第94話 赤珊瑚と桃珊瑚の見た思い(12)

 夜の静かな世界が、みなもと桃瑚売命とこのみことを包む。静かな時間が過ぎる。


「夜神が気を利かしたようじゃ」


 みなもが桃瑚売命を見つめる。


赤瑚売命せきこのみことより私を選ぶとは、随分と自信があるのね」

「自信もなにも儂は戦いが苦手じゃ。赤瑚売命が火の神と話がしたいというので、それに応えたまでじゃ」


 落ち着き答えるみなもに桃瑚売命の目が険しくなる。


「さすが水の神。瞬時に思いを見抜く力。恐ろしいね。そうか、水波野菜乃女神妹みずはのなのめかみいも。水波野菜乃女神の力そのものよね。あっ、いまは水面野菜乃女神みなものなのめかみね」

「どちらでも良いぞ。儂は姉さに憧れておる。姉さに成りたくても成れぬからな。もとの名でも気にならぬ。むしろ嬉しく思うておる」

「その物言い、気に入らないね」


 みなもを食えない奴という目で見る。


「すまぬな。話をもとにもどすぞ。赤瑚売命が火の神と話したいのは、分かっておる。じゃが、儂と話したいという声もあったのでな。それで、ここにおる。何を話そうかのう。桃瑚売命。


 桃瑚売命が目をつり上げながらも、笑みを浮かべる。


「そうね。いろいろ、教えてほしいこともあるかな。だけどまずは、これだ!」


 桃瑚売命がみなもに向かい、桃色の鞭を放つ。


 シッッッッ!


 空を切る凄まじい音を突き抜けて鞭が、みなもを襲う。みなもが青い光を放つと、たちまち水玉となり弾け飛んだ。桃瑚売命はすぐさま無数の鞭を出現させて放つ。みなもは宙を舞うと、打たれる鞭を全て水玉にして弾き飛ばしていった。


(水の神、法術も武具による攻撃もいっさい受けつけない。だけど水の神とて無敵ではない。さて、いつまでもつのかな)


 桃瑚売命は、幾度も幾度もみなもに鞭を打ち続ける。その度にみなもは弾き飛ばしていく。


(真正面での防戦。戦い方が幼いな。そんな戦い方では)


 桃瑚売命は防戦に徹するみなもを見ながら、不敵な笑みを浮かべる。次の瞬間、四方八方からみなもに向け鞭を放った。


 不気味な音を立て鞭が生き物のようにみなもに襲いかかる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る