第54話 神と人の御霊(6)
紗雪は真奈美が消えた先を眺めてから、実菜穂と陽向にその目をゆっくりと向けた。
「さっき私は少し話をはぐらかしました。真奈美に直接伝えるには時期が悪いと思いまして」
「何かあるのですか?」
陽向が紗雪の言葉に反応した。
「風の噂ですが、死神が巫女をとったようです」
「巫女!」
実菜穂と陽向は口を揃えた。
「そうです。陽向ならその意味が分かることでしょう」
紗雪の言葉に陽向は真顔で頷いた。
「巫女って、陽向ちゃんも巫女でしょ。死神も神様なのだから
実菜穂は何が問題なのか分からずにスットンキョウな声をあげた。紗雪は頷き、実菜穂の気持ち解すように優しい瞳で包んだ。
「たしかに陽向も巫女です。だけど、それは日御乃光乃神の社の巫女。死神がとったという巫女は、死神に仕える巫女のことです」
「紗雪、あーっ、えっと、二つの巫女は何が違うの?」
実菜穂は固まったまま笑顔で首を傾げてみせた。その仕草を見て、紗雪はクスリと笑った。
「実菜穂が分からないのはもっともです。本来、巫女とは神の声を聞き、神の姿を見ることができる人。神の声を氏子に伝えるのが役目。しかし、いつしか社で奉仕する者のことを巫女と呼ぶようになりました。陽向はこの社で奉仕する巫女です。けれど死神がとった巫女は、自分の声を聞き、その姿を見ることができる巫女」
「ちょっと待って。死神がとった巫女って、それってもしかして琴美ちゃん……てこと」
白銀の瞳が実菜穂を捉えた。その瞳に実菜穂は突き刺さるような極寒の空気を感じた。
「そうです。琴美です」
「どうして琴美ちゃんは死神の巫女になったの?」
実菜穂がすかさず聞いた。
「先ほど私が言ったことを憶えていますか?あり得ないことが三つ重なったという。それが琴美を巫女とするきっかけになりました。琴美は神の眼を持たずに生きていながら死神と話し、姿を見ることができた人。死神と御霊の鼓動もかなり合っていたことでしょう。おそらく、死神は琴美に取引を持ちかけたと思います。琴美の思いがとげられたとき、死神の巫女となることを約束したのです」
「約束……?」
「はい。琴美が再び人の世界に戻ることができれば、死神の巫女となるという約束」
「いやいや、待った!それじゃ、琴美ちゃん意味ないんじゃないの。もともと死を思いとどまったのに」
実菜穂はなおも食いついた。紗雪はごもっともと言う顔で聞いていた。
「琴美が願ったのは、ただ人の世に戻るということではありません。琴美が望んでいること。それはいま真奈美が見つけようとしている答えなのです。もっとも、水面の神はとっくにお見通しでしたが」
紗雪の瞳が凍りつくよな鋭さから一変し、実菜穂を再び優しく包む。実菜穂は、その眼を見てみなもの言葉を思い浮かべていた。
(真奈美さんが待っていること……)
実菜穂の思いを感じて紗雪は頷いた。
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