第292話「事件は現場で起きているんだっ!!」





 第二百九十二話『事件は現場で起きているんだっ!!』





 九月三日はまだまだ続く。


 午前九時過ぎ、カスガ大陸南西部、ダンジョン山脈付近の森。


 昨夜から雨が降り続いていたが今朝止んだ。お日様は見えない、曇天が森の内部を更に薄暗くし不気味な雰囲気。


 泥濘ぬかるむ地面に辟易しながらエーちゃんを観察。俺の隣にはホンマーニが立っている。


 俺達の背後には不死狩りのメンバーが並び、その後ろに侍女達が居る。護衛は少し離れて八方を警戒。


 そして、エーちゃんに付けていた小猿君達が居ない……

 エーちゃんから離れて護衛しているようだが……


 ナオコにならって分神を切り離したのが仇になったな。まぁいつでも繋ぎ直せるしヴェーダが見張っているから万が一は無いんだろうが。


 取り敢えず、小猿君達の不可解な行動についてホンマーニに聞いてみた。


 すると――



「小猿様は、その、エーちゃんの微笑みを向けられますと、その、昇天遊ばすので……」



 と言う意味不明な答えが返って来た。


 意味が解らんのでヴェーダに聞くと『試して御覧なさい』と言われたので、護衛の小猿君はそのままにして新たな小猿君を創造。良い鼻毛が抜けたぜ。


 極太鼻毛から生まれた猛者をエーちゃんの許に向かわせる。


 猛者の接近に気付いたエーちゃんが『チビッ子ナオちゃん!!』と言って嬉しそうに微笑んだ。


 エーちゃんの天真爛漫な笑みを向けられた猛者は聖者の如き優しい微笑を浮かべて消えた……


 ウソやろ……



「何やアレ……」


「エーちゃんのスキル【穢れ無き微笑】で御座います賢者様……あの微笑で邪悪なる者が消滅するのです、なんと恐ろしい……」



 コメカミに冷や汗を垂らした妖艶ボディのホンマーニが沈痛な面持おももちで答える。


 そんな表情でそんな意味不スキルを解説されても……

 それは俺の小猿君が邪悪って意味じゃないですか……



よこしまな性欲のカタマリでしょう貴方の分神は』



 そんなお前、言いがかりもはなはだしいっ!!

 もう少しオブラートに包んだ表現をしたまえっ!!


 まぁ確かに、小猿君は寝取るのが好きだし人妻を狙う傾向が見られる。もっと言えば寝取った人妻をオナホ扱いする傾向も見られる。嫁さんズや眷属以外に対しては基本的にクズだ。


 しかも愛が無い、小猿君の行為は全て本体である俺の為、俺の利益が最優先なので相手の都合など何も考えないド外道。


 さらに、お前らそれ狙ってやってんのかと思えるほど嗜虐性に富むセクロス、それってやる必要無いよなと小首を傾げた回数は数えきれない……っ!!


 なるほど、邪悪やなっ!!


 無邪気な悪意とかヤワなもんじゃねぇなっ!!

 スッゲェ楽しんでたもんなアイツらっ!!


 でも普通の神聖攻撃を喰らっても消滅はせんと思うが……



『エーちゃんのアレは神族のわざ、スキルではなく神罰に近いですね』



 神罰かぁ~……

 分神如きにはキツいか?


 俺もママンの神罰だけはどうにも出来んからなぁ……



『アートマンの神罰は特別ですよ、神格も性質も威力も違う。今回は相性の問題ですね、エロ分神の穢れた性質がエーちゃんの無垢な心に浄化された結果です』



 なるほどなー、相性かぁ……あっ!!

 ブフフフッ、クスクスッ、プリプリッ、ムフフッ!!


 あのさぁ、ちょっとジャキ呼んでみねぇ?



『鬼ですか貴方は……まぁ興味は有りますが』



 想像してみろよ、綺麗な豚をっ……

 菩薩の微笑みを浮かべる綺麗なジャキをっ!!



『……想像しました、何コレやだ気色悪い』



 ヒドすぎワロタ。


 残念だがジャキの浄化はお預けだなっ!!


 でも何か下手ヘタ打ったら『エーちゃん神罰』の刑にしようぜ!!



『それは良いですね……軍法に記載しました、続いて眷属ネットによる発布を行います……完了しました。【エーちゃん神罰】の内容も記載しました』



 お、早いな、さすがだぜっ!!

 皆の反応はどうだ?



『ミギカラやジャキが過剰な反応を見せています。彼らは眷属ネットの【ゴちゃんねる】でエーちゃんに関する情報収集スレッドを立てました。神罰回避法の模索が目的かと思われます』



 眷属の言動を把握するヴェーダが居るのに回避なんて出来んやろ……



『どうやら魔神妃エーちゃんが好む物を探っている模様、贈賄ぞうわいを考えているようです。ガンダーラに贈賄罪は有りませんが、浅慮ですねぇ』



 親分の奥さんに高価な物を贈る的な考えだろ。

 たぶん悪気はねぇぞアイツら、ハハハ。


 ほっとけほっとけ、贈り物を渡す為に自分からエーちゃんに会いに来りゃぁ世話ねぇぜ。



『うふふ、そうですね』



 さて、エーちゃんの神罰に驚愕した感じのテイで俺に抱き着いて来たホンマーニをヒョイと持ち上げ右肩に乗せましょう。


 うむっ、パイズリンの妖艶ボディはどこを触ってもプニプニやのぉ……


 最初に出会った時はヨボヨボの婆さんだったのになぁ、そう言やぁあの日はホンマーニを背負って帰ったな、懐かしい。


 懐かしいのでセクハラしながらエーちゃんの許へ向かおう。


 しかしアレだな……


 俺の左肩に二人の女の子が座っているのは何故だろう?


 って言うか、誰?



『その子達は闇霊と聖霊ですね、人類による精霊狩りからのがれた養殖ではない生粋の精霊種です。エーちゃんの【穢れ無き微笑】が放つ神聖な温かさや彼女自身の威光に魅せられて出て来たようです』



 へぇ~そうなんだ……

 でも闇霊は大丈夫? 消えない?



『本来、精霊種は邪悪なものではないのです、養殖の様な人に害す偽物とは違います。闇霊は暗闇を司る精霊で正邪善悪を問う存在ではありません、悪霊や死霊の如き穢れた悪意など持っていません』



 なるほどなー……


 属性的には聖霊の対極な感じがしたけど違うのか。

 聖霊の対極は悪霊や死霊って事か?



『そうですね、悪霊や死霊は瘴気を撒き散らすので纏めて【瘴霊】と呼びます。山脈ダンジョンから湧いて来る養殖闇霊は瘴気を吐きませんが瘴霊のたぐいですよ、ダンジョンマスターの悪意が染み込んでいます』



 ほほ~ん、結局は内面って言うか精霊の体を構成する要素の一因に汚ぇモンが入っているかどうか、の問題かな?



『うふふ、ラージャの分神は【神霊】と言えますが、構成要素に汚いモノが多く含まれていたようですね、反省して下さい』



 なるほど、道理で小猿君が簡単に逝くわけだぜっ!!


 まぁ取り敢えず、左肩の二体は悪さしねぇならこのままで良いって事だな。


 それは解ったけど、何で俺の肩に座るのかは解らないな、全く解らないぜ……っ!!



『フェチモン』



 知ってた。


 遠巻きに俺を見つめる精霊達がジワジワ詰め寄って来てるのも知ってた。護衛達が無反応と言う事はヴェーダが連絡済み、無論知ってた。


 妖精の先祖ってのもうなずける、行動が悪戯イタズラ好きのピクシー達にそっくりだ。


 肩に座った二体はゴリラのご機嫌うかがい先遣隊ってとこか?


 って事は、俺の反応を見て後続が来るわけですね分かります。


 俺は怒らんから来ても良いよ、肩に座る二体に伝えてみた。


 一瞬で二体が消えた……って言うか俺の中に入った……



『あらあら、いらっしゃい』


「ウソやろ……」

「賢者様これは……っ!!」



 右肩に座るホンマーニも目を見開いて驚愕。

 周囲に居た精霊達が一斉に俺の中へ飛び込んで来た……



 ウソやろ……



 少し離れた場所ではエーちゃんがニッコリ笑って無双している。


 エーちゃんの正面に居た瘴霊は全て消えた、何だあの威力……


 俺は自分に起きた怪奇現象とエーちゃんの爛漫らんまん無双による精神的ショックで混乱し膝を突いた。


 しかし、混乱した俺をち上がらせてくれたのはフリンだった。ふぅ……


 好い仕事してますねぇ!! フリンの頭をナデナデ。


 このナデナデがいけなかった……


 嫉妬全開のホンマーニが肩から飛び降りて厠番に加入。


 すると、巫女衆がホンマーニにならって厠番に加入。


 それを見ていた真我教の火炙り聖女ファクミーが狩りを止めて飛び入り参加で加入。


 聖女の加入で勢い付いた神官衆も澄まし顔で加入。


 神官衆には男性神官も居てゴリラが白目を剥く。



「わーい、ナオちゃーん!!」



 トドメにエーちゃんが『大輪の花が咲く』と形容するのも烏滸おこがましい美笑を浮かべながら俺の胸に飛び込む。


 その美笑によって周囲の穢れた存在が昇天。

 森に断末魔の叫びが響き渡る……



 現場の混乱は深まった……








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