第7話「創造主さまのところにお姉さんメイドやってきた!」

「しかしだいぶ疲れたな」


「創造主さま、こちらが創造主さまのお部屋です」


「用意してくれたんだな……悪いな」


 有栖川みかんはとある部屋のまで立ち止まり言った。

 どうやらこの部屋が俺の部屋になるらしい。


「カギはこちらです」


「ああ、さんきゅ」


 みかんから部屋の鍵を受け取る。

 やたら古めかしい感じだ。

 古いホテルの鍵といった印象を受けた。


「創造主さま、お風呂は沸いていますから。いつでも入っていいですからね?」


「ああ、わかった。ありがとな」


 みかんはそれだけを言い残すと去っていった。

 俺はとりあえず部屋の中へ入ることにした。

 鍵は掛かったままだったので部屋の鍵を使って解錠する。


「部屋の中は普通だな」


 部屋にはベッド、クローゼット、タンス、勉強机、椅子などはあったがどれも最低限の備品といった具合で特に変わったものはない。


「風呂に入るったって何もないんじゃ」


 クローゼットの中を見てみると上着やら防寒具が掛けてあった。

 クローゼットの隣にあるタンスが目に入ったのでタンスの戸を引くと男性用の下着やタオル、肌着などが収納されていた。


「サイズもピッタリだ」


 怖いことにその全ては俺の体にフィットするサイズだった。

 俺、教えたことあったか? そう思えるくらいに品揃えが充実していた。


『創造主さまが望めばきっとなんでも叶います』



「まさか、な」


 俺はみかんが言っていた言葉を思い出していた。

 あいつの言葉が正しいならこれもその一端なんだろう。

 いや違う。

 これは夢だ。

 夢なんだ。

 だから寝てしまえば俺はまたいつもの部屋で目を覚ますんだ。


「寝てしまおう……」


 こんな夢とはおさらばだ。

 じゃあな、有栖川未完。

 じゃあな、俺の創作世界。

 俺はベッドにうつ伏せになるように飛び込み、そして眠りにつく。








「創造主様、創造主様。お目覚めください」


「ん……だれ、だ……?」


 誰かが俺の体を揺すって起こそうとする声がする。

 ゆっくりと目を開けるとそこにはメイド服を着た女が立っていた。

 その女はみかんの近くに控えていたメイドだ。

 なんだ、これは。

 俺は夢の中で夢を見ているのか?


「有栖川有沙でございます。創造主様」


「あ……? 有栖川有沙?」


 段々と頭が覚醒してきて目の解像度が上がっていくと共にこのメイドの正体がわかってきた。

 有栖川有沙ありすがわありさ

 水色髪のツインテールにフリルのついた猫耳カチューシャを頭に装着していてメイド服を着用し、下着に猫尻尾がついているタイプのやつを穿いているのだろう。

 お尻辺りに猫尻尾がゆらゆらと動いていた。

 左目は水色、右目は赤色のオッドアイという中二感を詰め合わせたようなキャラクターで、彼女は有栖川屋敷のメイドに混じってメイドをしているというイカれた有栖川みかんのお姉さんだ。



「はい! 有栖川有沙ですにゃん!」


「あははは……」


「にゃんにゃん!」


「……な、何か用か?」


 このイカれたお姉さんは両手を甘く握り拳を作るようにして、にゃんにゃんと猫ちゃんポーズをする。

 これをみかんが見たらどう思うだろうか。

 俺はとりあえず有沙に何しに来たのか聞いてみることにした。


「ご主人様がなかなか起きて来ないから有沙が起こしに来たのですにゃん」


「ご主人様じゃないんだが」


「にゃん?」


「そんな、え? みたいなノリで言われてもな……」


 猫耳メイドさんモードのこいつはなかなかに手ごわい。

 早く内容を聞いて退場してもらわねばメイドカフェのノリは俺の精神が保たない……


「ご主人様はお風呂に入らないのですかにゃ?」


「ああ、入るよ。少し疲れたから仮眠を取ってただけなんだ」


「なるほど、そうでしたか。にゃ!」


「…………」


 有沙がニコニコ笑顔を振りまきながら取ってつけたように言った猫語に俺はツッコミたい衝動を抑える。

 落ち着け俺。

 俺は風呂に入る。

 それだけで良いんだ。


「それではお風呂場に行きましょうですにゃ!」


「おう、行くか」


「にゃんにゃん♪ にゃんにゃーん♪」


 俺はベッドから立ち上がり、着替えを取るべくタンスに近寄ってタンスを開けて必要な着替えを取り出す。

 その間にも有沙は俺の後ろで、お尻をふりふりしながら歌うように猫語を口ずさんでいる。

 それがちらちら目に入ってきてしまう。

 というか、見てしまう。

 我が娘ながらなんて可愛いんだ。

 あざとい、あざといぞ有沙!


「さ、さあ風呂に行くぞ」


「レッツラゴーですにゃ!」


「お、おう」


 俺は有沙に翻弄されながら部屋を出る。

 まあここでお別れになるからいいか。

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