第302話「山は下から見上げてナンボですわ」





 第三百二話『山は下から見上げてナンボですわ』





 異世界で残飯を食べた記念日となった九月十日の昼過ぎ、バステ無効にこれほど感謝した事が有っただろうか、いや無い(確信)


 推測だが、デパイトスが持って来たあの弁当は三女のコパイトスが作った物ではなかろうか?


 恐らくそうだろう、そうに違いない(願望)


 優しいデパイトスは可愛い妹の料理失敗を指摘する事が出来ず、受け取り拒否も出来ぬまま弁当持参をいられ――



『妹達が作ったものなら全部食べますよ彼女は』



 す、すなわち?



『酷い人、答えは解っているでしょうに』



 あぁ……世界は惨酷だ……

 母上様、救いは無いのですか?


 肉を焼くだけなのに核融合の熱を使いました的な料理が有っても良い世界は無いのですかーーっ!!



『『ならば汝が創造せよ』』

『『然様、男を見せる時ぞ』』



 ッッ!!


 OTOKOをせるとき……っ!?

 何と言うトレンディーなフレーズか……っ!!


 今ほど【男闘呼オトコ学級】や【さきがけ男ゼミ】に入って男を学びたいと思った事は無ぇ……っ!!


 なるほどママンの言う通りだぜ、彼女が焦げ散らかした料理を『うむむっ、これは美味しゅう御座いますなぁ』と言える世界にすれば良いじゃないかっ!!


 デパイトスが料理教室の先生になれる世界……素敵やん?



『労力としてはデパイトスに料理を学ばせた方が楽ですね。ラージャが望むその狂った世界を創る前に、まず桃色空間にデパイトスの汚料理教室でも創って狂った世界をご自分で体験してみて下さい。後はご自由にどうぞ』



 お前……お前に思いやりの心は無いのかヴェーダァァーッ!!



『ではラージャ、ジャキが股間を掻きむしった手を洗わずに握ったニギリを食べて来て、今すぐ』



 お前……お前に思いやりの心は無いのかヴェーダァァーッ!!


 それは凶悪な死刑囚に喰わせる拷問食じゃないかぁぁっ!!

 いや、死刑執行の瞬間に喰わせる猛毒だろうがぁぁっ!!



『ジャキに汚ニギリを持って来るように伝えました』


「お前はやって良い事と悪い事の区別がつかんのか?(真顔)」



 すぐに中止を伝えろ下さい……

 精神衛生上良くない、何より、お米が勿体無い。


 そして、僕が間違ってましたゴメンナサイ……



『今日は素直ですね、宜しい』



 グスン……クソぅ……

 何だか泣けてきたなの……


 デパイトスのお弁当がクソマズなの……

 明日も持って来るとかゆったなの……

 その辺の石ころの方が美味いなの……



『『哀れな……しかし可愛い』』

『『口をとがらせるところが良い』』


『前世幼少期のクセですね、確かに可愛い……』



 ちぇっ、誰も僕の悲しみを解ってくれないなの……

 悔しいからミギカラにジャキニギリを食わせるなの……


 って言うかゴブリンの将軍達に配給するなの、ぷふふ。


 あ、それ考えたら気分が乗ってきたな……っ!!

 よっしゃ、午後も元気に頑張れるぞっ!!


 さぁドワーフの諸君っ、見せてもらおうか、偽ゴリラの性能とやらをっ!!


 っと、その前に、作業場に置いてある鉄クズをクレメンス。


 おぅ有り難う、確実にあの汚弁当より美味しいからねっ!!

 イタダキマンモスっ!! う~ん、クッソ美味ぇ……


 へへへっ、鉄クズがこんなに美味ぇとはなぁ~……

 あれれ、変だな、目から汗が流れてきやがった……


 何がキツいって、鉄クズを食う悲しきゴリラを変な目で見てるデパイトスの視線がキツい。お前のせいなんだが?




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 デパイトスに奇異の視線を向けられながら、一人寂しく鉄クズを食い終わる。鉱物可食の効果によって心の強さを得た気がしたのは偶然だろうか、私は可能性を信じる。



『気のせいです』



 正論は時に人を傷付ける、いいね?


 教育ママに厳しくしつけられた学級委員長的なクソ真面目少女ヴェーダちゃんは置いといて、俺は眼前で動く偽ゴリラを注視する。危険は無いだろうか(性的な意味で)


 しっかし、身長4m以上かぁ、見れば見るほどクソデカいマウンテンゴリラだなぁ、大猩々姿の俺に似てると言えば似てる、かな?


 俺は完璧な二足歩行が出来る下半身構造を持ったゴリラだが、コイツは無理っぽい、基本的に両手も地面に付けて歩く『ナックルウォーキング』だ。


 俺も出来るし楽で好きだが、絵になってるのはコイツの方だな、ゴリラしてるじゃんって感じ。


 動きはスムーズだしどう見ても生物だ。

 この黒い皮膚と毛皮は作り物じゃねぇよな?



『獣系養殖を創造出来るダンジョンから大猿の毛皮を転送させました。骨もそうですね、不足分の骨は鋼で補っています』


「ほほ~ん、筋肉って言うか、肉は?」


薔薇バラの園ダンジョンの強化スライムが入っています。ムラマッサが説明していた部分なので、念話でお願いしますね、傷付きますよ』



 あ、やべっ、そうだった。


 チラッとムラマッサを見てみるが……大丈夫だ、デパイトスのデパイトスをひざまずいて拝んでいる。


 やるなぁムラマッサ、お前は分かってる、そうだ、その下からのアングルがデパイトスのデパイトスを最も美しく見られるベストポジションだ。


 よしヴェーダ、説明の続きを聞こうか。

 動力とか基本的な事からオナシャス。



『クスクス、はいはい。とは言っても、イズアルナーギの介入で根本から変わってしまいましたが』



 そこんとこ詳しく。



『当初は養殖スライムに魔ドンナの幽霊系不死眷属を憑依させて操るつもりでした、一番簡単なので』



 なるほど、費用も大して掛からんしな。続けてどうぞ。



『しかし、ゴリラを操るのはしっかりと自我を持つ魔ドンナの眷属、敵陣に特攻させるには忍びない、脱出路を確保したい……そこで【改二】となりゴリラ内の異空間をヘルの神域倉庫に繋げました』



 ほほ~ん、冥界なら幽霊も入れるってワケですかな?

 さすがに神界の倉庫に退避じゃぁ消滅必至だしな。



『ええ、ですが冥界は亡者の監獄、ヘルの眷属ではない亡者が一度入ると出られません。ヘルに解放を頼んでも無駄です、彼女に莫大な対価を払って亡者を蘇生させるなら別ですが』



 そうなるか……

 冥界の決まりじゃぁ仕方無い。


 そもそも、養殖眷属を冥界に入れるってのも、ヘルからすりゃぁ良い気分じゃないかもしれん。


 ママンなら何とか出来るだろうが、根源を変えられちゃぁなぁ~……職人達が切磋琢磨して頑張った技術開発とは言えんし、ドワーフ達も断るか。


 それで、その改案が出て改五まで進んだ感じ?



『そうですね、改三でロキやアングルボザの魔界神域に仮接続案、改四でコアっ子を搭載してダンジョン化案、最後の改五でイズアルナーギの強化改造コア搭載となりました』



 ……んんん?


 ダンジョンなの?

 あのゴリ、ダンジョンなの?



『小さなダンジョンですが、内部は恐ろしく深いです。冒険大好きな不可触神が空間拡張して遊んでましたからね、うふふ』



 あぁぁ冒険しちゃったかぁ~……

 イズアルナーギ様がやっちゃったかぁ~……

 小さなダンジョンなのに恐ろしく深いのかぁ~……


 哲学かな?


 って事は、偽ゴリ操作は強化コアがする感じ?



『そうなりますが、暫定マスターが私ですので、私の指示で動きます』



 ふぅん……あれ?

 クンクン、クンクンクン……ゴクリ。


 その強化コア……もう無いの?



『うふふ、在りますよ?』



 そ、そうか、ふぅん……

 べ、別に食べたいわけじゃないんだからねっ!!

 イヤしン坊とか言って勘違いしないでゴリねっ!!


 しまった、興奮して語尾をイジってしまった、迂闊うかつっ!!


 そうじゃなくてね、コアっ子達がその強化コアをいつもの様に吸収出来ないのかなって思ったんですぅ~、イヤしン坊じゃないんですぅ~っ!!



『それは……試していないので分かりませんね。イズアルナーギが改造した強化コアはもう通常のコアとは別物ですから。しかし、もし吸収出来るなら……とても素敵だと思います、うふふふふ』



 じゃぁ、オマンに誰か候補を選んでもらうか……

 コアっ子達は『面白そうだ』って言って自薦しそうだが……



 そんな事を考えていた時期が、俺にもありました。









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