29. 希望の星王
「く——ッ……。まさ、か、こんなところで我に歯向かうニンゲンに出会うとは……」
炎のように揺らめく濃い紫色の瞳からは、明らかに動揺している様子が伺える。
ここで退散してくれるのが好ましいが、死を司るとまで豪語するモンスターが簡単に逃げ出すはずもない。
「フハハ……キサマが我に匹敵する強さの持ち主だということは分かったぞ。認めてやろう。ただ、それなら数で圧倒している我に分があるということ。少し魔力の消費は激しいが、我が真の
瞬間——地面に巨大な魔法陣らしきものが浮かび上がり、ピンクに近い紫色の輝きが周囲を照らした。
壊滅状態に追い込んだはずの
「どうだ、この圧倒的な力量! もはや
つい先程まで恐怖していたのは己だというのに、自軍が完全復活したことで自信を取り戻したのか、態度は一変し嬉々として語る。
確かに
倒せば倒すほど力を増すという厄介な条件付きなので、長期戦になれば、やがて敗北することは目に見えている。
ただ倒すことで、ピンチに陥るのであれば——。
"——倒さなければいいだけだ!"
俺が不敵な笑みを浮かべたことで、
空が茜色に染まる夕暮れの中、俺は覚醒スキルである《
一瞬にして七色に煌めく領域が展開され、宙を覆い隠すほどの光の星剣を創り出す。
「何だッ!? こ、これは、スキルなのか!?」
「《サウザンド・スターレイン》! それがこの技名だよ」
右手を前に突き出し、伸ばしきった五指をグッと握る。
それと同時に、七色の星剣はまるで虹の雨のように降り注いだ。
……いや、目論見通り倒さないようにしていたのだ。
星剣が刺さり続けることで、
「あ、あああり得ん。こ、ここまで完璧に、我が下僕たちの動きを封じただと……いや、待てよ。これほどの力を維持し続けるのは、さぞかし辛いのだろう?
《サウザンド・スターレイン》を維持し続けるのは、想像以上に負担がかかりキツい。
少しでも力加減を間違えると、倒してしまいかねないため緻密な計算を重ねて技を調節していたため、余計にだ。
そのような無茶がこの大軍勢を相手に長続きするはずもない。
今の内に、
だが、星剣をこれ以上増やす事も出来ない……。
『雷電鳴光』では威力不足だろう。
どうする……?
どうすればいいんだ!?
頭をフル回転させるも解決策は思い浮かばない。
——その時!!
頭上より光の欠片が流れ落ちた。
一瞬敵からの攻撃かと警戒したが、その輝きは温かく、不思議と力が溢れ出るような感覚を覚える。
『スター・ルミナス』のスタッフたちの気持ち。
美月さんと美夜ちゃんの心。
そして、留美奈の切なる願い。
その全てが混ざり合い、俺の中で更なる力に変換される。
身体からは満たされたエネルギーが放出され、いつしか煌めく金色のオーラが纏われている。
——この状態なら、あの剣が使えるかもしれない!
すかさず『異世界魔王の覇剣』を【クラウド】から出現させる。
淡く光を放つ両刃が、喜びを露わにするように一際鮮明に輝く。
【魔王スキルLV.99】でこの剣を扱うのは、不完全な状態。
強力な技を発動させるのは難しいが、振るくらいのことは出来そうだ。
「その剣は
そう話す
身体の周囲には、宇宙空間に匹敵するほど虚無に満たされた漆黒のオーラが放たれた。
【検索】したところによると、漆黒のオーラの正体は死の力を凝縮したものであることが分かった。
半永久的に尽きることのない膨大な魔力量が、瞬時に身体を再生させるため、攻撃を加えても霧や影のようにかすめてしまうようだ。
いくら『異世界魔王の覇剣』が強力とはいえ、敵本体を捉える事が出来なければ倒すどころか、ダメージすら与える事は不可能だ。
今のままでは心細い。
せめてもう一振り、同じくらい強力な武器が……。剣があれば……。
そんな俺の望みは意外な形で叶えられる事となる。
「星歌くん————ッ!! これを受け取って!」
背後から聞こえて来たのは、紛れもなく留美奈の声。
どうして留美奈がここにいるんだ……?
そんな疑問を抱きつつ、俺に向けて投げられた一振りの剣をキャッチする。
少し細身の刀身に、美しすぎる装飾の入った純白の柄。
初めて手にするが、不思議としっくりくる。
磨き抜かれた刀身が、その鋭利さを誇示するかのようにキラリと反射する。
誰がどう見ても素晴らしい業物だ。
「星歌くん! 獅子王会長からの最期の言葉と贈り物だよ! 『私の全てを費やした最高傑作で、かつて最強と呼ばれた【剣姫】が振るっていた最強の剣。今のキミにすらその剣は扱うのは難しいだろうが……、必ず力を貸してくれるはずだ。日本の未来を
留美奈の言葉に、心が震わされる。
それは【剣姫】——つまりS級プレイヤー、七瀬 咲花が使っていた剣だった。
黒と白の二刀を構え、俺はそのまま地面を強く蹴る。
フルスピードの猛突進。
紛うことなき一瞬にして、
その攻撃に技名はない。
ただ速く、ひたすら速く剣を振るのみ。
速度を追求した神速の剣技——《ノーネーム》。
黒と白の二対の剣で、猛攻を仕掛ける。
先の話の通り実体が無く、影のように空を斬りまるで手応えを感じない。
強力過ぎるが故に、完全に適応しきれていないため、二刀が何トンもの重りに感じた。
それでも俺は攻撃の手を止めない。
九撃!
十撃!!
放たれる剣撃から、膨大なエネルギーが放出され爆けるスパークを生み出し始めた頃……。
俺の両隣に薄らと二人の女性が姿を現す。
彼女たちはまるで残像のように見えるが、間違いなくそこに存在している。
右側には、輝かしいプラチナブロンドの長い髪に、黒と青をモチーフにしたミニスカートにローブ風の服装。
頭に乗せられた白金色のティアラが特徴的な少女の姿。
初めて目にするはずだが、それが自ずと誰であるかを理解した。
『時が来たわ、私の意志を継ぐ新たな魔王……いえ、星王よ。その剣と私の
『希望の魔王』がそう話し終えると、そっと俺の右手に手を添える。
すると同時に——。
———————————————————————
[【魔王スキルLV.99】のレベルが上がりました]
[【魔王スキルLV.100】に到達しました]
[上限に到達したため【アップデート】が可能です]
[【アップデート】を行いますか?]
・・・・・・
・・・
[【魔王スキルLV.100】のアップデートに成功しました]
[新たに
[これまで獲得した『異能力』の全てがオリジナルのものへと昇華されます]———————————————————————
魔王スキルが……フルスペック仕様の【希望の星王】へと昇華した!!
その力の一端を発揮するかのように、驚くほど軽くなった黒の剣に心が昂る。
最中、今度は左側の女性が語り始める。
ボブくらいの黒髪がキュートであり、しなやかで細身の体格。
無邪気そうな様子で大人びた雰囲気が垣間見える部分は、何処となく愛ちゃんへの面影を感じる。
『かつて私が叶えたかった目標。そして旦那に託した夢を、今度はあなたが切り開くのよ。日本の未来のために。心温まる日常を、明日へと繋ぐために——さあ、行くわよ!』
そう話す咲花さんも、俺の左手にそっと手を添える。
黒と白の剣は目を覆いたくなるほどの輝きに包まれ、剣撃は先程の数倍速く繰り出される。
それでも俺の攻撃は、実体の無い奴を捉えることが出来ない。
「フハハハハハハハハハハハッ! オマエの攻撃は我には届かぬ。亡者を率いる不死の覇王たる我と、ただ借り物の力でイキるだけのニンゲン風情……どちらの方が格上かは一目瞭然であろう?」
限界を迎えつつある状態に対し、余裕を見せる最大最強の敵を前に心が折れそうになる。
くそ……ここまでなのか……。
次第に腕の筋肉が硬直し始め、動かすことを止めたい衝動に駆られる。
だが、もしここで止めれば疲労でもう剣を振るうどころか、持ち上げる事すら難しくなるだろう。
あとほんの一押し。
最後に何かあれば……。
そう考えた刹那——。
四方八方の宙から溢れんばかりの光の欠片が、出現する。
それは天を完全に覆い隠してしまう比べ物にならない数で、流星の如く降り注いだ。
その輝く星々の全てが俺を中心に集約されていく。
人々の心……祈り……。
そして、
全ての日本人がドローンのライブ映像通して、俺が懸命に剣を振り続ける姿を観てくれていたのだ。
彼らはその姿に心打たれ、両手を胸に掲げ目をつむり、祈りを捧げてくれていたのだった。
その時、俺はようやく気付いた。
自分の『開花スキル』が、既に目覚めていたことに。
スキル名は【
期待も想いも願いも、全てを一手に引き受けて力として発揮するスキル。
今まで開花しなかったのは『無能』と蔑まれてきたため、俺に希望を抱く人がほとんどいなかったからだった。
集約された様々な色合いの星々は、やがて溶け込むように体内に流れ込んだかと思うと、想いの強さを映えるように、地上で最も美しい虹色の輝きを放つ。
その輝きは全身を……。
そして両腕とその先にある黒と白の剣先にまで流れ込むと、よりいっそう煌めいた。
「ウゥ……何という輝きだ……。だが……光っているだけのまやかしなど、我が『死』の力で……」
「
死闘を繰り広げた末、とうに限界を超えている両腕に最後の力を込める。
速く……。
もっと速く……!!
「う……おおおおおおお————————ッ!!」
虹色に煌めく剣が、七色の軌跡を引きながら闇のオーラを斬り裂いていく。
無論、
俺の剣撃の速度に、再生が全く追い付けていない。
「バ、バカナッ!! 我の死の力よりも速く、濃く、強い……だと!? ニ、ニンゲンの想いの力は……『死』をも超えうるものだと言うのか……」
剣を振るうたび、日本を……いや、世界を震わせるほどの閃光と爆発が放たれる。
二百四十八撃。
——これが
二百四十九撃。
——想いの力、
二百五十撃。
——
次の二百五十一撃目……。
この一撃こそが勝利を決定付けるものとなった。
何とか再生を目論む
四方八方に光の柱を伸ばしながら、悔しげに瞳の中の紫の炎を静かに揺らす。
「やめ、助けて……くれぇぇeeeeee———ッ!!」
最期の瞬間!!
やつは悲痛な声を上げて……恐るべき規模の光の爆発を起こしたかと思うと、跡形も無く消し飛んだ。
——その場で完封し続けていた、屍の大軍たちとともに。
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