第78話 泣いているんだね。もういいんだよ(2)
絡みついた糸は強く張り付き簡単には引き剥がせなかった。引きずられながらでは、なおさらである。
「私たち食べられちゃうの?餌になる」
「ここで狩りをするとは思えないです。ひょっとしたら、邪魔をしているのかも」
「邪魔?」
真奈美の言葉に実菜穂は余計なことを言ったと反省して、口を押さえた。
(そうだ。邪魔をしている。琴美ちゃんの御霊を取り返されたら困る者。死神が倒そうとしている神の仕業なのかな?なら、さっきの邪鬼も。死神は何のためにその神を倒そうとするのか……。同じ神でありながら。でも、まともな神が邪鬼に人を襲わせるだろうか)
実菜穂の頭に解答がうっすらと浮かんだ。だが、それは目の前の現実逃避にしかならず、その現実が浮かんだ解答を白紙に戻した。
ズルズルと二人は蜘蛛のもとに引きずられていく。蜘蛛はさらに糸を絡ませ、二人の両足は完全に自由を失った。
ゆっくりと手繰り寄せられていくなか、二人は初めて蜘蛛の顔をまともに見た。神様と認めたその顔は二人の知る蜘蛛ではなかった。一番に感じたのはその瞳だ。まるで人のような瞳。そして自分と同じような年頃だということ。もちろん、そんな確証はどこにもない。でも、二人にはそうとしか見えなかった。
「ちょっと、私たちを食べてどうするの?」
真奈美が蹴りを入れるように両足をピコピコさせ、蜘蛛を睨む。蜘蛛はそんな真奈美の態度に驚いたのか、動きを止めて必死にもがく姿を見ていた。
(何をしているのかな?襲っているはずなのに、のんびりした感じ。やる気があるのかないのか?)
実菜穂の頭の中に蜘蛛の不自然な動きがヒラヒラと舞っていく。
蜘蛛が実菜穂の視線に気づき、キッと険しい表情をする。意を決したように動き始め、二人を一気に引き寄せようと糸がグッと張ったそのとき、真奈美の左胸にあるポケットが光った。
「真奈美さん。ポケットが光ってる」
実菜穂が真奈美に叫んだ。
真奈美もその光に気がつき、ポケットに手を入れた。
(ポケットには確かあれが入っていたはず)
真奈美が白く光るものの正体を取り出した。
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