第200話「や、優しくして……」





 第二百話『や、優しくして……』





 辺境伯領首都ラスティンピス消滅、その報をパパドンプリーチ城の執務室でヴェーダから聞いたミギカラは、大森林に転移しゴブリン達にこう告げた――



「主様があのド腐れ外道共に目にモノ見せて下さったぞっ!!」



 ガンダーラの魔族にとって、辺境伯一族の評判は最悪だ。

 直接被害を受けていた浅部魔族が多数居る。


 滅びの都で飼われていた魔族の怒りは当然だが、虫刺されでくたばった辺境伯の娘シャズリナに狩られた浅部魔族は数えきれん。


 末娘の婿となった勇者にも狩られているし、エルフの奴隷少女達は散々ヤられている。あの野郎はもっと苦しめて殺すべきだったな。


 そして、神の一撃で死んだマナ=ルナメルの戦士達。愚かな神が原因だが、怒りの矛先は辺境伯一族に向かった。



 そんな恨み骨髄に徹する仇敵を、その本拠地ごと消滅させたのが私です。


 たはーっ!!


 無駄に人畜を殺してしまったのが悔やまれますっ!!

 他は特に……思うところは御座いませんなっ!!


 ただ、人類の合従連衡がっしょうれんこうは時間の問題ですね!!


 むほほ~っと、呑気な事を考えておりましたら、愛妻が声を掛けてきました。怒られると思ってビクッたのはナイショだっ!!



『浅部魔族がラージャの帰還を待ち望んでおりますよ。神木前広場に転移して下さい』



 アイツらが俺を待っている、と?


 はて何事かと急いで転移しました。すると広場には――


 ミギカラを先頭にした浅部魔族達が膝を突いて待っていた。


 ちょっと居心地が悪いですねぇ……

 ウエカラとか女性達の目が潤んでいるのが苦手ですねぇ……



「主様、この度は誠に有り難う御座いました」

「感謝の申し上げようも御座いません、う、うぅぅ」


「う、うむ。マナ=ルナメル氏族が誇る英霊の鎮魂になれば幸いだ。エルフやドワーフは自分の手で辺境伯一族を滅ぼしたかっただろうが、スマンな、お前らの事を考えるとついつい力が入ってしまったなの……エヘヘ」



“うおぉぉぉぉおおおっ!!”

“ナオキ・ザ・グレイッ!!”

“ナオキ・ザ・グレイッ!!”



『正直者とはいったい……なるほど、照れ隠しで嘘を吐くとムズムズして不真面目な言動になるのですね、お可愛いこと』



 やめないかっ!!

 説明するんじゃないっ!!

 お前それ嫁さんズに教えているなっ!!



『アングルボザはこの光景を録画中ですが』



 殺せっ、いっそ殺してクレメンスっ!!



『アートマンの記憶媒体ですので』



 是非も無しっ!!


 チクショーっ!!

 神界でゴリラはずかしめ鑑賞会だなんてクヤシスっ!!


 そうだ、羞恥心を消す為にお祭りしましょう!!

 辺境伯一族死滅祭りの開催だぁーっ!!



『遠縁はまだ存命ですが、暗殺しますか?』



 オナシャ……いやいや、捕縛して浅部開発に役立てましょう。パコレイパーを沢山召喚して男も女も苗床だ。


 うむ、それが良い。

 辺境伯家人畜牧場を創って差し上げるね。



『うふふ、ではメーガナーダに拉致を命じます』


「よろしこ」



 さぁ~て、良い子のみんな~、お祭りを始めるよ~!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 【浅部第98宇宙域・神界にて】




 二体の不可触神ヤナトゥ出現により危機感を覚えた中央神界が手を引き、封鎖された宇宙域に存在する神界。


 その浅部第98宇宙域の神界は喧騒に包まれていた。

 楽し気な音は聞こえない、驚愕と絶望が生み出す喧騒だ。


 二体の不可触神が擁する英雄の二人が同時期に神へ至った。


 これはとんでもない事だ、前代未聞だ。

 天から地上を覗き見る神々が事実を受け止められない。


 しかも、二人揃って魔界の神。

 人外帝王は悪神に属す魔神に、魔皇帝は聖を呑み込む悪神に。


 その二柱は同盟を結んでいると言う悪夢付きだ。


 更に更に、天上一の美女とうたわれた豊穣神オッパイエの裏切りとも呼べる電撃結婚っ!!


 結婚式は愛神エオルカイを祀る神殿の上空。

 衆人環視の中で聖行為と言うダイナミックな結婚式。


 相手はなんと魔神となった人外帝王。

 既に豊穣神は帝王の子を宿したと言う。


 これには神界のイケメン男神達が絶望した。


 そして激怒する。

 さかる大猿と股の緩いアバズレ滅ぶべし、と。


 それを口にした男神達は、アートマンからの出頭命令が届いて白目を剥く。


 ここに来て彼らはまだ理解していなかった。


 アートマンとイズアルナーギの権能を前に内緒話など通用しない。


 不可触神を理解していない。

 その偏愛を理解していない。


 不可触神の息子を侮辱した罪は重い、非常に重い。

 息子と共にその嫁まで侮辱したとなると……


 滅ぶかくだるか、二択しかない。

 眷属への侮辱は報復の対象となる。

 ましてや御子の侮辱ともなれば報復は必至。


 戦えば滅ぶ、逃げても滅ぶ、生きたいなら降る他ない。


 結局、八十八柱の若い男神がアートマンに下った。


 彼らはアートマンに信仰の根源を九割九分抜かれ、神域での下男扱いが決まった。シタカラ達や天女達より下の身分、下の下である。ゴム丸君のサンドバックとしては優秀だ。




 イケメン男神の集団離脱に騒然とする神界だったが、時間を置かずに次の大事件が起こった。


 人外帝王が石ころの一撃で人間の領都を更地に変えた。

 その様子を見ていた神々が唸る。驚愕の唸り声を上げる。


 人間の大人が掴める程度の石で、何故あそこまでの威力がっ!?


 恐るべき神力、下界に顕現した神の一撫でとは思えない。そもそも何故、常時顕現出来ているのか解らない。



 人外帝王が石を飛ばした翌日、遠く離れた南エイフルニアの地でも神々が白目を剥く出来事が発生。


 魔皇帝が自国に隣接する人類国家を吸血鬼の収納スキル【闇の湖】で影に沈めた。どうやら試験的にやってしまったようだ。範囲広すぎワロタ、とは人外帝王の言葉である。



 余りにも非常識かつ無慈悲な二柱に戦慄する神々。

 しかし、打つ手が無い、何も無い。


 人外帝王と魔皇帝だけなら勝負は出来た、はずだ。


 だが彼らの背後には不可触神が控えている、どうしようもない。それどころか魔王や『幼神の使徒』がウジャウジャ控えているが、神々はまだ気付いていない。


 仮に、神々が人類に手を貸さないと言う条件を魔族側に出せば、恐らく神々の滅びはまぬがれるだろう。人類には悪いが人身御供ひとみごくうになってもらう。


 ゲームに敗北すれば神界の主神となる夢も主神の眷属となる夢もついえる、だが、滅ぶよりマシだ。なお、不可触神が主神となった神界は想像しないものとする。



 喧々囂々けんけんごうごう侃々諤々かんかんがくがく、神々は時間を忘れて議論を交わした。


 滅びを回避する為の議論、起死回生の何かを探る議論。


 その結果、ひとまず時間稼ぎに徹する事になった。何とも締まらない答えだ。


 とにかく、不可触神を刺激せぬように魔族を殺す。


 さすがに魔族を放置したままには出来ない、人類による信仰の力が薄まれば結局滅びを迎えてしまう。


 ここは人間と獣人に再び手を結ばせ、国々の合従連衡を強固にし、ダンジョン攻略を控えさせて対魔族に専念させる。


 と言っても、人外帝王と魔皇帝が治める領域には攻め込まず、防衛のみに全力を注がせる、刺激するなと神託を下ろす。



 神々はこれを使徒ゆうしゃや信仰あつい信徒に伝えた。


 行くなよ、絶対行くなよっ!!

 年季の入ったお笑い芸人の如く、何度も何度も釘を刺した。






「……無理だな」



 異世界人の自信過剰な言動を思い浮かべ、そう吐き捨てるのは美しき戦神ムンジャジ。


 彼女は旅支度を整え、上気じょうきした頬をペチンと両手で叩き、鏡の中の自分に囁く。



「お、お前なら大丈夫だ、オッパイエだって出来たんだ、ヤれる、ヤれるさ」



 フゥと息をいて心を落ち着かせる。


 戦神ムンジャジは心にえがいたその場所へ転移する。



 恐るべき『義母』の神域へ、子を孕んだ友が居るその場所へ。









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