中二病の息子
折れた綿棒
謎の組織系 VS 式神・妖怪退治系
前編
仕事が終わった俺はいつもの様に最寄り駅まで電車で揺られ、駅から家の間で”今日のおつまみ”をセレクトしていたら妻からの連絡が入った。
『今日は私も飲みたいから好さげなの頼んだ!』
この一文を読んだ時点で俺は気を引き締めて記憶の中にある一定金額内で妻の好きなものを真剣に吟味し始めた。
何故そんなこと?尻に敷かれてるのか?って思うかもしれんがこれは俺なりの処世術だ。
普段飲まない妻が家にあるものでなく、お酒を飲むように準備をしてくれと言っている。
わざわざ私もお酒を飲みますと俺に宣言するのは何か有ったと考えていいだろう。この準備には俺の心の準備も含まれていると勝手に思い込んでいる。
なぜか女の人って2つ目の隠された意味とか入れて”察しろ”みたいなこと偶にあるじゃん?
そーゆーのめんどくさいって感じる人も多いけど俺はいつもダブルミーニング的なこと入れてくる”俺の嫁めっちゃラッパーやん”て感じで考えるようにしてる。
これは俺の15年間の結婚生活で編み出したストレスを溜めずに妻と仲良くする小技だったりする。
そんなことを考えている内に自宅に到着、玄関を開けて家に入ると急ぎ目にスーツから着替えて下着とワイシャツを洗濯籠に突っ込み。
待っている妻のもとへ向かう。
仕事終わりの俺に気を使ったのか小一時間はのんびりとした話が続き、ついに妻がちょっと重要な話があると切り出した。
イスに持たれていた妻は姿勢を正すと机に両肘をつき両手を口の前で組んだ。まるで今から○ヴァに乗れと言われるかのようだ。
そんなに大事なのかと少し焦りながら妻の言葉を待った俺はその後告げられた事実に冷や汗をかいた。
『どうやらA君(中3の息子)が、”とある本”を読んだことを切っ掛けに”特別な力”を使えるようになったら”謎の組織”に狙われるようになったみたいなの。』
真剣な重々しい雰囲気から妻はそんなことを言い出した。
『私たちにも心当たりがあるでしょう。ついにあの子にも…。恐れていた事が…。』
『あ、あぁ。しかもあ母さん(妻)から”とあるの本”と”謎の組織”を、俺から目と左腕に封印していた”特別な力”を受け継いだのか…。』
『仕方ないわ、元中二病と元中二病の間に生まれた子だもの。純潔よ、予想はしていたわ』
俺たちは、自分にもそんな時代があった懐かしさ・自分たちよりも設定てんこ盛りな息子への残念な気持ち・妻と二人でこんなことしている自分への虚無感をビールで流し込んだ。
俺たちは一区切りをつけるのにつまみを口にし新たなビールの栓を開けてグラスに注いだ。
『私としてはこれ以上こじらせて中学時代を黒歴史にする前に気づかせてあげたい。短期間ならノリでの一緒に楽しんだり、笑ってくれるだけで終わるからクラスで浮いて孤立して虐めに発展する前に…。そんな経験をするのは私だけで十分よ…。』
酔いも入って不安になったのか妻の目にはうっすらと涙が浮いていた。
俺は手を伸ばし軽く頭を撫でると『俺たちが黒歴史からの脱却を手助けしよう』と告げた。
『私を虐めと中二病から救ってくれたのも、何処かの力を封印していた誰かさんだったものね。ふふっ』
『う、あれは忘れてくれ。でもあの時は死地に向かうかのような一世一代の大勝負だったんだからなぁ~』
『今になるとあの時助けてくれたのはかっこよかったわよ。当時はあそこまで拗らせた人を見て自分がそうなりかけてることに気が付いて一気に目が覚めたけど。そういう意味でもあなたはヒーローね。』
妻はそう言ってひーひー言いながら笑った。
まぁ何があったのか軽く説明すると。
中二病を患った妻はちょくちょく変な言動をするようになり、当時の仲良かった陽キャ女子グループから一緒に見られたくないと羽生られいじめられるように…。
違うクラスだった俺は帰りに数人にカバンで小突かれて笑われていた妻を発見。他クラスで虐めがあるって聞いていた俺は、そこに陽キャ男集団が合流して”やばい”と思い、当時面識のなかった妻の前に割り込むように入っていった。
肩幅より少し広く足を開き腰を落とし、ぶら~んと下げた左腕にマジックペンで描いた入れ墨もどきを右手で押さえ『いじめは見過ごせない、引かないのであれば俺が相手になろう。今は力が荒ぶってうまく制御できないから手加減できないとは忠告しておく。』と宣言。
周りはシーンと静まり、なんか変なの来た早くいこーぜってなった。
その後、妻は自分以上に拗らせた俺を見て自分の言動が恥ずかしくなり次の日に『昨日の変な人見てから自分が恥ずかしいことしてたって気が付いた。ごめん』と友達に謝り中二病を完治するのだった。
一方俺は、後日その陽キャ男集団に呼びだされ『あ、俺このあと詰められる』なんて考えながらガクブルで玄関ホールに向かうと、なぜあんな奇行をしたのか茶化されながら質問された。
『いじめられてると思って助けようと必死でした。正直めちゃめちゃ怖くて足がプルプルしてました。』と答えると陽キャは大爆笑。
あ、この感じ俺をボコボコにする感じじゃないと分かり安心した俺は『正直、特殊な力とか無いって自分が一番分かってるんでコテンパにやられるかもってチビりそうでした』と言った俺を陽キャ達は気に入りそのままハンバーガー屋へ。
服や髪型などを色々連れまわされながらつるむ様になり、卒業後に見事高校生デビューを決めるのだった。
妻とは高校で再開し、高校デビューを決めた俺とギャル系から清楚にシフトチェンジしてクラスの人気を集めていた妻はひそかに二人で漫画収集活動を共有し交際することに。結果今に至る。
そんな過去を思い出しながら
『自分より拗らせた人と合わせれば目が覚めるかもな』と提案してみる。
『確かにそうかね、私がそうだったから現実味があるわ…。でもそんな子を見つけるのが大変ね。設定がかけ離れている子でも代用できるとは思うけど、どのみち大人が用意するには難易度が高いわ。』
そんなことを話しながら俺達は就寝の準備を始めた。
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