第57話 神と人の御霊(9)
しばし、静かな間がこの世界を包んだ。実菜穂の声が再び世界を動かした。
「紗雪、一つ教えて欲しいことが。紗雪からユウナミの神に会うための御札を頂きました。聞けばこの
実菜穂は紗雪の雰囲気がどうしてもみなもと違うことが気になっていた。紗雪は静かに瞼を開け実菜穂の顔を見ると優しく答えた。
「語り出せば長くなります。ただ、この件に関しまして、私は
紗雪は遠くを眺めるような目で野原を見ていた。その顔はやはり神という雰囲気とは少し違うなと実菜穂は思った。
「じゃあ、なぜアサナミの神とユウナミの神が関わるのか?気になりますよね」
紗雪はまた笑った。実菜穂も陽向もすべてを見透かされていることに笑うしかなかった。
「実は私には、紗雪の上にも名があります」
「姓ですか?」
実菜穂が聞くと紗雪は頷いた。
「はい。
「白瀬川紗雪……まるで人みたいな名前……!」
実菜穂の素直ともいえる驚く表情に紗雪は包むことなくその言葉を受け入れ、見つめ返した。
「はい。私は半分人なのです。私の母は太古神である雪の神。父は武家の
紗雪は氷の器に目を落とすと、悲しみ、怒り、憎しみ、どの色ともいえぬ暗く濡れた光をその瞳に宿した。
「私は、母を見放した人というものをどうしても許すことができませんでした。水面の神は母の思い、私の神としての立場を案じ止めましたが、気持ちが収まらない私はその心を闇に落とし人へ復讐をしました。
紗雪は笑いながら、カラカラとまるで賑やかな昔話のように説明すると、実菜穂も陽向もその表情と態度にはもう混乱して、目をパチクリさせていた。
(それで、神様だけの雰囲気ではなかったのか……)
実菜穂は紗雪の人なつっこさに心が惹かれて仕方なかった。
「だとすれば紗雪は神と人の両方を知っている。いや、力を持っているということ……」
「陽向ちゃん。それって、もしかして」
実菜穂の言葉に陽向は確信して頷いた。
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