第308話「ハッキリ言えよ、素敵ゴリラって……」





 第三百八話『ハッキリ言えよ、素敵ゴリラって……』





 九月二十八日、午前十一時、山脈ダンジョン下層最奥、外は曇りだそうです。


 蟲魔人と甲蟲軍団に『敵は全部食え』と命じてもぐったら少し時間が掛かった。


 死体吸収によるDPリサイクルを阻止する為にと思ってそう命じたが、よく考えればヴェーダが最前線までキッチリ侵食しているので杞憂だった。


 とは言っても、戦闘では毎回必ず文字通り全滅させているので、次の階層には既存養殖以外の追加分が援軍として来るようになった。これはこれでDPを溶かす役に立ったと思う……ようにしている。



『元ランキング一位ダンジョンのDP枯渇を狙うのは……さすがに無理でしょう』



 知ってます。

 僕の日間DP産出量がスゴイから知ってます。


 まぁなぁ、ここはダンジョンの運営年数が二千年とかだしなぁ、総来客数も住民も人畜も相当なもんだろ。


 俺んとこは移住悪魔の数がオカシイだけだからなっ!!


 ダンマス界で俺より運営年数少ない奴って俺の眷属だけじゃないの?


 そう考えるとアレだなぁ、ポッと出の新参若造に一瞬で玉座を奪われた魔人さんはお辛いですよねえ?


 その辺を知りたいので、全裸に剥いた男女の双子ダンマスにデコピンを放って聞こうと思ったらデコピンの衝撃で男の頭が吹き飛んでしまったんだ……


 この何とも言えない微妙な空気を誤魔化す為に攻略の過程を思い出したりしていた……


 ……が、俺は右手を突き出してデコピンを放ったポーズのまま、微妙な空気の流れは変わらなかった。


 魔人が柔らかすぎて男前なゴリラも困惑。

 紙防御って言うか綿防御以下で草。


 デコピンでボンッは無いだろ……

 女の方もビックリしてるじゃないか……


 コアの方は……あ、両方ともさっき俺が食ったんだった。


 でもオカシイなぁ……男魔人は不死族系の体質山盛りマンだから死なないんじゃの?


 さっき蟲魔人がボコボコにしたら傷が修復されて元気だったじゃん……?



『異常な神気を纏った大魔神の一撃と瘴気まみれの蟲魔人による攻撃を一緒にされましても……』



 アッチャ~、いっけねぇ~、俺ゴッドだったわ~。

 美人な正妻が女神過ぎて自分を神だと認識出来ないわ~。



『ンもう、いっつもそうやって、バカ』



 いやぁ~失敬失敬、美しすぎるのが難点な正妻女神を持つとウッカリが多発してしまうね、貴重な『糸』を一本失ってしまったよ。


 で、どっかの魔界に隠れたアホの居場所は分かったかな?



『ええ、見つけました』



 お、早いじゃん。


 神と加護対象とを繋げる……何だっけ、あぁ『使隷線』だったか、そこの女の方から辿たどれたのか?


 男と女で使隷線の繋ぎ方を変えてるみたいな事言ってたじゃん、中継地点をどうのこうのと。



くだんの悪神は警戒心が強いと言うか何と言うか、臆病とも言えますが、足がつかない工夫を徹底しているように思います。が、運は無いようですね』



 いや、運は有っただろ……きただけさ(キリッ



『あ、それカッコ良いです。その運を尽かせたのはラージャが最初に迎えた別宇宙域いせかいの女悪魔ですよ』



 あぁ~、お前が神域に連れて行って宇宙の事とか教えて貰った熟女ね。名前は……



『浅部第74宇宙域に在る惑星『ユゥ・カンマダ・ムゥ』で信仰発生した悪魔『コンゲ・ツァレ・ガコナィノ』です。現在はアートマンの神域で天女生活を満喫しています。当たり前のようにラージャの子を身籠っています』



 え、ヤッちゃってたのか俺、いつの間に……あ、天女厠番の『夫には内密に』って毎回言うあのコンゲ・ツァレさん……



『シタカラの嫁ですね。まぁ鬼神に転生してもミギカラと同じく腰が緩いので仕方ない事ですが』



 ゴブリンさぁ……

 いや女悪魔の貞操問題か……

 しかしこれは……特に問題無ぇな、全然無ぇわ!!


 よっしゃオッケー、それで?


 あの不倫天女の故郷がアホと同じだったオチか?



如何いかにも。アートマンが眷属達に大画面で見せる【ナオキTV】を見ていたコンゲ・ツァレが、二人の魔人から伸びる使隷線をアートマンに見せてもらった結果、その複雑な使隷線経路を見てピンときたようです』



 へぇ、しっかし、よくママンに『使隷線が見たい』とかお願い事が出来たな……尊敬するわ。



『元々、コンゲ・ツァレは双子魔人の体から微かに放たれる悪神の神気に見覚えがあったようですね。彼女はかつて亜神レベルの上級悪魔でしたので、あちらの魔界に住む神々と接する機会も多かったと聞きます』



 最盛期の力を失っていた状態で俺の許へ召喚されたとは言っても、現地信仰で生まれたコンゲ・ツァレは悪神寄りの立場か……ふむ。


 自分の記憶に残る神気の色に確信が有ったからママンに頼んだわけですか。なるほどなー。


 じゃぁ今回は大手柄やなっ!!

 何か褒美を贈らねば……


 何なら俺が支配した魔界大森林で爵位持ちの女悪魔やってもらう?


 旦那のシタカラは魔界大森林で『ゴム丸城』の太守やってるゴム丸君の側近だし、ちょうどよくね?



『う~ん、どうでしょう? コンゲ・ツァレはラージャの【お情けじか飲み】や【桃色空間ドサクサ挿入祭り】によって、かつての自分を大きく超える力を得ていますから……今更魔界での権威や権力に興味は持てないかと』



『『褒美は無用と申しておる』』

『『腹を撫でながら申しておる』』



『と言っているようですので、今後も真面目に浮気して下さい』



 お、おう。

 真面目な浮気とはいったい……


 あ、そうじゃなくて、じゃぁこの女魔人も要らねぇの?



『ええ、たった今、アートマンが悪神を滅ぼしました。その女は不要です』



『『愛息よ、神核を御馳走しよう』』

『『採れたてぞ、く参れ』』



 あ、うん、行きます。


 また神域がデカくなったんやろなぁ……

 眷属神も死滅したんやろなぁ……


 さて、じゃぁブッ殺すか~って、うわぁ女魔人が……


 おぅおぅ、すげぇ勢いで衰えていくなぁオイ。そこそこ美女風な若ぇ容姿だったのが見る影もねぇ。


 クソ永い年月を生きた生物が、こうやって神の加護を失うと悲惨なもんだ。


 これはアレだな、平安貴族文学で言うところの『もののあはれ』ってヤツだなっ!!



「な、何故……何故こんな……私達が何をした……」



 美しいコアルームの床にへたり込んだ老婆が、たぶん俺に向けてそんな事を言った。


 うん、お前達は何もしてないな。

 それなりに平和な生活を送っていた感じ?


 森林破壊も病毒の散布も防衛の為だろう、攻めたのは俺達からだし。


 でも俺達は病魔に倒れる事も無かったし森は何度でもよみがえる。


 俺達にこれと言った害は無い。まったく無い。


 そうだな、お前らは何もしてないな、うん、俺達に何もしてない。



 ただなぁ……



「人畜飼ってやがる外道がぬるいこと言ってんじゃねぇよ」


「そんな事っ、お前達にっ、関係っ、無いじゃないか……っ!!」



 関係無いよ?

 だから何だよ?



「お前それ、大森林ジャングルで同じ事言えんの?」


「な、何をピャッ……」


「うるせぇよババァ」



 デコピンする気にもならねぇ。

 イラッとしたら漏れた神気で弾けて死んだ。


 外道が長生きしてぇなら、暗い森の奥で静かに大人しく暮らせ。


 大森林じゃぁそれが常識だ糞ババア。



『……やだ今日のラージャは一段と素敵』



 へへへ、よせよ、勃起を誘発してしまう恐れ有り、だぜ?


 さぁ今日の仕事はしまいだ。

 ママンの所で神核料理をご馳走になるとしよう。


 あ、大魔王一家もご招待しますかねぇ。


 今月中には北のアカギ大陸も征服出来そうだし、話を聞きたい。


 ウヒヒ、建国祭までに惑星支配が間に合いそうだぜっ!!


 あとは……母親に惑星をプレゼントして、主神にえて完了、か……


 ゲームは俺達の勝ちだぜ、世界さん。

 一年ちょいで勝ったわ~、たはーっ!!


 そして『ゴリラ西遊記、惑星争奪編【完】』だな。


 次は宇宙かな?

 ドキドキしますなぁ!!





≪負……いで≫





 え、ヴェーダ今なんつった?



『?? 何も? 何か聞こえました?』


「えっと、マ、マケ、マケドニアとか?」


『マケドニア? アレクサンドロス三世が居た? いいえ、言ってませんし聞こえませんでしたね』


「いや言っただろ、マケドニアのゴリラ大王ステキって」


『ごめんなさい言ってないです』





≪言っ……ない≫






    第九章・完







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