第9話「創造主さまが学校に通うようです」
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土曜日、日曜日、そして今日は月曜日。
俺はあの部屋で三度連続で目を覚ました。
「やっぱり夢じゃないのか……」
認めなくてはならない。
俺はこの世界に閉じ込められている。
そうでもなければ俺は長い夢を見ていることになる。
何日続くかもわからない長い長い夢を。
「……いや、まだだ。もしかしたら明日寝たら俺の部屋で目を覚ますかもしれない。いや夢だったなら突然目覚めることだって十分ありえるじゃないか」
俺は自分に言い聞かせるようにかぶりをふる。そんなネガティブなことばかり考えても仕方ない。
希望的観測に過ぎないが今はそう考えるしかない。
「創造主さまー?」
「ん……この声は」
コンコンという小気味いいノック音の後に扉越しに聞こえてきたのは有栖川みかんの声だった。
「はーい?」
「おはようございます! 創造主さま!」
「……あぁ、おはよう」
ドアを開けると満開の花のようなとびきり笑顔の有栖川みかんが現れた。
相変わらずの背中ほどまであるよく手入れされた艶やかな淡く青色がかった黒髪、全てを見通すような海のように青く深い瞳。油断すると飲み込まれてしまいそうだ。
「朝食の準備ができたので行きましょう!」
「あ、ああ。朝メシまで用意してくれるなんて至れり尽くせりだな」
「創造主さまも今日から我が有栖川家の家族ですから!」
「……はは、家族か」
家族か。
まさかみかんに家族と言われるなんてな思いもよらなかったが悪くない。
でもまるで俺がこの世界の登場人物の一人になったみたいだな。
「って創くん?」
「はい! 創造主さまでは長いですし、家族なんですからそう呼んでもおかしくないですよね?」
「おかしい気はするが──そうか……」
その後、俺とみかんは有沙が作った朝食を食べるべくリビングルームに集まった。
そこでの食事中にみかんと有沙が提案してきたのは俺の呼び方を創造主を短くして創と呼びたいというものだった。
たしかにそちらの方が自然だし外で創造主と呼ばれるのは抵抗があった俺には願ってもない提案だった。
「創くんだけに?」
「やめろ」
「ふふっ。では決まりですね! 創くん!」
「あ、ああ……」
有沙に少し茶化されたがまあいいだろう。
これなら俺も少しはここでの生活が過ごしやすくなる。
「それでは創くん。学校に行きましょうか」
「は? 学校って何を言ってるんだ? 俺は高校生じゃないぞ?」
「たしかに創造主さまは現実世界では高校生ではないかもしれません」
「だろ?」
俺は既に成人している。
だから高校生というのは色々と無理がありすぎる。
「でもこの世界では高校生です」
「え? そうなのか……?」
「はい。元々の物語も高校が舞台ではありませんでしたか?」
「そ、それはそうだが……」
こいつどこまで知ってるんだ? まるで見てきたかのような言い方だ。
でもたしかにみかんの言う通り、本来の有栖川みかんたちが織り成す物語は高等学校が主な舞台になっている。
だから物語の性質上高校に行かなければならないのはわかる。
わかるが、なぜ俺が高校に行く必要がある? 物語の登場人物ですらないこの俺が。
「では決まりですね! さあ創さま、こちらに。この有沙がメイドとしてお着替えをお手伝いいたします」
「いや、それなら自分で」
「有沙お姉さま? それは
「そういうわけにはいきません。私には創さまの着替えをお手伝いするという大役が」
「ですからその大役は私がやると申し上げているのです」
なんだかめんどくさいことになってきたな。
ここは一筆書いて着替えにいくか。
"俺は先に着替えて外に出ています"っと。
「よし、こんなものか」
メモ用紙を破り、それに一言書いてテーブルに置いておく。
そして自室に戻って着替え、鞄を持ち、通学用の靴を履いて外へ出る。
「ふう……俺が学校か。しかも俺の創った世界で。なんだか奇妙だな」
有栖川屋敷の門へ歩いていく。
門外へ出るまでに結構な時間がかかる。
道がわかっていて普通に歩いても三十分くらいはかかるか。
「あ、創! おはよう!」
「は? 創って。なんで鏡花、お前が」
「なんでって一緒に学校に行くために決まってるでしょ?」
「……だからどうして俺が学校に通うって知ってるんだよ」
有栖川屋敷の門前に着いたとき、そこには見覚えがある赤髪が目に飛び込んできた。
そいつは誰がどう見ても暁鏡花だ。
しかし拭い切れない違和感を感じずにはいられなかった。
「どうしたの創? 毎日一緒に通ってるんだから知ってるに決まってるじゃない」
「ま、毎日? 俺たち、金曜日会ったよな?」
「金曜日……? あ、創。あのときは助けてくれてその、ありがとね」
「あ、ああ……」
話が嚙み合っているようでまったく噛み合わない。
鏡花はまるで俺の知らない俺を知っているかのように話す。
先ほど、俺はたしかにみかんとこれから学校に通うことを話した。
なのに鏡花はまるで俺が最低でも三ヶ月以上は学校に通ってるかの
ような口ぶりで話す。
そのことがどうしようもなく気味が悪かった。
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