第7話「幼青龍の勇者」その1
「こちらですよ、勇者殿」
「おお、本当にワープするんだな。すげえ……」
城を出てそこから右の石段を下りていくと淡い青色に輝く円形の魔方陣らしきものがあった。
そこの上に乗ると風が吹き荒れて気付いた時には建物の中に居た。いったいどういう造りなのか分からなかったがどうやら俺は目的地の後宮に入ることが出来たらしい。当たり前だが人生初のワープに興奮する。これがワープか……
「ここは私達、女聖龍達の花園です。どうですか、侵入した御感想は?」
「侵入した感想って嫌な言い方するな。まぁ、守護聖龍様方と顔を会わすのが怖いかな」
そう、俺は守護聖龍達に再び顔を合わせるのが怖かった。……怖いというよりは気まずいと言った方が正しいかもしれない。魔力が低下したと聖龍王のおっさんは言っていた。
もしかしたら少なからず俺にも影響が出ているのかもしれない……体感では今のところ分からないけど。
「ふむ、なるほど。しかし会わないわけにはいきますまい。何せ貴方は聖龍族の守護勇者でこの聖龍界を、守護聖龍様達を護るのが役目なのですから」
「分かってるさ……正直まだ実感は薄いけど、やれることからやるよ」
「ヤれることからですか」
「何笑ってるんだ。意味深な捉え方は止めようぜ……」
俺もこいつも真面目に決めたと思ったらこれだ。
ニヤニヤ笑ってる。とことん残念だな、会ってから下ネタばっかじゃないか。
「ふふっ、失敬。そうですね、では勇者殿が今日より寝泊まりするお部屋に案内します」
「ああ頼むよ」
こいつとは真面目な話は出来そうにないな……
俺はそう思いつつ部屋に案内される。途中、何やらひそひそとした良からぬ声が耳まで聞こえてくるのはきっと気のせいだ。俺はハレンチではないのだ。
「こちらです、勇者殿」
「ここが俺の部屋か」
部屋に入って中を確認する。ベッドと家具以外には何もない質素なものだった。まあ異世界だし、こんなものか。生活できる最低水準に達していればそれでいいな。水飲んで腹壊したりしたら嫌だし。
ネットやアニメがないのは悲しいことだが……異世界の、それもドラゴン娘達のいる世界に来れたんだから良しとしないとな。
「ちなみに勇者殿の部屋に限り鍵はありませんので」
「は? どうしてだよ!?」
「は? とか威圧しないでください。まぁ、勇者殿に鍵は不要かと思われます」
「そういうつもりはないけど……っと思われますって」
「夜這いができなくなるじゃないですか!」
「は、はい?」
俺は耳を疑った。何を言っているんだこいつは……
夜這いだって? 俺は嫌われてるんだぞ? もし本当に夜這いよろしくあいつらが俺の部屋に来たとしてもそれは夜這いじゃなくて夜襲だ。どこの世界に夜襲されるのが分かってて鍵を掛けないバカがいるんだ……
「夜這いされたくないんですか?」
「ああ、されたくないね。少なくとも今は」
「なんというヘタレ……まあいいでしょう。明日には起こしに来ますのでそれまでゆっくり休んでください」
「そうさせてもらうよ」
いやにあっさりと嘆息を残して部屋を出ていったサキ。尻尾が垣間見えた。少し触ってみたくもなった。今度会ったら頼んでみようかな、念願のドラゴン娘の尻尾を。
「それにしても、勇者か」
勇者……その言葉にどれだけの重みがあるんだろうか。俺は何の気なしに勇者物の映像作品を観たりゲームをプレイしてきたりしたが、自称勇者と結果を残した勇者じゃ大きな隔たりがある気がする。俺は圧倒的前者だ。しかも俺は数時間前までは普通の学生だったんだ……
「そんな俺が勇者なんて大役、できるのか?」
結局俺はほとんど眠ることは出来なかった。
「散歩でもするか」
考えていても仕方ないと軋むような鈍い音を立てながらドアを開けて部屋を出る。部屋の外は薄明るかった。それだけで太陽が昇り切ってないことが解った。
「ん? この音は……」
適当に歩いていると後宮の出入口らしき方から足音が聞こえた。
「あれはマリン、だったっけ」
一瞬見えた青色の髪と小さな人影。それが本当に青で幼女なドラゴン娘のマリンなのか気になった俺はできるだけ抜き足差し足忍び足の精神でゆっくりと外へと向かう。
「え……? ここは……城の前?」
外に出たかと思えばいきなり真っ白な光に包まれて、それが消え失せたかと思えば後宮に繋がるワープの上――聖龍城のすぐ近くだった。
「それにしてもこんなに簡単に出たり入ったりができるとは……大丈夫か?」
「…………」
城や王宮、後宮の警備状況が気になりつつ不意に視界を横切った幼女龍の姿がほんの一瞬見えた。
「こんな時間にどこに?」
疑問に思った俺は聖龍王に言われたことを守るためというわけでもないが単純に気になって幼女龍の後を追うことにした。
「…………」
「幼女なのに、しきりに周りを気にしてるな。かわいい」
城下町はこの時間はさすがに人気が少ないらしい。
それでも多少は動いている人――って言うか龍人がいる。当のマリンは誰にも知られたくないのか、しきりに左右と背後に目を向ける。幼女とは思えない用心ぶりに少しミスマッチ感が出て逆に微笑ましい。
「それでもバレないのは、警戒してても幼女は幼女ということか」
実のところ、そんなに距離は空いていない。人によっては気配だけで気付くかもしれない。だけど、この幼女はまったくと言うほど、気付いてない。それは俺が声を出しても気付かないんだからよっぽどだ。
「誰も、いないよね?」
居ますよ! 貴女の後ろに思いっきりいますよ! それはもうメリーさんもびっくりなくらいに!
「よし……!」
俺に気付くことなく謎のガッツポーズをすると城下の外へ進む。かわいい。しかし、こんな夜明けにマリンは何処に行くんだろうな。
「…………」
歩くこと二十分ほど。山が見えてきて当然のように山道を進んでいく幼女マリン。やがて道を塞ぐ大岩で先に進めなくなる。
「これはさすがに……おーい! これはもう諦めて引き返した方が――」
「やぁっ!」
「えっ……!?」
俺はさすがに大岩を破壊することも退かすことも大岩に登って先に進むことが不可能なほど巨大な大岩ではこれ以上進むのは無理だと思った。だが、気弱な声と共に繰り出された幼女の細腕の拳で大岩は粉々に砕け散った。そんな衝撃的な場面に遭遇してしまったあまりの衝撃に自分でも気付かないうちに大声を出していた。
「へぇあ!? ゆ、ゆうしゃ、さま……?」
「お、おう。勇者でーす」
マリンは俺の出した声に驚いたのかどこの時報さんだよって心の中でツッコミを入れてしまうほどの謎の言葉を発した後、背後を見てやっと気付いてくれた。そして俺は何故かチャラ男のような軽さで勇者であることを告げた。
「ゆ、ゆうしゃさまがどうして……」
「いや、どこに行くのかなって思ってさ。それにこんな時間に一人で歩くのは危ないって思って――」
「ま、マリンは美味しくないですよぉ!」
「あっ、マリンちゃん!」
マリンは逃げ出してしまった。程なくして何かが砕ける音が何度も聞こえてくる。どうやら、大岩はあれだけではなかったらしい。
「……行くか」
命の恩人に全力で嫌われて悲しいが、このまま帰るのも気が引けた。それにここは山だ。ドラゴンだとしても幼い。そんなマリンを放って帰るのは嫌だった。
「マリンはどっちに行ったんだよ……」
登っていくとやがて分かれ道が。その分かれ道は整備された道と整備など全くされていない見るからに険しそうな道の二つ。マリンはどっちに行ったのか、逃げ出された俺にはわからない。
「嫌……やめてえぇぇぇっ!!」
「! マリン!?」
しかし、険しそうな道の方からマリンの叫び声が聞こえた。俺は考える間もなく険しい道を選んだ。
「くそっ! なんだよこの道……俺はロッククライミングしに来たんじゃないんだぞ!」
「どうして、どうしてそんなひどいことができるの!?」
「……っ! くそったれがあああああ!!」
険しい外壁に思わず愚痴が出る。その間にもマリンの悲痛な叫びは俺の耳に届く。一度は足元の岩が崩れて落下しそうになるが何とか耐え、マリンの悲しげな声をバネに一気に外壁をよじ登った。
「はぁ、はぁ……さすがにもう普通の道か」
よじ登った後の道は何故か整備されたように綺麗だった。だがそんなことを考えてる暇すら惜しい。マリンの叫びも何故か聞こえて来ない。俺は急いで先を進む。
「マリン! 大丈夫か!?」
「うぅ……お花さんたちが……こんなに。うわあああん!!」
「マリン……」
「へへ。聖龍の勇者様か。遅かったじゃねーか」
「…………」
走って走って、広い場所に出る。そこでやっとマリンを見つけるがマリンは悲痛な表情を浮かべ泣きじゃくっている。周りには散々な惨状の花畑。まだ荒らされて間もないのか花畑を見るだけでとても悲しい気持ちになる。そしてその花畑の中心には邪竜のドラゴンファイターらしき奴が四体も立っていた。
「お前たちがやったのか? このお花畑を……」
「あぁ、そうだぜ? 噂だが、ここはそっちの水龍様お気に入りの場所と聞いてな。てめぇにやられた憂さ晴らしに荒らしてやろうと思ったんだが、思いの外、捗ったぜ?」
「お、お前ら……憂さ晴らしなんかで、そんな理由で! ここを滅茶苦茶にしたのかよ!」
「うっ……どうして、あなたは、あなたたちはわるくない……のにっ……こんな、」
マリンは泣いている。花畑に跪き、必死に元に戻らないかと願い、そして以前の姿を思って泣いているんだ。
「ああそうだ」
「だが荒らした甲斐はあったな」
「そうだな。何せ、聖龍の勇者様が」
「来てくれたんだからよッ!!」
「……
一斉に襲い掛かってくる邪竜のドラゴンファイター。剣、斧、槍、弓と武器は様々。俺はそいつらの攻撃を弾き、受け流し、薙ぎ払い、避ける。だが何かがおかしい。
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