第17話 VS剣術部

 選手の入場が終わると闘技場の大モニターに試合のルールが表示され、実況の七三メガネこと古舘宗一郎がルールの説明に入る。


「ではここでこの試合のルールをご説明いたします。

 試合は七対七のチーム戦で行われ、先に相手チームのリーダーを倒した方の勝利となります!

 スキルによる破壊力を伴った直接攻撃は全面的に禁止てすが、自己強化や妨害のために使うことは可能です。

 武器弾薬も訓練用のものを使用します。ただし当たりどころが悪いと普通に痛いので舐めてかかっていると怪我するぞ!」



「────ふふっ、お得意の飛燕斬は使えないのに性懲りもなくまた挑んでくるなんてね」


「ハッ! 生憎今日の主役はアタシじゃねぇからな。テメェの無敗伝説も今日で終わりにしてやんよォッ!!!!」


 RBに乗ったリザ部長と華凛が画面越しに睨み合う。

 両者が率いる部員たちが定位置につき、今開戦のゴングが鳴る!


「さぁ両者定位置につきました。試合開始です!」



 魔弾の射手﹢倍化﹢電光石火!!!!



 まず仁奈が構えたショットガンから捕縛用のネットが連続して発射される。


 そこへ大輝が倍化を使い、捕縛ネットの速度と重量を三〇〇〇倍まで増加。


 最後に華音が捕縛ネットに電流を流せば、標的を捕まえるまでどこまでも追いかけてくる地獄の超音速捕縛ネットの完成だ。


「「「「「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」」


 紫電が弾けると、網に絡めとられた剣術部の部員たちの機体に高圧電流が走り、華凛以外の剣術部は開幕一秒で全員気絶した。


「────あらあら、この程度でやられちゃうなんて、鍛え方が足りなかったかしら」


 訓練用の模擬刀を振り払い華凛が嘆息する。

 直後、剣術部員たちを捕らえていたネットがバラバラに切り裂かれ、黒焦げで倒れ伏す六機のRBが露わになった。


「おおーっと!? いきなり大番狂わせ! 剣術部は部長の華凛様を残して全員戦闘不能だぁぁぁッ!!!!」


 意外な展開に会場がどよめく中、スキルアーツ研究部の一年生たちも、改めて目の当たりにする生徒会長の実力にざわついていた。


「あれ、模擬刀だよね……? ほ、本当になんでも切り裂いちゃうんだ……」


「……アカン、動きまったく見えんかった。なんやあれ、人間やあらへんやろあんなん」


「ビビってんじゃねぇ! ヤツのスキルはもう教えてあんだろ! スキルを使った直接攻撃ができねぇのは向こうも同じだ! 臆せず畳み掛けろ!」


「あら、直接攻撃できずともやりようはいくらでもあるのだけど?」


「あ、あれっ!? なにこれ動けない!?」


 気がつけば、だ。

 いつの間にか仁奈とリザ部長の機体は鋼鉄に置き換わっていた。


 剣術部部長にして生徒会長、月見里華凛のスキル『分子の支配者』

 文字通り分子を支配するこのスキルは、現状地球上で確認されているスキルの中でも最強クラスのスキルだ。


「ふふふっ、これで佐々良さんのスキルはこれでもう使えないわね」


「けどもうその技は使えねぇだろ! テメェが同時に二つ以上の物体の分子配列を変えたままにしておけねぇのは承知済みなんだよッ!」


「あら、勉強熱心。でもこれで貴女はもう動けない。実質戦闘不能じゃなくて?」


「ハッ! それはどうかな! 方波見ィ!」


「アイマムッ!」


 鋼鉄の巨像と化したリザ部長の機体に駆け寄った紗良は、おもむろにその足首を掴むと、


「どっせぇぇぇい!!!!」


「っ!?」


 気合一発、部長の機体を大剣のようにブン回して華凛に切りかかった!

 全身刃だらけの機体は一振りの巨大な剣と化し、刃の先から発せられた斬撃波が華凛の模擬刀をバラバラに切り裂いた。


「ガァーッハッハッハァ! どうだ! アタシにはまだ戦闘継続の意志と攻撃手段が残ってんだよッ! これなら戦闘不能とは言えねぇだろ!」


「相変わらず滅茶苦茶するわね。これって判定的にはどうなんですか校長先生」


 華凛の機体の首が審判席の方へ向く。

 するとすぐさま審判を務める校長がルールブックを確認し、ルール則った判定を下した。


「戦闘不能の条件は、戦闘を継続する意志の喪失、または攻撃手段の喪失、あるいはその両方とある。よってこの場合神々廻の言い分が正しい」


「ど、どうやら試合はまだ続くようです!」


「先がどうなるのかまったく読めませんね。これは下克上もあるかもしれませんよ」


 古舘と穂波の実況解説コンビの言葉を受け、会場のどよめきは徐々にスキルアーツ研究部への声援に変わっていく。

 

「ガハハハッ! アタシを鋼鉄化させたのは悪手だったなァ! ルール上テメェはアタシをスキルで壊せねぇ! 無敵の剣の完成だオラァ!」


「オラァ!」


 紗良が鋼鉄の巨像を遮二無二ブン回して華凛に殴りかかる。

 一撃一撃が必殺の威力を秘めた連続攻撃を華凛は舞うようなステップでひらりひらりと躱してゆく。


 すると、突然。


「あ……えっ?」


 踏み込むために前に出した足がズレ落ち、支えを失った紗良の機体が勢い余って土煙を上げ派手に転倒する。


「なんやこれ!? 機体が動かん!? 安全装置が作動しとる!? いつの間に!?」


「おおーっと!? どうしたことだ方波見選手! 突然足が切断されてしまったーっ! 安全装置のせいで神経接続が強制切断されて動けずにいるようです!」


「武器が無いなら作ればいいのよ」


 いつの間にやら、華凛の手には黒光りする一振りの刀が握られていた。

 仁奈の拘束を解く代わりに地面の分子を操り武器を作り出したのだ。


 華凛の機体の手元がかすかにブレる。

 瞬間、投げ出された部長の機体が関節に沿って細切れになり、ガラガラと崩れ落ちた。


「スキルで作った武器で攻撃するのはルール違反ではないわよね?」


「ハッ! 織り込み済みだぜ! 月見里妹ォ!」


「行きますッ!」


 華音がバラバラに崩れ落ちた部長の機体にスキルを使う。

 すると細切れになった鉄塊がふわりと持ち上がり、空中で鉄の手足が電磁力に引かれあって元の姿を取り戻していく。


「フハハハ! 名付けて超電磁モードだ! オラオラオラオラァ!」


 華音の操り人形となったリザ部長の機体が華凛機に超高速の格闘戦を仕掛ける。

 部長機が手足を繰り出す度、手足の刃から斬撃波が放たれ、空中で機動を変えた斬撃波が華凛機が持つ刀に殺到した。


「残念だけどこれで詰みよ」


 ふっ、と。

 それまで鋼鉄化していた部長機が元の分子配列に戻る。

 鋼鉄化が解除されたことで、手足を切断された痛みがリザ部長にフィードバックされ……


「今だ! やれチンピラども!」


「「アイマムッ!」」


 ここでチンピラコンビが動いた。

 ウニ頭の『超再生』スキルを、剃り込み坊主の『シャッフル』スキルでリザ部長の『飛燕斬』と入れ替える!


「よっしゃぁぁぁぁっ! 完 全 復 活ッ!!!!」


 切断された手足が『超再生』により繋がり、部長機が元の姿を取り戻す。

 『シャッフル』は右手と左手で触れた二つのモノの位置や特性、能力などを入れ替えるトリッキーなスキルだ。

 大将首が取られかけたときの保険に、試合が始まる前に予め二人に触れておいたのである。


「どうだ! これで振り出しに戻ったぜ!」


「あらあらあら、面白い手品ね。けどこのままじゃ千日手よ?」


「アタシがトドメを刺そうとすれば、な」


「あら、貴女以外に私にトドメを刺せそうな人なんていないと思うのだけど」


「その慢心が命取りだぜ! 最強!」


「これでぇぇぇぇッ!!!!」


「っ!」


 突如頭上を濃い影が覆い、華凛が上を見上げた、次の瞬間!



「終わりだァァァァァッ!!!!」



 ズッドォォォォォォォン!!!!


 面積三〇〇〇倍。

 巨大隕石と見紛う破砕槌の一撃が華凛の頭上から降り注ぎ、凄まじい衝撃波が場内に吹き荒れる。

 スキルで打撃の威力を増幅するのはアウトだが、巨大化させた武器で殴るのはグレー寄りのセーフだ。


 空の王の頭を吹き飛ばした際に飛び散った肉片から採取された因子により、大輝のRBは飛行能力を獲得している。

 戦闘のどさくさに紛れ空へ上がっていた大輝は、この一撃のために息を潜め隙を伺っていたのだ。

 RBは空を飛べないという思い込みを利用した不可避の一撃。


「ふっ、ふふふふ……!」


「っ!?」


 だが、


「まさかこの姿を見せることになるなんてね。認めましょう。あなた達は強い。なにせ私に本気を出させたのだから」


 怪物、月見里華凛には効かなかった。

 破砕槌の一撃は人差し指一本で受け止められ、その一点から亀裂がビキビキと広がってゆく。


 バキン!

 とうとう自重に耐えきれず崩壊した破砕槌がボロボロと崩れ落ち、あまりに衝撃的な光景に誰もが目を見開く。


 女性的な曲線を描く漆黒の美しい機体は、その体積を増し男性的なフォルムへと姿を変えていた。

 色も艶めく黒から光沢のない灰色へと変わり、全身の各所から生えた棘のせいもあって、その姿はどこか魔王を彷彿とさせた。


「……っ! まさか、この世に存在しねぇ新物質で機体を再構築したのか!」


「ご名答。今、この機体はブラックホールの重力にも耐える強度を手に入れた。さしずめ『パーフェクトフォルム』といったところかしら」


 あなた、そういうの好きでしょ? と、画面越しに華凛が微笑む。

 対するリザ部長は最早それどころではなかった。


 部長が立てた作戦はすべて、『月見里華凛の能力は地球上に存在する物質しか分子変換で作り出せない』という前提で成り立っている。

 完全に未知の物質を生み出されてはどれだけ策を練ろうと対応不可能だからだ。


 今、その前提が崩された。

 ブラックホールの重力にも耐える強度の新物質なんてデタラメを作り出せるなら、もうどんな攻撃をしようと無駄だ。

 後出しジャンケンのようにあらゆる攻撃に対応した新素材で機体を作り変えられ、こちらの攻撃はすべて無効化されてしまうだろう。


「諦めて降参したらどうかしら。これ以上続けても怪我人が増えるだけよ?」


「……めない」


「華凛ちゃん。これはあなたのために言ってるのよ。お姉ちゃんあなたに怪我させたくないわ」


「嫌! 絶対に諦めない! 諦めるもんかっ!」


 華音の魂の叫びに、会場がしんと静まり返る。


「お姉ちゃんはいつもそう! あなたのため、華音ちゃんのためって、優しい顔して私からあらゆる機会を奪っていく! そのくせ自分はいつも一番で、お父さんとお母さんの愛情も独り占め! ……ずるいよ! 私があなたに何をしたっていうの!? どう頑張っても一番になれない私を影で笑ってたんでしょ!?」


「ち、違うわ華音ちゃん! 私はただあなたに楽な道を示してあげたかっただけで……!」


「それが余計なお世話だってどうして分かってくれないの!? 私はただ、自分の努力をお父さんとお母さんに褒めて貰いたかっただけなのにっ!」


「っ!!!!」


「……嫌い。お姉ちゃんなんて。お姉ちゃんのわからず屋っ!」


 まるで、華音の意志に反応するかのように。

 華音機の装甲の隙間から光が溢れ出し、全身を光が包み込んでいく。


「な、なんだ!? 月見里さんの機体が、光って……!?」


『し、進化だ! 機体の進化が始まったんだ!』


 上空から二人の様子を伺っていた大輝に、斑目が興奮ぎみに答えた。


 レヴォリューションブレイブ。

 そのまま直訳すれば、『進化する勇者』だ。


 パイロットのスキルや戦闘環境に合わせて理論上無限に進化し続ける、名前の由来にもなったこの巨大人形兵器の真価が、今、発揮されようとしていた。

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