最後の願い

砂川未明

第1話

 十年ぶりに降り立ったプラットフォームには、冷たい風が吹いていた。

 この駅に停まる今日最後の列車が昼下がりの空の下へ去って、無人の改札を出る。

 駅舎の外で、街並みを眺めた。僕の生まれた街は、はた目には十年前と何も変わらないように見えるだろう。駅前にぽつんと佇む小さな古本屋も。横断歩道の消えかかった白線も。絵の具と水を配合するバランスを間違えて塗られたみたいに淡い色の青空も。

 たったひとつだけ、変わってしまったこと。それは、この街に住む人がみな消えてしまったことだ。ーーーー呪われた魔法を手に入れた、一人の少女を除いて。

 数日前に、その彼女から僕へメールが届いた。突然のことだったから、そのアドレスが僕の知る三沢夕莉花のものだと気づくまで、時間がかかった。

 『突然すみません、篠目真人さんで合ってますか?』

 うん、と僕が答えると、少しも間をおかずに返信が来た。

 『今すぐ、来てください』

 ただ一言だけだったけど、僕をここに向かわせるには十分だった。親の仕事の都合で東京へ引っ越してから、あの街で人が消えたという知らせを聞くたびに、をしてしまっていたから。そして、そんな想像を閉じこめるように記憶に封をしていたから。すぐに勤めはじめたばかりの会社に休みをもらって、新幹線と特急列車、それにローカル線を乗り継いで、やっと今日にたどり着いた。

 埃がかかっていた昔の残像が、鮮やかによみがえる。

 はじまりは、ほんのささやかな、そして切実な願いだった。



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