錬成彼女〜彼女が欲しかったので創ったら色々凄いことになりました〜

桜城カズマ

第1話「今日は転校生が来ます」

薄暗い部屋の中で、電子機器の光だけが僕の姿を照らす。


「よし、よし……!」


僕はパソコンに映し出される数値を見てガッツポーズをして、そこら中に伸びているコードの先……全裸の女の子が入っているガラスケースを見る。

ガラスケースの中には水が一杯に入っており、時折女の子の口元から気泡が出る。

女の子の容姿は整っており、まさしく『造られた』ように整っている。

腰ほどまである長い黒髪が、ケーズの中でゆらゆらと揺らめく。


「ついに……ついに完成した」


パソコンが完了のサインを出したのを見て僕は小さく喜びの声を出した。

ついに、僕は「彼女の錬成」に成功したのだ。



☆ ☆ ☆ ☆



彼女が欲しい。健全な男子高校生なら誰しもが一度は思うことであろう。

しかしその願いが叶うのはほんの一握りだけであり、夢を持つその大半が夢半ばに高校を卒業していく。

そして僕、成田錬太郎もその夢を持つ男子高校生の一人だ。


「今日は転校生が来ます」


どこか浮ついた空気が漂う朝のショートホームルーム中、先生がやってきて開口一番にそう言った。

その一言に周囲は一段とざわつく。


「やっぱり噂通りじゃん!」

「男かな、女の子かな?」

「女の子だったら美少女だといいなぁ」


そんな三者三様な反応が聞こえてくる。

僕はただ席に付き、興味の無い感じを装う。


「それじゃ小雪ちゃん、入って」


担任の女の先生がドアに向かって言うと、ドアを開いて女の子が入ってきた。

その子は、まるで作り物のように完璧で、整った容姿は愛らしく、それでいて守りたくなるような儚さのようなものを感じられる。

腰ほどまで届く長い黒い髪は、しっかりと手入れがされているのか、艶があり、バサつくことなく整っている。


「じゃあ、自己紹介をしてね」

「はい、わかりました」


生徒全員が彼女の一挙手一投足に注目して、静まり返る。

先生が彼女の名前と思われるものを書く。


「蒼井高校から転校してきました、彼方小雪です。よろしくお願いします。そして……」


そういってから彼女は間をおいてから再び口を開く。


「――錬太郎くんの彼女ですっ!」

「……はっ?」


彼女は転校早々、そんなことを口走った。

周囲の目が僕を向く。


「え、ええと、それは本当なの、小雪ちゃん?」


先生が困ったように小雪に聞いている。だが小雪は先生の質問を無視して僕の目の前まで歩いてくる。


「ねえ! これでいい?」

「ちょっ……!?」

「いいよね! 私、君の彼女だもんね!」


小雪はにこにこと満点の笑みを浮かべて言う。

周囲の人からしたら何を言っているのかわからないだろう。

だが僕は、めちゃくちゃ焦っていた。この展開は予想外、まったくもって想像していなかった。


「あ、あのー、小雪ちゃん? とりあえず席を決めていいかな?」


先生は何も言えずにいる僕に助け舟を出してくれた。非常にありがたい。


「はいっ、錬太郎くんの隣で! よろしくおねがいします!」

「え、ええと、それは難しいかな?」

「隣にしてくださいっ!」

「え、ええと……わ、わかったわ……」


小雪の有無を言わさぬ雰囲気に押され先生は諦める。


「……小雪、ちょっと後で話そうか」


僕が小声でそう言うと、


「なになに、逢引?」

「ちがう」

「えーでも恋人が二人きりでこっそり会おうなんて逢引以外なんてないよね?」

「……ああもう、わかったよ」


小雪はうんうん、とうなずいて、


「先生、私の席が隣ならこの子にどいてもらっていいですよね?」

「え、そ、そう、ねぇ……ごめんね朱音ちゃん、席をこっちに移動してくれないかな?」

「……わかりました」


僕の隣の席だった朱音さんはどこか不服そうにしながら指定された席へと移動する準備を始める。


「じゃあ、私はカバン取ってくるね!」


小雪はそう言って教卓の近くに置いておいたカバンを取りに行った。

……非常にまずいことになった。まさか小雪がこんな行動に出るだなんて、思いもいもしなかった。

小雪は、僕が『造った』彼女だ。

夏休みの間研究に研究を重ね、ようやく完成した彼女。

彼女には一般教養と言われるものは全て備わっており、僕の彼女として生きるために生きている。

だからこそ、「私は錬太郎くんの彼女です」だなんて言うとは思いもしなかった。常識を教えた以上、常識はずれな行動はしないと思っていたから。

小雪をこの高校に転校という形で入学させるのにめちゃくちゃ苦労したのに、このままではもしかしたらそれが水の泡になるかも知れない。

それを防ぐためにも、彼女にこれからのことについて話をしないといけないだろう。

そう思いながら、僕は腕を枕にしてショートホームを乗り切った。

周囲の視線以上に、隣に座る小雪から見られていることになぜだかとても緊張を覚えながら。

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