光と夢幻のルゥスリィス
抄録 家逗
祈りと願い、巡る仲間
プロローグ
ルゥスリィス
鐘の音が聴こえた。
——リンゴーンッリンゴーンッ。
まるで産まれたばかりの赤ん坊のように激しく鳴く鐘は、俺たちの頭が冴えるまで止むことはなかった。
「……っ!痛」
遥か上部から差し込むわずかな光で、周囲の様子がかろうじて確認できた。
石で作られたベッド?……いや、祭壇と言った方がしっくりくるかもしれない。そこに俺を含めて数人が寝かされていた。まだ、見えないところにもいるかもしれない。
冷ややかで硬い無機質な祭壇から起き上がり、身体の痛さに少し声が漏れる。
「だ、大丈夫?……いててっ」
隣の祭壇から起き上がった同い年くらいの男が声をかけてくる。
「……そっちこそ」
長い間錆び付いていた機械のように動かしずらい身体を必死で動かし、どうにか祭壇に腰掛けるような体勢にする。
よく耳を澄ませば、周囲で戸惑ったような声や、俺たちのように話をするような声が聞こえる。同じ境遇の仲間という言葉が、俺の思考に少しの安堵を与えた。
——ゴゴゴゴゴッ。
少し離れた場所で何かが動いた音が聞こえる。音のした方向から、微かに風の匂いと揺らめく光が見える。
人だ。
直感的にそう感じた俺は祭壇から降り、音のした方へと歩き出す。どうやら同じことを考えた人は他にも居たらしく、自然と全員が同じ方向に歩いて行った。
音の正体は巨大な門だった。
何かを入れない為か、何かを閉じ込める為か……いずれにしても、簡単に開けることなどできないくらい分厚い門だった。
「すごいな……」
前の方を歩く男の声がそう言った。
門をくぐると強い風が俺たちに自然の匂いを運んでくる。空は無数の星で埋め尽くされ、赤と青の2つの月は、一際大きく輝いていた。
「月が2つだなんて……」
おかしい。……なんでおかしい?この空は、多分初めて見た。だから月が幾つあるとか、おかしいとかおかしくないとか分からない……と思う。
「綺麗やなぁ」
隣にいた同い年くらいの女の子がそう言った。
「……そうかな?」
俺は不気味に見えるけど。と思ったが、続きは言わなかった。
「ニュービーの諸君!!よく集まってくれた!!」
突然の大声に全員が一斉に振り返る。そこにはスキンヘッドの顔に無数の傷痕があるヤクザみたいな筋肉だるまが立っていた。……あれ?ヤクザってなんだっけ。
「この世界ルゥスリィスは君たちのような未来有望な若者を受け入れる!そして我々の住むアンファンの街は迷える新米諸君を歓迎しよう!さて、君たちには選択肢が与えられる。このまま1人で生きていくか、俺たちの傭兵団に入団するかだ!」
傭兵団という単語。そして突然与えられた2つの選択肢に、数人がざわざわし始める。だが、筋肉だるまは慣れた様子でそのまま説明を続けた。
「もちろん前者で生き残った者もいるが、あまりオススメはしない。ここアンファンの周囲には無数のモンスターが生息している。戦い方を教わらずに生きていけるほど、世の中甘くないってことだ」
急にモンスターとか言ったかと思ったら、生きるか死ぬかみたいな重い話が始まって、正直俺の頭は付いていけてなかった。
「後者であれば俺たちの仲間が生き抜くための術を授けよう。前者を選びたいやつだけ俺の前にきてくれ」
少しだけ待つそぶりをした筋肉だるまは誰も1人で生きていく選択肢を選ばなかったことに満足そうに頷いて、話を続けた。
「素晴らしい!今日から君たちは傭兵団の一員だ!新たな仲間となった君たちに改めて自己紹介をしよう。俺の名前はサンタナ。傭兵団ではスカウトと導き手をやっている。道に迷った時は俺を訪ねてくると良い」
わざとらしい身振り手振りで俺たちにサンタナと名乗った男の話は本題に入る。
「さて、いくら人材不足といっても誰でも傭兵団に入団させるわけにはいかない。簡単な入団試験を2つ受けてもらう。1つは、師匠をみつけて職業に就くこと。もう1つは、この団証を50シルバーで俺から買うことだ」
そう言ってサンタナは、自分の首にかかっている団証を見せる。すると、サンタナの後ろに控えていた2人の女性が、俺たちに簡易的な作りの皮袋を配り始める。
「どうぞ」
「あ、どうも」
感情のカケラも感じられない女性から皮袋を受け取ると、中を開けて確認する。中に入っていたのは、数枚の銀貨と鉄で作られた親指程のサイズの薄い板だった。
板は2枚組で、端の方に穴が空いていて、そこに紐が通してあった。
「今配られたのは銀貨25枚と仮団証だ。銀貨は1枚で1シルバーだ。これを使ってうまく50シルバーを集めろ」
今の話を簡単に言えば、今配られた銀貨を倍にして返せということだ。
「ひとつだけ入団祝いとして教えておいてやろう。情報は時に
言うだけ言ってサンタナと2人の女性は街明かりが見える方へと去っていった。
そのままサンタナに付いていく者、勧誘を始める者、立ちすくむ者と皆、様々な行動をとっていたが、俺は何をしたらいいのか判断できなくて、その場に立ちすくんでいた。
「オイ。俺と一緒に来い」
低く響く声に反応する。そこに立っていたのは、人でも殺したことのあるような鋭い目付きで黒の短髪がよく似合う男だった。
男の身長は180センチ程で、164センチの俺は見上げる感じになっていた。
「え?お、俺?」
威圧感に圧倒されながらも、必死に声を絞り出す。
「違う。後ろのお前だ」
どうやら違っていたみたいだ。勘違いしてしまった恥ずかしさと、誘われなかった恥ずかしさで全員に聞こえるんじゃないかってくらい心臓が強く脈打つ。
「僕?まぁ、とりあえず名前くらい教えてよ」
誘われていたのは、俺の隣の祭壇に寝かされていた男だった。優しそうな声に優しそうな顔、170センチ後半くらいの身長。一目で「あぁ、コイツはモテるんだろうな」と思ってしまうような雰囲気が出ていた。
「俺はエイト。お前は?」
「僕はホダカ。よろしく」
2人はがっちりと握手を交わす。それを居ないような感じで目の前で繰り広げられている俺の身になってほしい。別の場所でしてくれよ。
そう思って場所を移動しようとした時だった。
「悪いけど誘いは断らせてもらうよ。もう彼と組むことにしてるから」
そう言ってホダカは俺の肩に腕を回す。
「……そうか。まぁ、いい」
エイトはそれだけ言うと次の人に声をかけに行ってしまった。
「組むって勝手に……」
「あれ?ダメだった?」
「……ダメじゃないけど」
「じゃあ決まりだね」
多少強引なような気もするが、悪い気はしなかった。
そのあとエイトに声をかけられずに立ちすくんで残っていた3人に声をかけて、5人で組んで行動することとなった。
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