第28話 悲痛なおもしろ飛鳥
「なんでまたこんなところに連れて来たんだ」
車椅子を押されながら飛鳥は呆れでも怒るでもなく、ただの疑問という感じで言った。
「あー、あのね……実はオレ、遊園地ってあんまり来たことなくてさ。家、あんまり金なかったし。だから思い切り遊んでみたいっていう気持ちは前からあったんだよ。本当は兄弟達、連れて遊びに来てやりたいんだけどさ……ま、今回はその下見も兼ねてだな」
「……なるほど」
「あっ、だけど今回はオレも頑張って日頃稼いでんだから、費用的には全然問題なしだからな! あとアンタのこともオレがいるから問題ない。だからアンタも全力で楽しめよ」
そう言い切ると、飛鳥はそんなデカい態度に何も言えなくなったのか、肩をすくめただけだった。
自分は――今日は飛鳥に暗い考えを抱かせないと決めている。多分、飛鳥も遊園地とか行ったことないだろう。だから今日は自分も楽しんで飛鳥も楽しませるために、自分が主体にが決めてやるんだ。だって今日は仕事じゃないもん、プライベートだも〜ん。
(じゃあ、まずは何にしようかな)
周囲を見渡し、稼働している定番のアトラクション群を見ていたら久しぶりの遊園地に胸を踊った。
実はシュミレーションはしてある。スマホでこの遊園地にはどんなアトラクションがあって、どれなら飛鳥も乗れそうかを事前に調べておいた。ジェットコースターにも乗って気分爽快にブワーッとやってやりたいところだが。
「けどねー、残念なことにジェットコースターだけは乗り場に行くまでに階段上がんなきゃいけねぇんだよ。その階段、結構長くてさすがのオレでも上までは担げねぇんだ、悪いな」
飛鳥は「別に気にするな」 と言っただけだった。そんなの当然だろ、という含みを感じる分、これ以上は飛鳥を失望させてはならない、という気にさせられる。
「だから飛鳥さん、アレは乗るぞ」
大翔は飛鳥に見えるように人差し指を突き出し、前にあるアトラクションを指差した。そこには長い棒――棒の先に丸い振り子と、その反対側に大きな船のような乗り物がついたアトラクションがある。船の部分が緩やかに左右に揺れているだけかと思いきや、ジッと観察していたらだんだんと振り幅が大きくなり、振り子と反対側にある船は気づけば真横に。そして斜めに、挙句の果てには真っ逆さまに、そのまま一回転をしていた。あれは乗客が真っ逆さまになる絶叫マシンという部類だ。
「アレだったら車椅子を行けるとこまで押せば、あとはオレが担いでイスに乗っけてあげられるぜ」
「いや、ちょっと待て」
飛鳥は珍しく、あせったような声を出した。
「別に俺がアレに乗らなければいけない理由はないだろう」
「なんだよ、飛鳥さん。怖じ気づいてんの? いつもエラそうなのに」
飛鳥が少しムッとした表情を見せた。
「そういうわけじゃない。ただ、なぜ俺がアレに乗らなければならない。乗ったこともないし、乗る意味があるのか。そして乗ってどうなるというんだ」
「どうなるかは乗ってみりゃわかる」
グチグチと言い出した飛鳥の小言は無視することにして車椅子を押し、そのアトラクションの前に向かった。受付の人に「この人の搭乗は自分がやりますから」と言って優先的に乗れるようにしてもらい、一般の列とは違う、広めの待機場所で順番を待つ。
これも人気アトラクションの一つだから、列はそこそこ並んでいる。でもあと二回ぐらい回転を待てば順番がくるだろう。その間にもアトラクションがブォーンと風を切る音を鳴らし、みんなが楽しんでいる絶叫を聞きながら、飛鳥は気乗りしない感じでアレを見上げている。
「飛鳥さん、マジで怖じ気づいてる?」
「……違う、乗ったことないから感覚が予想できないだけだ」
「別に死にはしないぞ」
「わかっている、だが俺にはお前と違って踏ん張れる足がないんだ。それがどれだけ不安なのか――」
「じゃ、オレの手をつかんでろよ。思いっきり、つかまっていいからよ」
四の五の言う飛鳥にそう言うと、飛鳥はアトラクションを見上げたまま、言葉を忘れたかのように何も言わなくなってしまった。
(飛鳥さん、ホントに怖いのかもしれない。まぁ乗ったことないって言うから、それはそうかもしれないけど)
「だーいじょうぶだってば。飛鳥さん」
自分も一緒になって上を見上げると飛鳥がこちらをチラ見したのがわかった。まだ四の五の言いたいのかな。
そんな中でもアトラクションは容赦なくグルグル回る。ジェットコースターに比べたら優しい気もするが、初体験としてはやはり刺激が強いかもしれない。
そして順番が回ってきた。車椅子を押してスタッフの誘導に従い、車椅子をアトラクションの座席付近に横づけする。
そして昨日何回もやった移乗介助を行い、飛鳥をアトラクションの座席に乗せた。
ここまでやればあとはスタッフが行ってくれる、飛鳥は相変わらず顔色が悪いが気にしないでおこう。
飛鳥の隣に自分も搭乗し、続いて他のお客さんも続々やってくる。定員がいっぱいになったところでスタッフが案内を流した。セーフティバーが順番にスタッフによって下ろされ、頭と首が固定される。
ふと飛鳥を横目で見ると、彼は眉間にしわを寄せていた。
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