ペド伝説第一章「はぁ、面倒なんだが?」
ペド伝説第一章『はぁ、面倒なんだが?』
【セパルトゥラ傭兵ギルドにて】
悪魔達の静かな怒りが籠る傭兵ギルド一階受付フロアー。
カウンター前に立つ黒髪の男に視線が集まる。
男は人間だ。勇者の血を引く人間だ。
首と肩の筋肉がやけに発達した、彫りの浅い平凡な顔立ち。どこにでも居そうな若い男だ。年の頃は二十歳前後と言ったところ。
薄茶色の長袖と茶色いズボンは汚れているのか、その茶色が元の色なのか汚れによるものなのか判断に困る。袖口のシミは染物師による意匠に見えなくもない。
どちらにせよ清潔感の欠片も無い。
そんな不潔感漂う男の名はペド、ペド・フィーリア。
王都の役人、国の官吏であるが、新たな夢を抱いた彼は既に退官を決意していた。馬車は荷物ごと売った。買いたいと言って来た少女に通常の三倍という良心価格で売った。可愛い少女だった。
丘陵街の可憐な少女達を見て彼は思う、『この楽園で女児限定孤児院を経営したい』と。
この街に孤児が居るかは分からない、居なければ他の街で探す。
それでも見つからなければ作る。孤児は自作すれば良い、簡単だ。プロフェッショナルなゴミクズの理念に照らせば正しい選択。
そして楽園の中に楽園を築く、これこそ自分が進むべき道、目指す到達点。
女児限定の孤児院で院長を務め、尊敬されてイキる。
イキるのは得意だ。イキる為なら流血も
将来、卒院女児から『先生離れたくない』と言われる事に比べれば、国の官吏が得る利点など糞便に等しく、何の魅力も感じない。『先生』の魅力には
むしろ『お父さぁん』と呼ばれるかもしれない。
最終的に『あなたぁ』になる事も有り得る。成長したら離婚して捨てる。
もはや王都での栄達に未練はない。花屋の幼女には未練が残るが選別させてもらう、君の席は無い。ペド的に両想い認定されていた幼女が助かった瞬間である。
地上の楽園を知ったペドは悟った、楽園を離れる役人など畜生にも劣るっ!!
仮にそのような役人が居れば『人間としてどうなの?』と、ゴミ人間ペドは問い詰めるだろう、年少の気弱な役人限定で詰問するはずだ。
ペド・フィーリアと言う男を言葉で表現するなら、『欲望と下劣な妄想をドブの水で煮詰め、出来上がった汚物を見るに堪えない愚かな誇りで塗り固めたような物体』だろうか。
傭兵ギルドの悪魔達が注目するのは、そんな男だった。
恐ろしく自分勝手な道徳を胸に秘め、人間としてどうかしているペドは右手で頭をポリポリ掻きながら受付嬢の返事を待つ。舞い散るフケは花吹雪の演出か。
相手への好感度は急上昇だと確信するペド。
だがしかし――
加入申し込みをしたはずなのに、受付嬢が動かない。
やれやれ困ったもんだと肩を竦め、ため息を漏らすペド。
何をして欲しいのか全部言わなきゃ分かんないかな?
俺は事務手続きの玄人ではないんだが?
そんな表情で受付嬢を見つめるゴミ人間。
悪魔達に新鮮な殺意が貯蓄される。健全な資産とは言い難い。
受付を任された女性、金髪碧眼が美しいサキュバスの『セイラ・マスカキ』は、殺してしまえと言う本能の誘惑を抑え込み、笑顔で対応する。
「こちらの案内をご覧下さい」
とりあえず最低限の礼儀で仕事を
そんな彼女の魅了入り美声に勃起をきたすペド。
だが残念、ペドのストライクゾーンから大きく外れている。
ペドにとって、外見が幼いとは言えない女性は例外無く熟女である。悪魔の魅了が無ければ勃起をきたすことも無かっただろう。しかし、嫌いではない。
眼前の熟女とヤるかい? そう問われればイエスと即答する程度には好きだと言っておこう。ゴミクズは穴の貴賤を、いや、老若を問わぬのだ。
不意の勃起に戸惑ったペドだったが、ポケットに突っ込んだ左手で愚息を抑え込み素知らぬ顔を通す。なお、勃起はこの場の全員にバレている。
頭を掻く右手を下ろし、ペドは両肩を竦めて首を左右に振った。
案内文を見ろと言われても困る、そんな話は聞いていない。
「最初からそう言って欲しいんだが?」
苦笑して案内文を見るペド。
フロアー各所から血管が切れる音がする。
何を言っているんだアイツは……
最初に話し掛けたのはペドだ、セイラに非は無い。
ペドの言葉遣いも悪魔達の逆鱗を刺激するダブル効果。
軽くクレームを入れられたセイラは頭を下げ、丁寧な謝罪モーションを見せるも、その顔はモザイク処理が必要なほど歪んでいた。この男にトドメを刺す役は私が頂きますと大猿王に誓う。
案内文を読み終わり、カウンターに置かれた羽ペンを持つペド。そのペンは焼却処分だろう。セイラがゴミ箱を見ている。
そんな汚物認定済みのペドは、数十枚重ねられた申請書を何故か一番下から抜き取り『普通ではない行動』をアピールする。さり気ないドヤ顔も忘れない。
これには悪魔達も困惑。
ドヤ顔の意味が解らない。
セイラの目は既に死んでいる。
申請書を書き終わったペドが、乱暴にそれをセイラに渡す。
美女に何かを渡す時は『ぶっきらぼうに』がペドの信念だ。なお、乱暴とぶっきらぼうの違いは理解していない。
死んだ目のまま笑顔を作り、申請書を確認するセイラ。
字の汚さに頭痛をきたす。目の奥が痛い。
ジョブ欄に『賢者』とあるが、彼のジョブは『下級魔術師』だ。いきなりの詐称に頭痛が酷くなるセイラ。
とりあえず作戦上どうでもいいので申請を通す。セイラは潜在魔力測定宝玉をカウンターの下から取り出し、アホの眼前に置いた。
こればかりは何を言わずとも分かるだろう。そんな期待を込めてセイラは微笑む。
期待通り、ペドは知っていた。むしろこの時を待っていた。
この球体に触れて周囲を驚愕させれば勇者認定必至、勃起祭りだ。
だが、嬉しそうな素振りは見せない。飽くまでクールを装う。
「はぁ、ヤレヤレ、これに触ればいいのか? 面倒なんだが?」
ガタッ
数名の事務員悪魔が立ち上がり、トイレ休憩に向かう。
彼らが向かう先はダンジョンの人畜牧場だ。
ストレス発散には持って来いの場所だろう。
私もそこに連れてって。
セイラの想いは誰にも伝わらない。
ギルド長ヒガデはペドの言動を観察していた。
智愛神が告げた『勇者ムーブ』と酷似している……
実際は聞いていた以上に酷い。
腐っても勇者の血族、侮れない。
実に、実に不快だ。
“やってくれる……っ!!”
敵の実力が測れない。
ギルド長として不甲斐無さを覚える。
ヒガデは舌打ちを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます