第14話 浄化のブレス。

 すうすうと寝息を立てている少年カイを洞窟の端に寝かせ、あたしはその周囲を透明なアウラの盾で覆った。


 風のアウラ。あたしのこの万能の盾、マギア・アウラクリムゾンの名前の元にもなったギア・アウラがこの子と外界とを断絶するように覆う。


「これで」

 しばらくは大丈夫だろう。


 肉体の傷は癒した。

 もう起きて歩いても、走ったりすることだってできるだろう。


 でも。

 大勢の魔物に襲われた恐怖は、きっとこのこのトラウマとして残っているに違いない。

 今起こしても、きっと心が耐えられないかもしれない、と、そう思ったあたしは。

 彼にスリープの魔法をかけてここにしばらく寝かせておくことにした。


 街まで連れ帰ってあげる余裕はない。

 かといってダンジョンの外に連れ出したとしても溢れた魔獣に襲われないとも限らない。

 多分、この漆黒の魔窟を塞いでしまわないと、この先魔獣が溢れ人の街にも甚大な被害をもたらすだろう。

 そんな未来しか見えない。


「ごめんね。帰りに絶対拾ってあげるから」


 そう言って、あたしはその場を離れた。


 ちょっと急がないと。

 きっと、最下層にはダンジョンボスが生まれているはず。


 昨日の今日だから、そのダンジョンボスがノワールの可能性はまだ薄い。

 だから今のうちに。


 ⭐︎⭐︎⭐︎


 下にいく階段はすぐに見つかった。

 蛇蝎のなんとか達ももう下層に行っているのかな。

 ここまでの道では遭遇しなかった。


 まああんな奴らはどうなったって知らない。

 瀕死の状態で出くわせば、しょうがないから辻ヒールくらいは飛ばしてやってもいいけれど。

 そんなことを思いつつ急ぐ。


 この階層のモンスターはさっきの集団で全部だったのかな?


 まあこの下は確かゴブリンとは違うのが出てきた気がするし。




 あたしは階段を飛び降りるように滑り降り、そしてそのまま次の階層への階段を目指し走る。


 途中、グールの集団を見かけたけどエクスカリバーひと薙ぎで対処する。

 ああもう臭いなぁ。

 このまま普通にダンジョンを踏破してたら日が暮れちゃう。


 もしかしたらあの子、召喚ってできるのかな?


 左手に、聖竜エレメンタルクリスタルの召喚魔法陣を展開。


 この洞窟サイズに小さくなった召喚竜、エレメンタルクリスタルがその白銀の体を実体化させた。


「クワオーン」

 聖なる氣を纏ったその白銀の竜はあたしの頬にほおずりすると、そううれしげに鳴いた。


 あは。

 ちゃんとこの子までこの世界にこられたのね。


 あたしはエレメンタルクリスタルの首筋を撫で回し、ハグすると。


「ドラコ。久しぶり」


 そう声をかけた。



 マギアクエストでは戦った相手が時々仲間になりたそうにこちらをみてくる時があった。

 こちらの能力が完全に優った時。もしくは相性の良いアイテム等を使用したときに現れるそんなビジョン。

 ティマーのスキルを取得していることが条件ではあったけど、そうして仲間にしたモンスターには独自な名前を付けることができた。


 この聖竜は聖魔法を操りそのブレスはアンデットを浄化する。

 あたしはドラコに、

「いい? ドラコ。この先にいるアンデットたちを浄化してちょうだい。お願いね?」


 そう声をかけるとにっこりと微笑んだ。


「クワオーン!」


 ドラコもわかったよとばかりにそう答えてくれて。


 そのまま前方に向き直り、


 バオーン!!


 と、まずは浄化のブレスを放ったのだった。


 白銀の粒子が舞い上がり周囲を明るく照らす。

 ドラコはそのまま勢いよく飛び出して、あたしのお願いどおりにアンデットモンスターの掃討に向かった。


 ああ、こうしちゃいられない。

 あたしも頑張って追いかけなきゃ。


 ドラコのブレスのおかげか周囲の空気まで清められ、あの臭くて臭くてどうしようもなかったグールの腐ったような匂いも消えた。


 うん。

 やっぱりドラコを呼んでよかった。

 っていうか呼べてよかった。


 この世界がマギアクエストの世界の近似世界なのか? と、そう思っていたうちは、彼らのようなティムしたモンスターまでまさか召喚できるとは思ってもみなかった。

 そこまで?

 そう思うのはやっぱりしょうがないよね。


 だけど。


 あたしの能力、魔力特性値が無限大∞であったこと。

 アイテムボックスがちゃんと存在したこと。

 あたしの所有していたマギアまで、ちゃんとあったこと。

 ここまでくると、これは似たような世界というだけではもはやあり得ない。

 そう思えた。


 っていうか。

 これはもはや、似たような世界ではない。

 マギアクエストの世界そのものであると断言するしかないだろう、と。


 であれば。


 その推測が正しいのなら。


 あたしの召喚獣たちも、ちゃんと現実として存在しているんじゃないかって。


 あは。


 うん。賭けに勝った気分。


 ドラコがこうして召喚できたってことは、他の子達にも会えるってことだ。

 それってなんて嬉しいことだろう。


 あたしは一人じゃない。


 あたしには、このこたちがいるんだもの。




 そうして。


 少しハイになったあたしは飛び跳ねながらドラコのあとを追った。


 途中でボロ雑巾のようになって転がっている蛇蝎の面々を発見したあたしは、そいつらにちょこっとだけ辻ヒールを飛ばしておいた。


 まあね。

 嫌な奴らだったけど、死んじゃうのを見過ごすのは寝覚めが悪い。

 しっかり助けてやろうとは思えないけど、それでもなんとかこれで命だけは助かるだろう。


 そんなふうに横目で眺めながら、あたしはその場を後にした。


 次の階層もやっぱりアンデットのウヨウヨいる場所のはず。


 このままドラコに浄化を任せ、つっきるよ!





 ⭐︎⭐︎⭐︎




 そうやってなんとか最下層まで辿り着いたあたし。


 大きな扉が目の前にある。


 ここを開けると大広間。


 ダンジョンボスがいるはずだ。

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