第323話『そうなる、か……』





 第三百二十三話『そうなる、か……』





 十月五日、日も暮れた午後十八時。

 虫の鳴き声が消えた大森林は静かだ……


 いつも神樹の周りで聞こえる若い蟲系眷属の陽気な談笑も、今日は聞こえない。


 魔族も魔物も若い蟲系眷属は新天地に飛び立った……


 神樹マハーカダンバの前で腰を下ろし、月が昇り始めた空を眺めるゴリラ。


 そんなセンチメンタルゴリラの周りに集まる30cmほどのハチアリ……カスガとアカギが俺に譲り、ヴェーダが手懐けた古参の蟲系眷属だ。


 お前らは新天地に行かなかったんだな……


 膝の上に乗った蟻と蜂の頭を指先で撫でる、慰めてくれているのか?


 俺の周りに集まった蜂と蟻が一斉にカチカチと牙を打ち鳴らして頷く、そうか……


 ところでお前達、腹に卵が出来てるぞ、女王じゃないのに……


 それは……やっぱライダー君の影響かな?


 俺の指摘に何故だかキョドる蜂と蟻……


 え? 体は許しても心は主様の物?

 不意打ちだったから親王殿下に体を許してしまった?


 それに、あれは通り魔にブッカケられた様なもので性交未遂、つまり本当の交尾じゃない?


 そ、そうか……まぁサイズがな、サイズが無理だな。

 あの子のはなぁ、デカいよな、入らんわ君らじゃぁ。


 待て待て、悲しそうな苦笑を浮かべた的な意念を送るな。そんなにライダー君と交尾がしたいのか……


 大丈夫だ、ライダー君はお前らを大きな人型に進化させられるぞ?


 大魔神の蟲眷属としてなら、進化は初じゃないかな?


 しかもおまえら強いし、俺の予想では妖蟻や妖蜂みたいになると――



“““ブォン、ブゥゥゥン……”””

“““ズボッ、カサカサカサ……”””



 蜂達は一回の力強い羽ばたきで上昇し、ライダー君の親王ダンジョン入り口へ飛行、全速力で新天地へのドア(開けっぱなし)に飛び込んだ。


 蟻達も俺が初めて見る早さで穴を掘り視界から消えたが、数秒で親王ダンジョン入り口前の地面から飛び出し、続々と新天地へのドアに入って行った。


 ……

 欲望に忠実過ぎてワロタ。



『そんな事よりラージャ、ライダー軍が敵のコピー増殖軍を喰らい尽くし、それによる栄養補充を経て再び産卵、更に数を増やしました』



 喰って増えちゃったかぁ……増えるのが早い(白目


 あ、ライダーの権能もパクられたよね?



『ええ、ライダーの【昆虫を進化させる権能】もコピーされましたが、予想通り進化個体の強さが本家に勝る事は無く、襲って来るコピーは栄養価の高いエサとして処理している模様』



 あ、そうですか……

 増殖系同士だと普通は泥沼確定なのに、変だな……



「ライダーとイルーサ姫は攻略惑星が所属する神界に攻め込み、そこを所有する主神を滅ぼしました。その後、入手した神界を新婚夫婦名義でアートマンに譲渡、現在はアートマンが新宇宙に統合済み」



 神界譲渡はイルーサ姫の考えかな?

 さすがお姫様だ、ゴマりの相手が的確で感心する。



『この戦いで捕縛した敵方の神々ですが……イルーサ姫が「アンタ達はイザーク送りの刑よっ!!」と沙汰を下し、新惑星で昆虫採集中だったイズアルナーギの許に送られた後、昆虫採集の片手間で現地の昆虫と合体させられたようです』



 神々は心が折れたんですね分かります。

 たぶん目も死んでるんですよね分かります。



『敵や非眷属を殲滅、または眷属化すると言う意味では、惑星自体の完全掌握はもう少し時間が掛かりそうですが、ライダー軍は数が減らず増える一方なので……まぁ、想像以上にオカシイですよあの子』



 ……詳しく。



『フェチモンの濃さはラージャに劣りますが、戦闘中あの子のフェチモンの中には背中の翅に付いた鱗粉りんぷんが混ざっていて、その鱗粉を昆虫系の生物が浴びると強制的に卵を産むんです、しかも雌雄関係無く、ですよ?』



 虫の惑星でそれはヒドイ……

 しかしその繁殖増加率だと草木がハゲ上がるな……



『その点はイズアルナーギがライダーのダンジョンに手を加えたのでご心配無く。アートマンも何かしら手を貸していた様子でしたし、蟲眷属が食糧不足におちいる事は“絶対に”無いでしょう』



 あ、そうですね、無いですね、間違いない(確信



『さて、そろそろ反省は済みましたか? 早朝から神気一杯の雄叫びを上げつつ瘴気を震わせるドラミングを何度も何度も……理不尽は貴方が一番嫌いな事でしょうに、それを寝ている幼蟲の息子に、まったく』



 すまない、美しい朝日が俺を狂わせたんだ……

 お前の美貌が俺を狂わせたように、な(キリッ



『ンッ、それは仕方が無いですね、理解出来ます、続けて』



 続けてーっ!?


 えっと、今朝けさの旭日には二十四の旭光が差していた。それを見た時俺は思ったんだ『純潔ヴェーダの濡れたヴェーダを初めて見た時も、こんな風に輝いて見えたな』……と(キリッ



『ンアッ、アッ、アッ……ちょっ、なに、バカバカっ、~め~過~ぎぃ、そんなに輝いてませんからぁ、濡れてませんでしたからぁ、もうヤダー、ラージャが私のこと好き過ぎて心配になりますっ!! 顔面を常時私のお尻にうずめて居たいだとか嗅覚と味覚で堪能するとか私の口に伸びろ如意棒したくてたまらないとか言われても困るんですよぉ?』



 いや言ってないんだよぉ?



『はぁぁ、でもそれって強制なんですよね、ラージャはいつもそう、私の事は旭日昇天女神扱い、どうせいつもの様に太くて長い如意棒でヴェーダと言う名の旭日旗を立てるのね、勝手にすればいいわ、貴方の望み通り私を貫けばいいじゃないっ、何度も何度も貫きなさいっ(くぱぁ』



 そうなる、か……

 そうなっちゃったか……


 まぁ、ライダーの事がウヤムヤになるならヨシッ!!


 私は、ヴェーダが何か語り始めた序盤で強制転移させられていた桃色空間の【ヴェーダ部屋】で鬼嫁に押し倒されながら、そう思ったのです。


 いっ、痛っ、待っ、痛っ、ウッ……

 へへへ、今日のヴェーダはとても激しいな……


 天井に在るシミ(飛び散った汗)を数えながら、私は気を失った。








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