第24話 絶望をしたときに期待されているもの(5)
真奈美は呆然と頬を抑えていた。陽向は実菜穂がいた席に移った。
「本当は私が頬を打つつもりでした。だけど、実菜穂ちゃんの方が早かった。痛かったですか」
陽向は、落ち着いて優しく語りかけた。真奈美はまだ頬を抑えている。
「実菜穂ちゃん、真奈美さんに応えて欲しかったんです。『あなたに言われるまでもない!』ってくらいの勢いで応えて欲しかったんです。なぜだか分かりますか?」
陽向は、優しく真奈美の頬を撫でた。その指先は柔らかく少しヒンヤリとしていた。頬の赤みが薄れていく。真奈美はゆっくりと首を横に振った。
「実菜穂ちゃん、琴美ちゃんと似ているんです。ほんの1年前までは、実菜穂ちゃん学校には居場所がなかった。学校だけじゃなくこの街にもどこにも。慣れない土地に越してから一人だった。そして、消えたいと思っていたの。でもね、そのとき会いたいと思う友達がいたの。小さいときに仲良くして、笑って過ごせていた時間をくれた大切な友達。実菜穂ちゃんが、消えたいと思ったとき、その友達が実菜穂ちゃんの前に現れたの。そして消えていた灯火に灯りをくれた。実菜穂ちゃんは、本当に救われたの。小さな灯りに。だから実菜穂ちゃんが言った、『琴美ちゃんは震えて待っている』っていうのは、あれは実菜穂ちゃんが実感した思いなんです」
真奈美は、陽向の言葉に動揺した心が落ち着いていくのを感じた。真奈美自身も一人の時が多かった。無理に周りに合わせることを好まなかった。でもそれは、自分が好きでしていること。一人が苦となることはなかった。でも、心は妹を追っていた。なぜだか分からないけど、琴美の中に自分の居場所があるような気がしていた。いま陽向の言葉にそう感じている自分がいた。
「真奈美さんが話してくれた祠の神様の言葉を今から伝えます。もし、思うことがなければ私の戯言と聞き流してください。琴美ちゃんの御霊を刈り取ったのは
陽向は、真奈美の瞳をみつめ、微かに声を震わせて振り絞るように囁く。
『たすけてお姉ちゃん』
「ウワァッーーーーーーーーーー!」
真奈美は叫び声を上げると、瞳は一気に赤くなった。そして次の瞬間、机を思いっきり叩いた。
教室の生徒は、再び注目する。
真奈美の様子を見て、陽向は優しく声を掛けた。
「私も実菜穂ちゃんと一緒に行きます」
そう言うと陽向は席を立った。真奈美は、陽向を追いかけて腕をつかんだ。
「陽向さんお願い。私も実菜穂ちゃんの所に連れて行って」
陽向はうなずいて優しく笑った。
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