第296話「萎えた、悲しいけどね」





 第二百九十六話『萎えた、悲しいけどね』





 九月九日、午前十時、大森林は曇り。


 俺はマハルシに創った『ドワーフ工房団地』に来ている。


 一つの階層をドワーフに譲り、職人街のようにしてみた……が。


 ドワーフの連中が店を出さない、商売しない……

 仕事はする、やめろと言ってもする、しかし商売しない……


 だから階層の名前を工房団地にした。実家を作業場にした奴らが住み着くだけの階層だからだっ!!


 商人居ませんっ!! 輸送業者入りませんっ!! たはーっ!!


 まぁダンジョンだしな、物の売買も輸送もマハルシの裏番長ヴェーダが全部やってくれる。それらを申請する必要すら無い。


 ヴェーダは眷属の状況を把握しているので『武器が出来たのね、じゃぁDPあげなくちゃ』的な感じで勝手に査定と転送搬入して終わらせてます。


 ドワーフは職人だが金儲けを考えていない、衣食住が完璧に整っているマハルシでは全力で物作りが出来るので楽しそう。まぁ無理に商売しろとは言わんけどね。


 ドワーフの過去は酷すぎる。

 なので、楽しい事をやらせます。


 とは言っても、ニート生活を推奨するわけじゃない。丁度良い事にコイツらはモノ作りが大好きだったので武具を作ってもらった。


 それがまた魔界出身の悪魔眷属に大変気に入られたワケです。


 魔界の悪魔は無限に等しい、下界へ降りた俺の眷属悪魔だけでも十三億を超えるし今も増え続けている、需要に供給が追い付くわけがないなっ!!


 ドワーフ製の武器防具は高品質、当然値は張る。特に、極端に数の少ないアハトマイト製の武具はヤバイ。


 イセトモが持つジャマダハルや三叉槍トリシューラはFP下賜品なので値段は付けられんが、俺が打ったアハトマイトナイフやドワーフ族長『ムラマッサ・ヨウケ=キレヨル』が打った同ナイフは、魔界貴族達が大魔王さんに『魔界オークションに出品してもらえないか』と頼み込んでいるらしい。


 そんな事言われてもなぁ?


 神木マハーカダンバの根っこがアハトマイトの大岩を包み込んだので、もうどうしようもないんだよねっ!!


 アハトマイト製の防具は神瘴攻撃を弾くし、武器は神瘴結界を貫通する事が分かったからな、そういう意味も含めて希少なんだろうが……無いもんは無いんだよ?


 でもここだけの話、古参組って言うか、マナ=ルナメル氏族とディック=スキ氏族のゴブリンは全員持ってるんだよね……まぁまず手放す事はねぇだろうが。



『手放すはずがない、最古参の証として大切に保管しています。死んだシタカラ達のナイフはミギカラがアートマン像に供え天に送り、再びシタカラ達の許へ戻りました』



 ハハハ、そうか、そりゃ良かった。

 だが……これで五本のナイフが下界から消えたわけか。


 そいつぁまた希少価値が上がったなぁ、ハハハハ。



『ラージャがこの森で初めてアハトマイトナイフを作った時、アハトマイト同士を擦り合わせて研ぎましたね、その時出た削りクズを大切に保管したようでしたが、アレは何の目的で?』



 あぁ~アレなぁ……


 ただ勿体無いと思ったのと、集めていたら刀作りの『玉鋼』的なやつとして使えるんじゃないか……と思ったんだけど、アハトマイトを熱して柔らかくさせる火力がこの世に無い事に気付いた。



『アレはさすがに普通の火力では……せめて鍛冶神自らが打つか、鍛冶神の加護を持った者の手でなければキツそうですねぇ。むしろアートマン以外では無理かも……』



 だよなぁ~……

 でもママンに頼むのは最後の最後にしたいねぇ。


 って、この話はまた今度。

 今はお前らの作業状況を確認したい。


 工房団地へ入って早速ですが、尊妻様イチ押しの『アユスヴェーダ兵器研究所』略して『ヴェ研』に行きましょう。


 智愛神ヴェーダによって丸裸にされたクソ魔導兵器『ウディリシの大砲』を皆で指差し、プギャーするのですっ!!


 では参るぞ厠番の諸君っ、この無駄に広い道をテクテク歩くのです。



『研究所へ直接転移しないのですか?』



 いや実はね、私はこの『昭和の工業団地』の雰囲気が漂う景色が好きでね、見たまえあのチープな児童公園を……まさにノスタルジック、昭和キッズの心をえぐりに来てる。


 公園の端に据えられた無防備な公衆便所……エロキッズ大歓喜の素敵スポット、いつか見た変態オジサンもあの便所設置に許可を出した役所に喝采を贈るだろう。あのオッサン、今頃はおりの中だろうか?


 嗚呼っ思い出す……オバちゃん達の冷ややかな目線と井戸端会議、無数に居たヤベェ目付きの野良犬、夕日に照らされ光るヤンキーの剃り込み、近所に住む五つくらい年上のお姉さんがセーラー服のスカートをめくって見せてくれた白パンツ……今考えるとあの人、アンパン食ってたんじゃねぇかな?



『なるほど、思い出に浸りたかったわけですか。階層入口に転移した理由が分かりました。ちなみに、その娘は【ナンシーさん】と渾名あだなを付けられるほどの常習者です』



 聞きたくなかった新事実だよ……


 この悲しい思い出は心の奥底に仕舞い、前を向いて歩こう。


 あ、その前に、厠番の諸君、僕は少しあの公衆便所で用を足す。


 あそこで、用を、足すのだ……分かるね?




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 厠番の子達は分かってた、良い子達ばかりです。ふぅ……


 さてさて、やって来ました『ヴェ研』っ!!


 お出迎えはサキュバスの受付嬢かな?

 この子なんか親近感が湧くね、モッコリ、間違えたニッコリ。


 ドワーフの出迎えが無い件については、考えるだけ無駄だ。


 作業中のアイツらはゾーンに入ってます的なアレだからな、何なら『チッ、何しに来たんすか?』とか言われかねんほど一つの事に集中する変態、気にしてもしょうがない。


 受付嬢に先導されてトコトコ付いてく。

 嬢のケツにイライラ棒をコツコツ当てながら付いてく。


 嬢が大きな扉の前で歩みを止めた。

 赤面してうつむきがちに振り返る受ケツけ嬢。



「あ、あのっ、こちらが当研究所の、第一研究室で、あの……大魔神様、入室される前に、あの、致しますか?」



 少し照れた感じに上目遣いで聞いて来るなんて……


 ハニカミ天使かな?


 何だこの受付嬢……完璧な受付業務じゃないか、プロかっ!?


 ど、どうするヴェーダっ、ギャグ気味のセクハラスキンシップが正面から受け止められてゴリラ困惑っ!!



『はぁぁ……後宮に部屋を用意しておきます。魔導兵器を見る前に桃色空間へどうぞ。鬱陶うっとうしいので』



 お、おうっ!!


 ちょっとイッて来らぁっ!!



『って、待って待ってラージャっ!!』



 ンだよ~、俺の勃起を止められると思うなよ?



『マハルシ内なので油断していました……そ、その娘、よく見れば貴方と同じ神気を纏っています、親子では?』



 おぅふ……


 スゲェなお前、勃起が治まったよ……









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