い瞳の少女…。


 無表情な眼差しで彼女はジッと徹を見ていた。


 「大丈夫か?」


 「あれ……君は?」


 「今年からうちのクラス2年1組に転校して来た竜ヶ崎麗奈さんよ」


 彼女の側にいた付き添いの生徒が徹に声を掛ける。

 

 「ふうん、お前が石井徹か……」


 「そうだけど……何か?」


 「いや、別に……」


 そう言って麗奈は振り返って教室へと向かう。


 「何あれ?」


 「ん……彼女が、石井って名字の人を探していたのよ。うちの学校で石井って名字は貴方だけだったから紹介したのよ」


 「何でなの?」


 「さあね……?」


 付き添いの生徒は不思議そうに首を傾げた。


 その日、お昼の休憩中……同じクラスの男子生徒達と徹は一緒に話をしていた。


 「そう言えば、隣のクラスに美人の女の子が転校して来たってよ……どうする徹君?」


 「なんで僕に声を掛けるのよ」


 「だって君……女の子にモテモテじゃない」


 「そんな事ないよ、だいいち……美人だからって可愛いとは限らないし、もう他の誰かと関係作っているだろう?」


 「案外そうでも無いかも?」


 近くに居た女子生徒が教室の出入り口を見て言う。


 「どうしたの?」


 「彼女、ずっと貴方を見ているわよ」


 女子生徒に言われて徹が教室の出入り口を見ると…今朝会った麗奈がジッとこっちを見ている事に気付く。


 「お前の事が気になるんだよ絶対に、隅に置けないな……」


 「そうと決まったワケじゃないだろ?それに彼女って無表情じゃないか。あんな女の子と一緒になる人がいたら、その人に同情しちゃうよ」


 徹の言葉に周囲の男子達に笑いを誘う。


 麗奈と言う少女が自分を見ている事が気になった徹は、その日一日頭の中から彼女の事がずっと気になっていた。


 休憩中に彼女に声を掛けても何も答えて貰えず、結局のところ何も分からないまま下校を迎えた。


 下駄箱の棚の場所で徹は女子達と話をしていた。すると…それを横目に麗奈が徹の側を横切る。


 彼女が先に校舎の玄関を出ようとした際、徹は彼女に声を掛ける。


 「麗奈さん、また明日ね」


 それを聞いた麗奈が無表情のまま徹をジッと見つめ、しばらく沈黙を置いてから徹に声を掛ける。


 「お前……親とは何も話とかしないのか?」


 「へ……?母とは毎日話はするけど……何で?」


 「そっか……まあ、いずれ分かるだろう。じゃあ、また……明日」


 そう言って彼女は先に帰る。


 「ねえ……何アレ?」


 「ちょっと変わっているわね」


 「徹君、彼女となんかあったの?」


 「え……いや、彼女とは今日が初対面なんだけど……」


 「以前、どこかで会ったとか?」


 「それは絶対に無いよ」


 消化されない気持ちのまま徹は家に帰る事にした。


 彼は何時もの様に帰宅する。彼が住んでいる家は、街外れにある安物アパートの2階だった。


 築30年以上が経過したボロアパートで、入居者も彼の家族と、下の階に住む老夫婦だけだった。彼は部屋のドアを開けると、部屋には珍しく母の姿があった。


 普段……母は仕事の関係上、帰宅は毎日夜6時〜7時位だったが……その日は、まだ4時位なのに帰宅していた。


 「ただいま、珍しいね母さん…今日は仕事終わったの?」


 「あ……お帰り徹、ちょうど良いわ。大事な話があるのよバックを置いて来なさい」


 「はい」


 学校用のバックを置いて来た徹は、居間にで待っている母のところへと向かい、テーブルの前に座り話を始める。


 「ねえ……徹、母は再婚する事に決めたわ」


 「え……何で急に?」


 「色々と考えてね……何よりも、貴方の事を思っての事よ。ちょうど知り合いが紹介してくれた相手と会ってね、とても良い人なのよ。貴方も今度の日曜日に一緒に来てもらうわね」


 突然の話に徹は少し驚いた。


 「僕は今のままでも十分だけど……で、相手の人って誰なの?」


 「竜ヶ崎って言う方なのよ、貴方も会えばきっと気に入ってくれると思うわ」


 「ふ〜ん」


 (え……竜ヶ崎?)


 徹はハッと麗奈の言葉が頭を横切る『まあ、いずれ分かるだろう』その言葉の意味が、今理解出来た。


 (ま……まさか、今日……僕を見ていたのも全て、この事だったの?あんな無表情で不愛想な女と一緒になるの?)


 彼は今日学校で男子達の前で言った言葉が自分に跳ね返って来るのを感じた。


 「お……お母さんは、もう……その相手と会ったの?」


 「ええ……もう、お互い何度か会っているわ、今度貴方達も会って……そこで正式に再婚の話を決めるのよ」


 「そ……そうなんだ」


 徹は愛想笑いしながら答える。


 (きっと……別人だ、アイツが母の再婚相手に居る筈が無い)


 少し震えながら、徹は湯飲みに茶を入れて軽く飲み始める。


 「そう言えば……相手の人も貴方と同じ位の年齢の子が居るとか言ってたわね」


 ブッ!


 徹は思わずお茶を吹き出してしまった。


 「ゴホッ、ゴホッ!」


 「どうしたの……大丈夫?」


 「う……うん、平気」


 ますます麗奈と一緒になる可能性が濃くなって来た。


 (こ……今度の日曜日まで3日ある。それまでにアイツに直接聞こう)

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