伝説級の治癒魔導士《レジェンドヒーラー》、勇者パーティを抜けて人助けをしながら旅をしていたら魔王に名誉魔族に任命されました。

むぎさわ

第1話「レジェンドヒーラー・クラリス、女勇者パーティを抜ける」

「わたしの治癒魔法のせいで無茶をするならわたしはパーティを抜けます」


 そうわたしは言いました。魔王城を目の前にして言うことじゃないのはわかっていましたし、そういう雰囲気ではないことを理解していました。それでも言わずにはいられなかった。


「そんなっ! 何もやめることないじゃないっ!」


 女勇者エクレアは言いました。伝説の魔族殺しの勇者・魔壊のアークレイドの末裔でした。彼女は普段は凛としていて困ってる人がいたらどんなに強い相手だろうと立ち向かう勇気のある人でした。それでも履き違えた勇気は無謀でしかありません。


「あります。なぜならわたしは身体は治せても生命までは治せないんです」


「それでもその前にあなたが治してくれるでしょう?」


「……たとえわたしの完全パーフェクト回復ヒーリングをもってしても死ぬことが確定した人は救うことができないんです」


 わたしには完全回復という固有スキルがありました。その中には失った腕や足を遡って治すことができる遡り回復もあって、いくら勇者や仲間たちの腕や足が吹き飛んでも治すことができました。それでも最近の勇者たちはわたしの魔法をアテにしてかまるで死を恐れることもなく魔王軍に立ち向かっていったんです。まるで自分たちが不死身であるかのように。


「わ、わかったわ! これからは気をつけるから旅を続けましょう? 魔王の根城までもう少しなんだから」


「…………」


 そんな言葉を信じてわたしは旅を続けました。それでも勇者たちがわたしの遡り回復をアテにする姿勢は変わらなかった。


「がははは! 勝負あったな勇者どもよ! 大魔王様が幹部! この爆炎剣王の力の前に散りに――いや炭と化すがいい!」


「まだ、まだよ! クラリス! 遡り回復を!」


「……え、エクレア? ですが……」


「そうだよクラリスの遡り回復さえあればまだ戦える!」


「で、でも……」


「お願いクラリス! 今だけは遡り回復を使って! これが最後だから! 」


 利き手を失った勇者エクレア……左足を失った戦士ベアル……胴体に穴の開いた魔法使いアクアマリィ……わたしは仕方なしに遡り回復を使いました。


「やったわね! なんとか爆炎剣王を倒せたわ!」


「これもクラリスの遡り回復のおかげだな!」


「…………」


「クラリス?」


 結局また使ってしまった。そして勝ってしまった。今までいったい何人の幹部と戦い、腕や足を失ってきたんだろう。


「クラリスごめんなさい……またあなたに遡り回復を使わせてしまって」


「いいえ、あれは仕方ありませんでした」


「そうだ仕方なかった。今回ばかりは相手が悪すぎる」


「ですが遡り回復を使うのも今回が最後です。わたしはパーティを抜けます」


 エクレアは察してか頭を下げました。魔王幹部を倒したというのに微妙な空気が流れました。そんな雰囲気を察してかベアルはフォローを入れます。

 今更そんなフォローはいらない。なぜならわたしはパーティを抜けるのだから。


「ばっ――待てよクラリス! 何もパーティを抜けることはないだろ!?」


「……もうあなたたちが身体のどこかを失くすのを見たくないんです」


「でもクラリスが治してくれるだろ?」


「…………」


 わたしは唖然としたベアルの言葉に。たしかにわたしは遡り回復で今日までの二年間、彼女たちの失った身体を治してきた。足だろうが腕だろうが頭だろうが関係なしに。でもそれはとても悲しく、腕や足だけじゃなくて人間らしさも女の子らしさも全てを失くしていくような気がしてわたしは耐えられなかった。



「く、クラリス……? どうして泣いて、」


「ごめんなさい……別にあなたたちが嫌いで意地悪をしたくてこんなことを言ってるわけではないんです。ただわたしはあなたたちに生きていてほしいです……まだ人としての人格があるうちに……」


「クラリス……」


「だからごめんなさい。わたしはもう、あなたたちとは旅を続けられません」


 こうしてわたしは女勇者、エクレアのパーティを抜けた。

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