病気になった
プニぷに
入室したら「入院です」
病気になった。
僕はまだ子供だ。けれども僕は手術をした。入院して、腕に針が刺さりっぱなしで、そこから管がいっぱい繋がっている。同室には病気の子供たち。笑顔で、元気で、それでも彼らは病人で、何より僕も病気なんだ。
病気になった。
家族は「治るよ」と言ってくれた。お医者様も「頑張ろう」と言ってくれた。だから僕も頑張らないといけない。毎日薬をたらふく飲んで、毎日針を刺されて血を抜かれる。泣いてはいけない。苦しんではいけない。僕が病気になって病人になった以上、僕は誰より元気で明るくいなくちゃいけない。僕より家族の方が深刻な病を患っているみたいだ。
病気になった。
僕は退院できた。もう身体に針はないけれど、それでも薬はついてくる。一日三回。毎日飲む。忘れたらきっと死んでしまう。怖くて怖くて仕方がない。だから一生懸命飲む。頑張ってのむ。何より、忘れたらお医者様に怒られるかもしれない。家族はすごく怒る。それが怖くて薬を飲む。
病気になった。
あの日から何年経った? 僕はまだ病気だ。自分と周りのために薬も針も医療の刃もその身に受けて、自責に苦しみ泣いた。だって自分のせいだと嘆く母の、狂った様子が僕を傷つけるから。今までの何より痛かった。
病気になった。
気づけば同室の子供たちは死んでいた。生き残ったのは僕一人。僕はみんなが死んでも何も思わなかった。最低だ、自分一人生き残って。そう思ったら今度は同室で過ごした日々を思い出した。針や病気の怖さをお互いが支え合って生きていた。僕は生きなくちゃいけない。
病気になった。
思い詰めすぎた。新しい病気だ。友達に言われた。僕は否定した。家族は妄想だって言ってくれた。僕は否定のために勉強した。僕は病気だった。
病気になった。
毎日がおかしい。気づけば母親より僕の方が狂っていた。いつから病気になったのか。いつまで僕は病気なの? どれだけ僕は病気なの? 分からないから勉強した。僕は酷い病人だ。今は心身ともに病気の病人。もう嫌だ。
病気になった。
病気になってからとても時間が経った。子供だった僕も大人になって、勉強のおかげで心も良くなった。母親も正常になってきて、身近な世間も社会も変わっていった。だけど僕は病気だ。いつまで経っても病気のままだ。
病気になった。
現実は変わらない。僕の病気は治らないと知った。頑張った時間の分だけ絶望した。勉強していたのに、そういう病気だと知っていたのに、幼い希望がずっと心を患わせていた。また病気だ。まだ病人だ。
病気になった。
僕の人生を狂わせた張本人。それが僕の中でまだ生きている。コイツのせいで友人は死んだ。母は狂った。家族は壊れた。僕は心を病んだ。病気は周囲を病気にした。そしてもう一度僕を病気にして、病人にした。僕は何もできなくなった。病気だ。これはきっと病気のせいだ。何もかも病んでいるんだ。
病気になった。
誰にも褒められなくなった。病気のせいだと諦められた。病気だからと断られた。病気に悪いと食べられなかった。遊べなかった。何もできなくなった。世の中のほとんどは僕の病気に悪いらしい。毎日頭が病気になる。毎日病気が頭をよぎる。これはきっと病気だ。病気が悪化してるんだ。
病気になった。
医者は役立たず。家族も役立たず。薬も役立たず。僕も役立たず。
医者は僕を生かそうと。家族は僕に頑張れと。薬は進行を遅めようと。病人はまだ生きているだけなんだと。
気づいてしまった。病気は当人を蝕み、家族の心と体と経済を蝕む。蝕んで蝕んで蝕んで、それでも生きてる奴なんて、きっと家族の病気だ。
僕は病気になった。
病気になった プニぷに @sleet1025
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます