第2話 「聖龍王とかいう王様の話を聞いて勇者になる覚悟を決めた俺」
俺が九死に一生を得た場所は召喚の間と呼ばれる場所らしい。
そこは最も低い場所にある地下も地下で階段を上へ上へ、ひたすら上に進んでいく。
そして聖龍の間と呼ばれる場所に案内された。
「で、でけええええ!!」
「こら、聖龍王さまに失礼でしょ!」
俺は目にしたものがあまりにも異様過ぎてイリスのお叱りの言葉も空気のように通り抜ける。
その正体、聖龍王の間に入って初めて目に飛び込んできたのは部屋の半分はこいつの身体で占めているのではないかと思えるほどの龍だ……
白く透き通った鱗のドラゴン。
加えてこの大きさ……
まるで巨人と遭遇したような迫力、もしくは俺がアリにでもなってしまったんじゃないか。
そう錯覚させるくらいにこの白龍は巨大だった。
この白龍の座っている玉座も明らかにサイズがおかしい。
特注品か? そうに違いない。
まさかこの目で本物のドラゴンを、見られる日が来ようとは……感激だ。
そしてこのドラゴンが聖龍王と呼ばれる龍なのだと一目で分かった。
偉い奴は大抵、見た目も偉く見えるように心掛けているものだ。
「よく参ったな勇者よ。ワシは聖龍国の王、聖龍王である」
「分かるんですか? 俺が勇者だって」
「無論。キサマは勇者――いや、異世界人特有の風貌をしている。ワニでも分かる」
聖龍王の威厳ある声につい敬語を使ってしまう。
それでもこういう話し方で良いはず。
偉い人には敬意を持った態度と気持ちが大切だと誰かが言っていた……
ワニ、人間で言うところのサルでも分かるみたいな意味か?
「お父様」
「うむ。レティシアよ、よくぞ勇者を召喚した……」
「失礼ですが聖龍王さま、この者は真の勇者で間違いありませんか?」
「間違い……ない」
レティシア――姫さま、聖龍姫様の名前か。
イリスの奴、まだ信じてなかったのか……
まあ無理はないか。
事実、こいつらが求める勇者じゃないからな、俺は。
聖龍王の、数秒の間があったのは気になるが。
「では、あれを」
「うむ! 今より、レティシアと勇者の守護契約を許可する!」
「守護、契約……?」
聖龍王はイリスに促され、聞いたことはないが何か重要そんな単語を立ち上がって口にした。
いったい何が始まるんです? って感じだな……緊張する。
「レティシアよ、勇者の前へ」
「は、はい! お父様」
なんだなんだ? 本当に何が始まるんだ……
銀髪ドラゴン娘の聖龍姫が頬を赤くして俺に近寄ってくるぞ。
何? 俺、ビンタでもされるのか? こんな綺麗なお姫様にビンタされるのは悪くないが……
それは勇者としてどうもな。
俺個人としては歓迎なんだけどね!
「あの、何か?」
「勇者よ、契約を交わす前に問う。キサマは今より、聖の守護聖龍である我が娘、レティシアと契約を結ぶことになるが……」
「は、はあ」
「レティシア以下、この聖龍界を支える要、守護聖龍達の身を護る剣、楯となり守護勇者としての役目を担う覚悟はあるか」
護る……世界を守護する龍と勇者。
つまりは、この世界を支えてる守護龍を悪い奴から護れるかってことか。
「あの聖龍王さま」
「なんだ……?」
「聖龍王さまはここは聖龍界と言いましたが俺がいた世界とは違うんですか?」
「そうか……キサマは聖龍界についても、この世界全体についても何も知らぬのか」
こういうドラゴンや勇者がいる世界に憧れていた俺でも何も知らず契約を交わすわけにはいかない……
まずはこの聖龍王とかいう王様から説明を受けた後にどうするか決めるのも遅くはないはず。
一応、勇者として認識されてるみたいだからな……
イリスは聖龍王に一瞬睨まれてたが。
「ふむ……よし良かろう。ワシが答えられる範囲の問いは許す。言ってみよ、勇者よ」
「ではまず……この世界は俺がいたところとは違うんですか?」
「結論から言おう。キサマがいた世界とは全く異なる別世界だ。勇者、キサマの世界の言葉で言うところの異世界だ」
「異世界……本当に」
聖龍王に質問をすることを許された俺は一番気になっていたことを訊いた。
その返ってきた言葉は衝撃的なものだった…
だったが、聖龍王の淡々と冷静に事実だけを突き付けてくる声色に衝撃と同時に不思議と受け止められるだけの心の余裕が静かに、ゆっくりと出てくる。
「この世界の名は世界全体の総称が龍世界、ドラゴンワールドと呼ばれている。そのドラゴンワールドの世界の一つが我々が住む聖龍界」
「ここがその聖龍界、ですか」
「ああ……下にはワシのような龍化が、不可能な龍人界と我々聖龍族と敵対関係にある邪竜族の住む邪竜界が存在する」
「邪竜界のドラゴンは私達、聖龍族の住む場所を奪おうとしている悪い奴らよ……」
この世界の名前はドラゴンワールドの中の一つ、聖龍界。
世界は聖龍界以外にもある……
それが龍人界と邪竜界か。
特にこの邪竜界というのがやばそうだな。
名前的に。
イリスは唇を噛み締めて嫌な奴らと吐いている。
聖龍姫も俯いて暗い顔をしている……
聖龍王も何となく不快感ある表情に見える。
もしかして守護勇者になったらその邪竜ってドラゴンと戦わなきゃいけないのか?
「……聖龍界の上には様々な神が集い、このドラゴンワールドの大部分を管理している龍神界がある。龍神界は全ての世界に繋がっている。他にも様々な世界があるが代表的な世界はこの四つだ」
聖龍王が俺達が黙ると咳払いをして続けた。
一つの世界に分けられた世界が四つ……
いや、それ以上あるんだっけ? どちらにしても異世界に来ただけでも腹一杯なのに四つ以上もあるとは……
まあ世界が一つなんて常識もないし? ここは柔軟に受け入れるしかなさそうだな。
「じゃあ次の質問、良いですか」
「申してみよ」
「俺が命を救われたのってもしかして魔法のおかげですか?」
俺は次に二番目に気になっていた質問を聖龍王にぶつけた。
なのに何故かビリビリでトゲトゲなイリスが答えた。
「そうよ。癒しの水魔法……特にマリンは水の守護聖龍だから通常の水魔法に比べて治りがかなり早いわ」
「へえ……マリンちゃんって凄い人、じゃなくて龍なのか」
「当然よ、私もマリンも、レティシアだって凄いんだから! あと聖龍ね」
自慢げにない胸を張るイリス。
そして何故かどうでもいいことを訂正された。
それにしても聖龍王が少し可哀想になってくるな……
役目を奪われて聖龍王さん涙目だぞ!
「う、うむ……その通りだ。勇者よ、全ての魔法を、世界を司る九属性のことは知っておるか」
「九属性? それはいったい……」
「知らぬか? そうかそうか。九属性とはこの世界を構成し魔法を用いるために必要不可欠なものだ」
「そうなんですか、それでその属性って?」
聖龍王は役目がブーメランのように戻ってくると嬉々として説明しては更に続けた。
「うむ! 聖・邪・地・炎・水・氷・風・雷・幻……この九つを総称して九属性と呼んでおる」
「なるほど。そういえばさっきイリスが“通常の水魔法”って言い方をしていましたが通常じゃない魔法って」
「あるわ! 通常魔法とは別に私達が使える聖龍魔法と邪竜族が使える黒龍魔法があるわ」
「ちなみに聖龍魔法は聖龍族の守護聖龍だけが使えて、黒龍魔法は邪竜族の守護邪竜だけしか使えないのです~」
「稀少な魔法ってことか……それは魔法の威力も?」
俺が質問内容を言い終える前にイリスが答え、更にその補足を聖龍姫がしてくれた。
聖龍王には申し訳ないが、俺は更に質問を続けさせてもらった。
「もちろん、通常魔法なんて比較にならないくらいに強力よ!」
「聖龍魂と呼ばれる守護龍にしかない特別な力を魔法に込めてるのでそこまで強力なんですよ~」
聞けば聞くほど、守護勇者に、魔法を使ってみたくなる。
でも龍しか使えないなら俺は無理か……
「ちなみにこれは守護聖龍と契約を交わした勇者なら使えるわ」
「更に守護勇者様になれば勇者様にしか扱えない武器も使えます!」
「契約すれば……か」
どうやら俺が守護勇者になりさえすれば、通常より強力な魔法やその他色々、手に入りますよってことか。
果たして俺は本当になれるのか……
守護勇者になって、守護聖龍を守り抜く覚悟は俺にあるか?
「どうだ勇者? 守護勇者になってみないか」
「もう一つ、質問、良いですか」
「うむ、ワシに答えられる範囲ならばな」
これが最後の質問だ……
この質問の答えを聞いたら、俺が守護勇者になるかならないかの答えを決めよう。
「守護聖龍ってなんて名前の龍ですか?」
「そのことか……守護聖龍は全て合わせて七人存在するが、この近くには四人おる」
「それは、いったい」
「聖の守護聖龍のレティシア、雷の守護聖龍のイリス、水の守護聖龍のマリン。そして炎の守護聖龍のカーラ」
俺は最後の質問、守護聖龍の名前を訊いた。
聖龍王は淡々と名前を言う。
自分達の名前が出たせいか、イリスと聖龍姫の名前が出ると、二人はビクッと一瞬、身体を揺らして顔に緊張の色を見せた。
「それが、守護聖龍の名前……」
「ここにいる者はな」
俺はしばらく下を向いて考える。
どうする守護勇者になるか……? カーラという守護聖龍は知らない。
だが残りの守護聖龍は知っている。
おっとり美人な銀髪のドラゴン娘のレティシアと、いつもイライラしている様子のトゲトゲビリビリな金髪のドラゴン娘のイリス……
そしておどおど幼女な青髪のドラゴン娘のマリン。
そうだな、イリスは特にそうでもないが、聖龍姫とマリンには助けられた恩がある。
受けてもいいんじゃないか? いや、受けるべきだ。
助けられたのに返さずに終わるのは嫌だ。
それにこんな三人の美少女ドラゴン娘達を守る勇者になれるんだ……
俺は美少女ドラゴン娘が現れたら本気出すって決めたんだ。
昨日も明日も明後日もない。
俺が本気を出すなら今しかない!
「聖龍王……」
「覚悟は決まったか、勇者よ」
「俺は……俺を、守護勇者にしてください!」
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