第70話「アタック(古い)」
第七十話『アタック(古い)』
美しい。
薄い紫から褐色へと変わった艶やかな肌。
腰まで伸びた黒髪は太陽に照らされて青く輝く。
トパーズの様な瞳は黄金色に輝き、額に生えていた漆黒の二本角は頭頂部に移って天を衝く。
細く形の良い眉、その眼孔は夜叉そのもの。薄い唇の隙間から純白の牙がキラリと光り、獲物の体を硬直させる。
身長182cm、バスト84、アンダー65のDカップ。
トップとアンダーの差が19cm…… ふぅ、完璧だ。
「完璧だ、メチャ・ディック=スキ」
「あわわ、あり、有り難きお言葉~」
『レベル134、進化一回、総合力742万3,281です』
「ブ、ブヒ、い、好い女に、なったじゃ、ねぇか……」
「……フム、メチャは何と言う種族に?」
『女夜叉【マハトマ・ヤクシニー】です』
羅刹から夜叉に進化を果たしたメチャ。進化は一回しか出来なかったが、進化後の能力上昇率が高く、進化回数の少なさを補って余りあると言える。
メチャのレベルアップと進化を以って、三人のノルマは達成された。
え? ジャキ?
アイツはメチャの前にミギカラとシタカラが釣った狸を仕留めている。
ジャキのレベルはレインと同じ142、総合力は997万4,611パワーだ。レインと285パワーしか違わない、好いライバルになりそうだ。
北都系猪人族は普通の猪人より体格が良い、ジャキもその例に漏れず巨漢だ。進化を2回果たしたジャキの身長は302cmになった。
黄眼は変わらず、肌色は薄い緑から濃い緑に変化。産毛だった短い頭髪も、フッサフサの黄色いクセっ毛に変化。
しかし、見た目のパンチが効いていないので、マハーカダンバ・オイルでジャキの髪を後ろへ流しつつ中央へ寄せ、さらにフロントを盛り上げ『ポンパドールヘア(略してポンプ)』、いわゆるリーゼントにした。
ついでに、ナイフで
これには怒るかナ~っと思っていたが、アハトマイトナイフに映った自分の髪型を見たジャキは「ヤッベ、ヤッベェ」と、体を震わせて喜んだ。
すると、レインが「……あぁ、髪が鬱陶しいな、長くて鬱陶しい、短くせねば、短くして“後ろへ流す”髪型がいいかも知れんな(チラッ)」
などと“独り言”を言っていたので、レインの銀髪を半分切って『渋いリーゼント風』に七三分けのポンプにしてあげた。直毛の七三ポンプはシブくていい。すごく喜んだ。いぶし銀のベーシスト感がある。
すると、先ほど進化したメチャがサイドテールを弄りながらチラ見してきたので、彼女を『大森林のポンパドール夫人』にするべく、サイドとトップの髪を後頭部に捻り寄せて糸で縛り、フロントを少し盛り上げて、後ろの髪は垂らすだけのロックなスタイルにしてみた。
これまた非常に喜ばれたが、そのメチャを見たジャキに問題発生。
先ほどからジャキの様子がオカシイ。
何度も生唾を飲み込み、鼻息を荒くしてメチャをチラチラ見ている。さらに、自慢のポンプヘッドを何度も触ってメチャの視界に収めてもらおうと必死だ。
「あ~、ちょっと“トサカ”がキまんねぇなぁ~、ちょっとキまんねぇなぁ~、もっとこう、何だ、竜巻きみてぇな? 力強い感じ的な? ドラゴンのブレスを感じさせる“トサカ”にしてぇなぁ…… どう思うメチャ?」
「え? ゴメン聞いてなかった、ミギカラさん達にお茶淹れるから、あとで聞くね」
「お、おぅ、キニスンナ……」
「……あれは兄者に恋する女だ、諦めろ」
「は、はぁ~? 何言ってんの? 諦めろとか、意味解んねぇ」
「……あの女が兄者を見つめる表情は恋する乙女のそれ、諦めろ」
「言い方変えて二回言うなよっ!! ぶっ殺すぞテメェ!!」
『青いですね』
「十八歳だしな、アイツ」
若いうちは積極的に想い人へアタック(古い)して、色んな免疫を付けながらハートを強くするもんだ。振られたって死ぬわけじゃねぇしな。
ジャキの姿勢は嫌いじゃない、しつこくしない限り俺は支持する。
メチャの凶悪美人ぶりに磨きが掛かったのは事実だ。ジャキの心情も察する事は出来る。メチャが俺の侍女じゃなかったら、ジャキをぶん殴ってでも先にアタックするね、俺は。
最後の狸を仕留め終わるまで俺達の後ろに隠れていたミギカラ達も、狸が死んだのをヴェーダから聞いて出て来た途端、進化したメチャを見て呆然としていた。
強く美しく凶悪な存在は、大森林の魔族にとって畏敬と憧れの的だ。
これでまた、メチャの信者が増えるだろう。
『ナオキさん、最後の狐をドワーフ隊が釣り上げました』
「ドワーフ達はちゃんと覆面させたか?」
『大丈夫です。狼達も体の大きい個体を選んで乗せていますので、移動速度も問題ありません。あと4分ほどでこちらへ到着します』
「よし、最後は狐狩りか。誰にトドメを刺させようかね……」
『提案があります』
「ハハッ、言ってみな」
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