第3話 門を守る神(2)
実菜穂と陽向は、中庭のベンチに座っていた。その横には二人を挟んでみなもと火の神が座っている。側にオリーブの木があり、伸びた葉が、緩やかな日陰を作っていた。実菜穂と陽向の周りには、自然と人も集まってくる。学校では当初から二人の舞は知れており、ちょっとした有名人であった。今では誰でも話しかけてくるのは見慣れた光景であるが、二柱がいるときは話しかけてくる人はいなかった。
みなもは、海苔が巻かれた三角おにぎりを笑顔で頬張っている。実菜穂が自分の弁当と一緒に作ったものである。具は梅干しで、いろいろ作って食べてもらった結果、みなもはこれが一番のお気に入りだった。火の神は幸せそうに食べるみなもを笑って見ている。実菜穂も陽向も笑顔になってしまった。
「みなもは、ご飯とパンならどっちが好きなの?」
実菜穂が自分のおかずの卵焼きを切り分けて、みなもに渡しながら聞いた。
「パンも良いが、儂は米が好きじゃな。たいていの神は米じゃないかのう。のう、火の神はどうじゃ」
「いや、この地の神はパンなど食ったこと無かろう。食っとるのはお前だけだぞ。まあ、俺も麦酒よりは米酒の方が良いが」
「何で酒なのじゃ……?」
みなもは、呆れた顔をして火の神を見た。
「奉納されるからだ。神謀りでも飲むのは米酒だ」
「お主はあほうか。聞いておるのは、食うものじゃ。あー、それにしてもあの神謀りの酒盛りは何とかならぬかのう。いつも退屈だし、うるさいだけじゃ」
「そうだな、今も変わらんな。意外だと思うが、
「あの奥手で大人しい夜神が?末座の席にいた頃に儂の前で怒って、泣きよった姿が最後の記憶じゃから想像つかんのう。それにしても、何であのとき夜神は怒ったんじゃ」
「お前はそうだろう⁈って、お前、本当に分かってないのか」
火の神は驚いてみなもを見た。みなもは、その顔を見て納得していない表情で考え込んでいた。
「陽向ちゃん、みなもと夜神って何かあったのかな?」
実菜穂が陽向に耳打ちをした。
「今度、こっそり氏神に聞いてみるよ。今聞くと、何か後引きそうで……」
陽向の答えに実菜穂はうなずくと、二柱をなだめるように話した。
「じゃあ、みなもも火の神もお米が好きなんだ。そうそう、アサナミの神へお礼参りに行ったとき、良い宿があったんだ。パンも美味しいけどご飯のメニューも多かったよ。それにアサナミの神社の周りには、いろんな神様の社があるんだね。みなもが案内してくれたらすごく助かるんだけどな。ご馳走するから」
「あー、それ良いなあ。私も行きたい!」
陽向が手をあげて、みなもを見た。みなももにこやかな顔で頷いていた。
「そうじゃな。母さの周りには、夜神、土神に卯の神もおったの。それに酒神、船神、鋼の神もいろいろじゃのう。母さにも挨拶せねばな。火の神も一緒に参ろうぞ」
みなもが火の神に言うと、火の神は動揺しながらも頷いていた。
「そうじゃ!今日も実菜穂たちに紹介したい神がおる。校庭のほんの隅じゃがな。気がついておったか?」
みなもと火の神は、顔を見合わせてから二人を見た。実菜穂と陽向は目を輝かせて、案内してくれるようお願いした。
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