第14話

 学校に着いたのは遅刻ギリギリの8時25分頃だった。僕以外の皆は既に到着しており、空き席が僕の席のみで皆にぶつからないようにゆっくり席に行くと、後ろから冴香ちゃんが声をかけてくる。


「おはよ」

「おはよう。冴香ちゃん」

「今日は遅かったね」

「ちょっと色々あってさ」


 授業に使う道具を全て机の中に仕舞いながら話していると、冴香ちゃんは僕の背中に指を当てながら、何かを書き始める。


「な、なに?」

「当てて」


 背中をゆっくりと伝わる指にくすぐったくなりながらも、何の字が書かれているかを当てようと神経を集中させると、背中に書かれた文字は「好き」という文字だった。


「冴香ちゃん正解は【好き】?」

「正解」

「急にどうしたの?」

「ううん。ただ書いてみただけ」


 僕は冴香ちゃんにもう一度問おうと、後ろを振り向こうとした途端だった。教室のドアが開き1時間目の授業の時間を迎えてしまっていた。


「おはよう。さて数学の時間だ。教科書出して〜」


 教科書とノートを机の上に置いて、教師の授業を聞きながら数十分経った頃だった。再びあのくすぐったさが背中を襲う。冴香ちゃんの仕業だと分かっていたが、なんと書かれているかまた当てようとすると、SOSと書かれる。


 僕はバッと後ろを振り向くと冴香ちゃんは息が荒くなっているだけでなく顔が真っ赤になっていた。風邪を引いたのか具体が悪そうで、SOSと書いたのだろうと察して、僕は教師に手を挙げた。


「おー。どした?」

「冴香ちゃんが具合悪そうなので保健室に連れて行っても良いですか?」

「おーまじか。連れてってやれ」


 僕は冴香ちゃんをおんぶして保健室まで連れていく。


「冴香ちゃん大丈夫?」

「うん。ありがと」


 息がとても荒く、早く連れていかなければと思いスピードを上げると、冴香ちゃんは耳元で囁く。


「りゅーくん。好き……」

「え?」

「りゅーくんりゅーくん……」


 1度も呼ばれたことの無い呼び方と、突如として言われた「好き」という言葉に僕は何も言えず、こう思うことにした。


【冴香ちゃんは風邪で弱ってるから、連れて行ってくれてありがとう】という意味で【好き】と言ったのだと。


 5分後に保健室に着いて、冴香ちゃんをベッドまで運んであとは保健室の先生に任せようと保健室を出ようとした瞬間だった。


「りゅーくん行かないで……」

「へ?」


 弱々しい声で僕を止める声が聞こえる。チラッと見ると保健室の先生はニヤニヤと笑いながら言う。


「ちょっと居てあげたら?」

「え、でも授業」

「私が先生に伝えておくよ。何先生?」

「緒方先生です」

「分かった。じゃ、待ってて?」


 僕は保健室の先生の勢いに負けて、少し冴香ちゃんの傍に居ることになった。


「りゅーくんありがと」

「ううん。少しだけだよ」

「ありがとぉ」


 いつものクールさが無くなり、弱々しくなっている姿に、そして甘えまくる冴香ちゃんに僕は心配になってしまい頭を撫でながら、1時間目が終わるまでずっと傍に居た。

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