第9話 死闘!スコルピオン道場
ここから先は本格的な砂地。足場が悪く、力を込められない。
その上降り注ぐ陽光も容赦なく、早くも苦戦を強いられていた。
「あづーい。お水飲みたーい」
なにもゲームの中までこんなに暑さを再現しなくてもいいのに。ゴキュと一本開けた初球魔法薬で喉を潤す。
ほんの少しの苦味が私をさらなる窮地に追いやったのは流石に予想外。へばっている私の近く、すぐそこまで敵が近づいてきている事など私はこの時知る由もなかった。
いつまで経っても標的は現れない。と言うかギルドの報告員にさえ出会わない。
もしかして……私、道間違えた?
カーソルは出てるのに、おかしいな。
と、その時。足元が急に盛り上がって私は体勢を崩され、尻餅をついてしまう。
「うわっ、痛つつ……もー、なにー?」
太陽を背に、私に覆う影。あ、これがもしかして……?
ログが盛大に動き出す。
|スコルピオンが現れた
|スコルピオンの先制攻撃!
|マールに30ポイントのダメージ!
痛っ! 酷いんだー。いきなり襲いかかってくるだなんて。
でも足元から出てくるなんて想定外。
でもこっちには秘策が有るもん!
食らえ!
|マールは本を構えた
|マールのパニック!
|スコルピオンは混乱した
良し!
この隙に……
「だりゃ!」
|マールの正拳突き!
|スコルピオンに5ポイントのダメージ!
|スコルピオンは混乱している
|スコルピオンの毒撃!
|しかし攻撃は空を切った
与えるダメージは少ないけど、パニックが効いてるうちなら時間はかかるけど、なんとか勝てるかも。
もし危うくなったらヌシ様を呼ぼう。
その為にも召喚できる分は取っておかなくちゃ。
|マールの正拳突き!
|会心の一撃!
|スコルピオンに15ポイントのダメージ!
|スコルピオンは正気に戻った!
あ、一定ダメージを与えると解けちゃうのかコレ。
何か他に手は無いかな?
構えを維持しながら相手と距離を取る。
しかし、ここで想定外の出来事が。
|スコルピオンは仲間を呼んだ!
え?
|スコルピオンBが現れた
|スコルピオンCが現れた
待って、ちょっと待って! 1匹でも大変なのに。
暴力反対!
|スコルピオンDが現れた
|スコルピオンEが現れた
こうなったらヌシ様を呼ぼう。もう素材がどうとか言ってられない! このままじゃジリ貧だもん。
|マールはオーブを構えた
|マールの召喚!
|グレータースネークが参戦した!
「ヌシ様、全力で応戦!」
『ジュラァアアア!!』
|グレータースネークの威圧!
|スコルピオンAは身を竦めた
|スコルピオンBには通用しなかった
|スコルピオンCは身を竦めた
|スコルピオンDには通用しなかった
|スコルピオンEには通用しなかった
「貰った!」
|マールのパニック!
|スコルピオンAは混乱した
|スコルピオンBには通用しなかった
|スコルピオンCは混乱した
|スコルピオンDには通用しなかった
|スコルピオンEには通用しなかった
あれ? この魔法ってグループ攻撃だったんだ。
道理で魔力すごく減るわけだ。
でもチャンス!
|スコルピオンAの毒撃!
|スコルピオンBに30ポイントのダメージ!
|スコルピオンBは猛毒に冒された
|スコルピオンBの切り裂き!
|マールはひらりと身を躱した
|グレータースネークの薙ぎ払い!
|スコルピオンAに80ポイントのダメージ!
|スコルピオンAをやっつけた
|マールはレベルが上がった!
|生命が10UP、魔力が10UP
|硬い皮を手に入れた
|スコルピオンBに50ポイントのダメージ!
|スコルピオンCに80ポイントのダメージ!
|スコルピオンDに50ポイントのダメージ!
|スコルピオンEに50ポイントのダメージ!
ヌシ様すごい! 強過ぎない?
さすがグループ攻撃の魔力10倍消費だ!
魔力は残念ながらレベルが上がっても全部は回復せず、増えた分だけ回復するみたい。
現在の魔力は65/230。
パニックを打てる回数は4回。あの時喉を潤すのに使った下級魔力薬が悔やまれる。
私は隙を見て残り二本になった下級魔力薬をもう一本呷る事にした。無事に生き残ったら買い足そう。ちょっと高くても我慢我慢。お婆さんの言う通り、ダークエルフにとっては生命線だもんね。
|スコルピオンBは猛毒により20ポイントのダメージ!
|スコルピオンBをやっつけた
あ、やっぱり毒撃って食らっちゃまずい奴だった。パニックは今後もお世話になる気がする。私の攻撃はコブシが基本だもん。
|スコルピオンCは正気に戻った
|スコルピオンCの攻撃!
|グレータースネークに5ポイントのダメージ!
|グレータースネークのカウンター!
|スコルピオンCに150ポイントのダメージ!
|スコルピオンCをやっつけた
ヌシ様無双状態じゃない?
これはもっとお肉貢がないと。折角召喚契約結んだのに私の立つ瀬がなくなっちゃう。
|スコルピオンDの攻撃!
|マールは40ポイントのダメージ!
痛っ!
一撃一撃が重たい。これは受付のお姉さんが言う通りだったかも知れない。でも、負けられない!
生命が心許ない。
80/160。これが現状。
あと一発受けるようなら秘薬を飲むしかない。
集気法を使ってる暇もないんだよね、こんな混戦だと。
だったら下級生命薬も買っておくんだったなー。
でもここで負けてちゃヌシ様に申し訳ないもん。
がんばれ、私!
|スコルピオンEの攻撃!
|マールはひらりと身を躱した
|マールの超直感!
|マールの朧車!
|スコルピオンEはその場でひっくり返った
|マールの正拳突き!
|会心の一撃!
|スコルピオンEに30ポイントのダメージ!
|スコルピオンEをやっつけた
|マールはレベルが上がった!
|生命が10UP、魔力が10UP
|スコルピオンコアを手に入れた
|スコルピオンの毒針を手に入れた
乗り切った、あと一匹!
|スコルピオンDは仲間を呼んだ!
え?
|スコルピオンFが現れた
|スコルピオンGが現れた
|スコルピオンHが現れた
|スコルピオンIが現れた
えええええええええ!?
仕切り直しどころの話じゃないよ!
こっちはくたくたなのに相手ほぼ全快のフルパーティじゃん!
ずるいぞー!
こうして私が苦戦しながらも秘薬をがぶ飲みして報告員のおじさんにたどり着く頃までに、実に15匹以上の討伐を果たしてしまっていた。
•
•
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「ずいぶんと遅かったね。ギルドから報告を受けてから何処で寄り道してた?」
「足元から奇襲されまして」
「なに? 既にスコルピオンと戦った後だったか。あいつらは非常に厄介だったろう?」
「はい。心強い召喚獣が居たのでなんとかなりましたが、単独ではもう二度と相手したくないですね」
「だよなぁ。それで、どんな攻撃手段を使ってきた?」
「まずは鋏による突き、払い。尻尾の先端にある毒撃に、砂の中に身を隠すなどが一般的ですね」
「まぁ、そこら辺は確かによく知られてるもんな。それで、それ以外ももちろん知ってると?」
「はい、あいつらはダメージをある程度与え、かつ一匹の状態だと最大4匹の仲間を呼びます」
「ほう、最初の一匹からアルファベットは何処まで進んだ?」
「私のログにはNまで出てますね。生命薬が尽きそうなのでもう帰りたいんですが、これから往復しなくちゃいけないんですよね」
「N! すごいなぁ。つまり5匹どころか15匹も討伐して見せたのか!」
トホホ、とやるせなさをみせる私とは対照的に報告員のおじさんは非常に目を輝かせて私のクエスト用紙にサインを書き込んだ。
まさかとは思うけど、このままクリア?
「俺としてはギルドにこれ以上ないってくらい感謝の言葉を綴っといた。このクエストを受けられる奴ってのはギルドに認められたルーキーの証。けれどそのルーキーでもクリア出来ない難所がここだ。あんたならもうランクDを名乗ってもいいぞ」
あまりに突然のことに私は言葉を失ってしまう。
まさかクリアどころかランクアップのパスまで貰えてしまうとは。
もしかして……お姉さんはこれが分かってて私をここに向かわせたのかな?
「ありがとうございます!」
「それとこれは俺からの餞別だ」
|マールは変換の指輪を手に入れた
「これは?」
「装備してみりゃ分かる」
そう言われて装備すると、驚くべき変化が起きた。
|マールは変換の指輪を装備した
|マールの筋力が知力に置き換わった
あれ?
なんだこれ。私の筋力が一瞬にして死んだんだが?
イライラとして指輪を外す。
|マールは変換の指輪を外した
|変換されてた知力が筋力に置き換わった
ホッと安堵のため息を吐くとおじさんは笑いながら答えてくれる。
「面白いだろう? これは変換の指輪と言ってな。ステータスを種族の特徴に極端に尖らせることによって一点突破を狙う装飾品だ。割り振ったステータスにしか関与しないからそこは注意な」
「成る程」
これなら私にも魔法が使えるんだ。
筋力を増やすことによってアイテムを沢山持てて、魔法も打てる。これはなかなかに面白い。
レミアさんもきっと喜んでくれるだろう。
あの人やたらとダークエルフらしさを求めてたもんな。
あとの問題は帰り道だけど……
ここまで結構な距離歩いたんだよね。
それで残りのストックも心許ない。
「それとここには街に一瞬で戻れるゲートがある。利用してくかい?」
「是非!」
「なら1万G貰おうか」
「随分と足元を見てきますね?」
「こっちも商売だからな。死んで今までの成果を全てを失うのと、安全に街に戻れるのどっちを取るんだ?」
「払いますよ。生命には変えられませんし」
「賢い奴は好きだぜ。確かに1万G受け取った。この扉の向こうはもう街の中だ、どうぞ通ってくれ」
言われた通りに扉を潜ると、何故かギルド受付のすぐ横に出た。受付のお姉さんの顔が目と鼻の先にある。
「マールさん、お帰りなさい」
「ただいま帰りました!」
狐に化かされた気分だけど、あのおじさんの言ってた通りになった。街の中どころかギルドの中で、一番結果を伝えたい相手も目の前に居た。
「その場所から帰ってきたってことは、無事成し遂げた様ね」
「はい、指輪まで頂いちゃいまして」
テヘヘと言いながら見せびらかすと、受付のお姉さんの表情が「ん?」としかめっ面になる。
あれれ? 予想と違ってあまり喜んでくれなかった。
「見たことないわよ、こんな指輪。お父さん、マールさんが可愛いからって色をつけたわね!」
「色? そういえばそんな事言ってました。これ、クエスト用紙です」
「はい、受け取りまし……んな!?」
「えと?」
お姉さんはクエスト用紙をガン見しながら絶句している。
どこか震えながら破いてしまうんじゃないかと言うほど力を込めているのが見て取れた。
「マールさん、初見で、レベル20以下でスコルピオンを15匹撃破って本当?」
「はい。一応素材も手に入れたので出しますか?」
「お願い。それを受け取れば私も気持ちの整理ができるわ」
納品査定額は如何程になるんだろう?
待合室で足元をぶらぶらさせながら待っていると、やがて私の番になったので受付にダッシュで駆け寄っていく。
「確かにスコルピオンの素材であると確認したわ。お父さんにも言われたと思うけど、マールさんはもうランクDね。そしてまずクリア報酬の1,500G」
「ありがとうございます!」
中身に対して割りに合わないにも程があるけど、この場合は普通に魔法が使えなかった私にも責任があるか。
「そしてこっちが納品査定ね。まず硬い皮が一つ200G。これが8個、そして毒針は結構貴重品でね、一つ300G。これを5個、最後にとんでもない目玉が紛れ込んでたわね。スコルピオンコア、これは俗に契約の魔石と呼ばれるもので、ダークエルフでしかドロップを確認できないものよ。これをギルドでは一つ5,000Gで買わせていただきます。魔法を使ったら絶対に手に入らない貴重品だからこれだけ高額なの、15匹倒してたった1個だけとか思ったらダメよ? 普通は100匹倒そうとなかなかお目にかからないんだから」
「ほぇー」
「マールさんは不思議ね。見た目からは全然強そうに見えないのにもうランクDまで駆け上がってしまって」
「えへへ、ありがとうございます」
「査定の途中で話を切ってしまってごめんなさいね、締めて8100G、お受け取りください」
「わーい、ありがとうございます。それでお姉さん、コアって基本的にどんなモンスターからでも取れるんですか?」
「取れると言われてるわ。でもドロップ率は非常に悪いの。だからどのコアでも最低額が3000G単位なのよ」
「スコルピオンはその中でも結構レアだったんですね?」
「ええ、何せそれを使うことによって100%召喚獣として仲間に加わってくれるアイテムに変身するんだもの。マールさんの種族に大変喜ばれてるのよ」
成る程、それはいいことを聞けた。
「それで、まだクエストやってく?」
時間的に今日はいい加減に寝ないと明日学校に遅刻しちゃう。
家族にゲームがそこそこと言ってる手前、夜更かしの理由を考えるのも手間だ。
「いえ、今日はここら辺迄にしておこうかと」
「そうね、無理はよくないわ。それに今度はこっちよりも図書館通いかしら?」
「はい、ようやくです」
「マールさん頑張ってたものね」
「では」
「いってらっしゃい」
受付のお姉さんに見送られ、私は宿屋を通じてログアウトした。
プレイヤーネーム:マール
種族:ダークエルフ
種族適性:魔法攻撃力+10%、水泳補正+10%
冒険者ランク:D
LV:20/40
依頼達成回数:7回
称号:『蛮族』
資金:256,620G
生命:120/200
魔力: 30/200[+50]
/
筋力:100[-100]
耐久:0[+15]
知力:6[+101]
精神:0[+31]
器用:0
敏捷:0
幸運:0
割り振り可能ステータスポイント:38
武器1:初心者の本★[知力、精神+1]
武器2:太陽のオーブ★★[精神+20、魔力+50]
体上:タランチュラベスト[耐久+15、精神+10]
体下:初心者のスカート
頭部:なし
装飾1:変換の指輪[装備時、割り振りステータスを知力に置き換え]
装飾2:なし
◼️戦闘スタイル【ダークエルフ】
<物理/素手>苦手:威力20%ダウン
気合の咆哮
ジャストカウンター
飛び蹴り
正拳突き
羽交い締め
超直感
朧車
集気法
回し蹴り
<魔法/杖>得意:威力10%アップ
なし
<補助/本>
Eパニック/グループ【15】
<召喚/オーブ>
Eヌシ様/グレータースネイク【150】
<消費アイテム>
中級魔法薬×1
生命の秘薬×3
魔力の秘薬×2
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