第27話「そろそろ内政に力を入れたい」
第二十七話『そろそろ内政に力を入れたい』
「お疲れさん、腹を重くした嫁さん達が待ってる、早く行ってやれ」
三週間ぶりに女王の許から戻って来た十八名の男衆に労いの言葉を掛ける。
彼らは出迎えた皆への挨拶を簡単に済ませ、診療所のベッドで夫の帰りを待つ妻達の許へ駆けて行った。
今回で二十六度目となる奉公からの団体帰省、奉公自体は十八度目だが、何かある度に女王が帰省させてくれるので、奉公と帰省回数が合わない。
団体での帰省は二十六度目だが、個人の帰省は何度あったか数えるのが面倒になるほどだ。女王カスガには頭が上がらない。
俺が拠点を築いて四カ月と少し経った。
外堀も水が入って立派な水濠となり、拠点の西側には居住区も出来て木造家屋の建設ラッシュだ。
ヴェーダの知識を得た工兵達は、今まで培ってきた技術を飛躍的に向上させ、組織力と経験を十二分に発揮して大活躍している。
総面積約29万平米、坪に換算すると約9万坪に届いたガンダーラの領域、その領域内に在る家屋や橋などの建造物は、八割以上が工兵を中心にした妖蜂族によって建造されたものである。
魔族の建造物を発見次第すぐに破壊する人間達、それが原因で家屋の建築技術を失う結果となった南浅部の“最弱”達にとって、彼女達は正に救いの女神に思えるだろう。
実際、工兵中隊隊員に対し“熱烈なアタック(古い)”を繰り返す眷属が多く存在する。彼女達はニコっと愛らしく笑って相手を振るので、振られた相手は心が折れず、ストーカー化する率が極めて高い。
ストーカー化してしまった者は『ジャキ教室』と呼ばれる非常に厳しい戦闘訓練への強制参加と、後述するメチャの乱取り相手を強いられる。
発案者は当然、ヴェーダ副指令だ。彼女の監視からガンダーラの民が逃れる
更生した元ストーカー達は、現在ヴェーダ直属の特殊部隊『メーガナーダ』に編入され、軍事訓練の名のもとに俺の庇護下から一時的に抜け、南へ向かった。
隊員数七名、白目を剥いて旅立った彼らの雄姿を、俺達は決して忘れない。
忘れないが、今は大きくなった縄張りの事を考えているので、忘れよう。
駐屯地の砦は先日落成式を終えた。砦は木材と石材を組み合わせた五階建ての立派な物で、ワンフロアの床面積は2,500平米、約760坪。高さは約21m、六階建てのオフィスビル程だろうか、ジャキも「中部でも見ねぇデカさだ」と言っていた。
砦を囲む高さ12mの厚い石壁、幅10mの水濠がそれを囲み、鉄の板で覆われた木製の門は幅6m、高さは8mある。跳ね橋は門の幅と同じ。
神木倉庫に預けない食料等を保管する地下室と、東浅部へ抜ける地下道も造る。
穴掘りはコボルト達がやってくれる事になった。俺も手伝う。
妖蜂族が眷属達の家屋を優先的に建造してくれている為、砦建設の速度は少し落ちてしまったが、それでも二か月と少しで完成した。
拠点の東側は畑と栽培園を造っている。
東浅部を同盟相手の妖蜂族が完全に支配している状況なので、敵対勢力に侵入されて荒らされる心配の無い東側を農業用地に決めた。
現在は木を引き抜いただけの平地だが、移植した大木でガンダーラを隠すように囲み終わったら、俺が農地を耕す方に回る。
と言っても、現在のガンダーラは水濠に囲まれた場所以外も含まれているので、大木で囲むのも大変な時間と労力を要する。
俺や古参の眷属は、神像と神木を中心に水濠と土壁に囲まれた最初の範囲を“ガンダーラ”だと認識しているので、多数決で言えば俺達の方が認識を改める必要がありそうだが……
それ以外を含めるとしっくりこないんだよなぁ。
結局、あの場所に拘りがあって、特別にしたいのだと思う。
だがしかし、国か首都か聖地か、何処を指すのか分からん名前というのも、『幻の都』として悪くはないな……
大木に囲まれた幻の都ガンダーラ、どんな願いでも叶う幻の都ガンダーラ、その中心に雄々しく
あぁ、信者って言うか参拝客が増えるなコレ。
ガンダーラは国名、カンダハルが首都名、聖地は神像と神木が在る場所、こんな感じだな。
ただのゴリラが国だの首都だのと皮算用が過ぎるが、そこにロマンがあれば皮算用でも楽しいです。むしろ皮算用こそがロマンだよ。
ミステリアス路線で森以外に居る魔族を引き寄せて……
先ずは宣伝からだなぁ。
この世界の
うっひっひ。あふん。有り難う御座います。
さて、玄奘や孫悟空が何処に居るか分からんが、うちの猪八戒は狼達とマナ=ルナメル氏族を率いて、南浅部西側を制圧に向かっている。
ジャキを大将に据えた制圧隊は二十日前に出発した。
西側の制圧は既に終わっており、今は時計回りに北上して北浅部南側を東へ進んでいるらしい。ヴェーダは順調だと言っている。
そのジャキ率いる制圧隊に降伏した氏族の代表達が、数日前から続々とガンダーラ入りしている。
今日か明日には西側で最後に
降伏した者達はマナ=ルナメル氏族の上等な装備や容姿の変わり様を見て、ミギカラ達の説明から俺やガンダーラの実情を知ると、自分達も眷属の末席にとミギカラに懇願した。
その状況を把握していたヴェーダが『参上して帝王に拝謁願え』と、超上から目線でミギカラを通して彼らに伝えた。
こうして、数日前から貢物を背負った護衛を大勢連れた族長達の訪問が続いているわけだ。
ほとんど朝貢だが、来てくれた彼らにはしっかり“お返し”を与え、眷属化も問題無く終えた。
眷属化を果たした彼らは、俺が贈った干し芋やマハトミンC等の飲食料、麻布や木綿の布などを大量に背負い、鉄の短剣を渡されてホクホク顔の氏族長を先頭に帰って行った。
今回ガンダーラに来なかった留守番組の眷属化が終了するまで、西からの訪問者はあと数日途絶えないと予想される。
いや、この勢いだとガンダーラに転居する勢いだ。
それはそれで構わんが。彼らの繁殖力を考えると、第三水濠まで広げる必要がある。もうヴェネチアみたいに『水の都』にしてしまうのもイイな。
水路を張り巡らせて、小さな船を乗合馬車代わりに……
「け、賢者様ぁ、ご、午前の、て、手乗り神像様の、埋め込みがっ、……あの、終わりましたぁ……」
「あ? あぁ、メチャか」
男衆を出迎えた場所でボケ~っとしていた。イカンイカン。
俺に話し掛けた事を申し訳なさそうにして、メチャがモジモジしている。
これはイカンですね、スマンかった。ナデナデ。
にへへ、と笑うメチャ。これで服装がコレじゃぁなけりゃ、もっと可愛らしく見えると思うんだが……
木綿の肌着と麻布で作った柔道着を着たメチャは、どう見ても侍女に見えない。少ない髪の毛を頭頂から少し右にズラした所に麻糸で縛って『柔ちゃんテール』にしている乙女心が涙をそそる。
うん、可愛いぞ!! お前は可愛い!!
一応、巫女衆が裁縫スキルを修得して製作した木綿製女性用衣服なども有るのだが、メチャはスカート類を着用しない。
どうやらスモーキー達に襲われた事が悔しかったようで、俺以外の男性を常に警戒して道着を愛用している。道着の帯とかガッチガチに結んでます。
身動きの取れないチョーを絞め殺した事で彼女は一気にレベルを上げ、その後も熱心な稽古や狩りで技術とレベルが上がり、今では素手での戦闘なら妖蜂族やスコル&ハティを除き眷属中最強になっている。
しかし、メチャは男性との乱取り稽古や戦闘訓練では加減が無くなり、相手に怪我を負わせてしまうのが玉に瑕だ。
被害者が多く出たので、メチャとの稽古相手は俺かミギカラ親子、そして女性限定にした。
限定したのだが、例外は得てして存在するものだ。
前述したストーク更生訓練には続きがある。
訓練終了後にジャキから「メチャの所へ行け」と指示され、メチャの稽古相手として三日間、絞め技のみで構成されたメチャの“教育的指導”により、生と死の狭間を往復する事で『仮更生』扱いとなり、その中で体術の適性を見せた者はヴェーダの下へ送られるわけだ。
メチャの無慈悲な絞め技での強制的な生死往復体験は、俺が『説教』と柔道の隠語で名付けた為、眷属達もメチャの指導を『メチャの説教』と呼んでいる。
だが、『ジャキ教室』に参加した者達からは、ジャキが訓練終了後お決まりのようにストーカー達へ「メチャの所へ行け」と言っていた事から、通称『メチャ逝け』と呼ばれ恐れられている。
こんなに小さい体で、戦士達から畏怖される存在となったメチャだが、彼女のオドオドした態度や、チャームポイントである『柔ちゃんテール』が、一部のゴブリン紳士達には“ド真ん中ストライク”だったようで、彼女の温もりを感じたいが為に、自ら進んで説教道場に通う猛者も存在する。
業が深いな。
そんな彼女に午前中任せている仕事は、巫女衆と男性見習い神官である
東へ拡大したガンダーラの外周は歪な長方形になっているが、その周長は約29万平米の面積を囲うだけあって結構な長さ。
今回、神像を埋めた場所は東に伸びたガンダーラの歪な外縁付近、つまり、俺が開拓して木を引き抜いた平地の外側、ここまでがガンダーラだと俺が定めた範囲を超えて森の中に神像を埋めるので、やや広く見積もって南北420m、東西700mの長方形障壁が出来ると仮定すると、周長は2,240mで、障壁面積は29万4千平米となる。
ガンダーラという名の縄張り自体が曖昧な上に歪な形なので、ヴェーダでも詳細な面積や周長は正確に測れない。
実際の支配領域は南浅部の東西を制覇したのでもっとデカイ。って言うか、そこまで細かく気にしているわけじゃない。概算が分かればいい。
東の縄張りは範囲が広いので開拓予定地の間伐だけに留め、堀や土壁は未完成だ。いずれ水濠や何らかの施設が建造されると予想されるので、お隣のカスガ女王との話し合いも予定している。
どうやら、共同で南側に対人類用の要塞を造ろうとの話が出ているようだ。
フムフム、これは連絡を密にせねばならんですな。
それとなくオキクに話をしておこう。
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