第25話「多すぎワロタ」




 第二十五話「多すぎワロタ」




 今日も皆頑張った。

 既に日も暮れて、森へ出た眷属達も戻り、水路での騒がしい水浴びも先ほど終了した。


 今は駐屯地に皆で集まり、幾つあるか分からない焚き火を囲んで晩飯前の歓談を楽しんでいる。


 彼らは非常に楽しそうだが、俺はボッチです。

 特定の眷属以外は、俺と目を合わせずに恐縮しながら会話するので、こちらが気を遣ってしまい単調な会話になりがちだ。


 俺の話し相手と言えば、ジャキと妖蜂族の仕官や下士官数名なのだが、その数少ない話し相手達も、今は俺と離れて仲間達と楽しく騒いでいるので、飯が出来るまで邪魔しないように一人で何かする事にした。


 う~ん、何すっかなぁ……



『そろそろ針を製造しましょう。貴方なら鉄塊を指で引き千切って細く伸ばす事など容易いでしょう。仙術で自由に製造出来るようになるまで、力技で加工して製造の特技を修得しておきましょう』


「あぁああ針かぁ、やっぱり忘れてたなぁ、てへへ。よし、針を作ろう、麻布も木綿の布も有るし、糸もタップリ有る。服や布団なんかを作るのも楽しそうだ」


『巫女衆は裁縫を必修とします、裁縫に興味のある者にも指導しましょう。革製の物を製作する職人の為に太い針も製造して下さい』


「あぁ、革製品か。そうだな、太いヤツが要るよな。よっしゃ、で、針の穴はどうやって開ける?」


『アハトマイトできりを作り穴を開ける。または、【飛石】で砂粒を飛ばし穴を開ける。錐の場合は工兵数名に手伝わせると効率的です』


「なるほど。錐は作るが工兵に手伝わせるのは針が沢山出来てからだ。今回は飛石でやってみよう」



 早速、マハーカダンバまで急行し、預けてあった鉄塊を洞から取り出す。取り出す時は『預かり物リスト』から選べば瞬時に手元へ出現する。


 このマハーカダンバ倉庫は非常に便利で役立つので、今は眷属やジャキ達にも使わせている。預け物はアートマン様の監視の下、個人の管理となるので、決して間違いは起こらない。これ以上安全な『銀行』は無い。


 鉄塊を手に取り、神像に一礼して駐屯地へ戻る。


 針を失くさないようにウサギの革袋を用意して、黙々と“針金”を作り、それを千切って片方の先端を摘まんでみたが、ペタンコになって上手くいかない。


 そこで、アハトマイトの欠片を二つ用意し、欠片で針先をカチカチ挟みつつ、針を指でクリクリ回しながら先端を尖らせた。


 アハトマイトで針先を研磨して尖らせても良かったが、アハトマイトの表面が滑らか過ぎて上手くいかなかった。


 俺は飯が出来上がるまでに大中小合わせて三十本の針を作った。

 あとは食後に針の穴を開けて完成だ。


 毎晩作って千本超えたらやめよう。スゴイ飽きる。


 今晩作った分は、妖蜂族から貰った植物油を滲み込ませた麻布で包んだ。メッキ処理出来ないので、気休めの錆び止めだ。


 さ~って、次の作業は……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ば、馬鹿なっ……!!

 僕はゴブリンの繁殖力を侮っていたっ。



『以前お伝えしましたが』



 あ、ハイ。


 とにかく、ゴブリンの繁殖力についてであるが……。

 彼らは外敵を気にする事無く生活出来る環境さえあれば、その弱さを数で補う為『やるなら今しかねぇ!!』とばかりに全力で腰を振る。


 チョーの襲撃からふた月後の現在、南浅部中央から東浅部南側までのエリアを支配した俺の下には、三つのゴブリン氏族と、エッケンウルフの群れ二つが加わり、ガンダーラは妖蜂族の眷属数を差し引いても南浅部最大勢力となった。


 三つのゴブリン新眷属は以下の通り。



『ティク=ビナメル氏族』六十六名。男:二十四、女:四十二。

 氏族長:ナナメニ・ティク=ビナメル。


『ヴァギ=ナスキ氏族』七十二名。男:四十一、女:三十一。

 氏族長:カナリ・ヴァギ=ナスキ。


『ハードエ=スエム氏族』六十三名。男:十三、女:五十。

 氏族長:コカゲデ・ハードエ=スエム。


 合計:二百一名。男:七十八、女:百二十三。



 こんな感じにマハトマ・ゴブリンが増えたわけだが……

 彼らはセクースを自重しない。いや、しなくて構わんが、せめて赤ん坊が成体になってから種を仕込んでも良くないか?


 そう思ったのだが―― 考えを改めさせられた。


 四か月我慢すれば赤ん坊は成体になる。その半年間でじっくり子育てして、すぐに大人になってしまう子供との触れ合う時間を楽しんで欲しい。と、思っているのは俺とダークエルフのラヴだけだった。妖蜂族から同意が得られなかったのにはワケがある。


 妖蜂族は数人の王子以外すべて女性だ。

 一族のほぼ全てが女性として生まれる妖蜂族は、産まれてすぐ『働き蜂』や『兵隊蜂』として小さな個室が与えられ、親である女王と触れ合う時間など無い。


 父との触れ合いに至っては“不可能”である。

 妖蜂族の王子達は初めてのセクースを女王候補と致した直後、天に召されるからだ。一世一代の大勝負で腹上死、まさに男の鑑、天晴れである。


 そう言った理由で、ゴブリンの子育て触れ合い期間に対し、妖蜂族は『すぐに大きくなって一緒に働けるね』程度の認識しかない。


 これも種族の特性、そういった考えになるのも仕方が無い。


 だが、悪い事だけではない。ゴブリンもコボルトも妖蜂族も、子供達を一族全体で我が子のように可愛がる。そうやって愛情を注ぐ。今は眷属全体で愛情を注いでいる。


 かつて戦国時代の日本にやって来た宣教師の一人が、日本人の村全体で子供を可愛がり大切に育てる光景を見て、自国の大人達の子供に対する接し方を嘆く手記を残している。


 俺はそれを知った時、非常に誇らしかった。


 そう思った理由は多々あるが、それは置いておく。

 俺の理想とする親子の形と、眷属達が考える親子の形は少しばかり違うが、眷属全体から愛される子供達はどれほど幸せだろうか、そう考えると、俺の理想がやけに小さく思えた。


 俺が考える家族の単位は平均的な人間の基準で、それは間違った考えではないのだろうが、決して群れのボスが考えるべきではない小さ過ぎる基準だった。


 ゴブリン達も彼らのやり方で、短い子育て期間で“我が子と眷属の子”へ深い愛情を注いでいたのだ。乳離れして歩き回る子供を他の大人が可愛がり、その可愛がってくれた者が産んだ子を、また他の大人が可愛がる。


 とても安心出来る子育てシステムだ。


 高い防壁と大きな水濠、魔法障壁に守られた土地と強力なボス、豊富な水と食料、清潔な布と神気溢れる薬品類、自分が死んでも仲間が我が子を育ててくれると言う信頼、これだけ揃っていれば子作りしない理由が無い。


 幾つもの氏族が集まり、血が濃くなる恐れも無くなった。


 異種族であるコボルトやエッケンウルフも居る。まぁ、ウルフは魔獣だが、ゴブリンには関係無い話だ。一応、やめておけと言っておいたが、恋愛は自由だ。


 これだけ子作りに好条件が揃ってしまうと、あとは自然に任せるだけだ。



 で、任せた結果がコレだよっ!!



【マハトマ・ゴブリン、ゴブリン人口】


『マナ=ルナメル氏族』七十一名。男:三十六、女:三十五。

 *マナ=ルナメル氏族のみ新世代の新生児三十六名を追加。


『チキン=シャバゾウ氏族』四十三名。女:四十三。

 *この氏族はジャキガールズのゴブリンのみ。増減無し。


『ディック=スキ氏族』七十七名。女:七十七。

 *ここは巫女と侍女のみ。新生児は全て新氏族入り。


『スカト=ロウ氏族』百五十八名。男:七十一、女:八十七。

『ティク=ビナメル氏族』六十六名。男:二十四、女:四十二。

『ヴァギ=ナスキ氏族』七十二名。男:四十一、女:三十一。

『ハードエ=スエム氏族』六十三名。男:十三、女:五十。


『新氏族マナ=ルスキ氏族』二百九十二名。男:百五十二、女:百四十。

『新氏族ティク=ビスキ氏族』八十一名。男:四十二、女:三十九。

『新氏族スカル=ナメル氏族』六十四名。男:三十一、女:三十三。

『新氏族ヴァギ=ナメル氏族』八十八名。男:四十、女:四十八。

『新氏族スカト=スエム氏族』七十五名。男:四十一、女:三十四。


 合計:千百五十名。 男:四百九十一 女:六百五十九名。

 注:ジャキガールズ、ホンマーニ、メチャ以外は現在も妊娠。


【マハトマ・コボルト人口】

『マッシ=グラ氏族』百二十一名。男:五十一、女:七十(全員妊娠)。



 現在の総人口:二千八十八名

 魔獣眷属数:五十六匹



 多すぎワロタ。







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